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「地震や津波は止められない。でも原発は止められる」原発周辺住民が要請

 地震に関する新知見がまとまるまで、1)新規制基準の適合性審査や使用前検査を凍結してください、2)稼働中の原発を動かさないようにしてくださいと、原発周辺に暮らす住民が原子力規制委員会に求めた。

 2月2日、その要請書の提出に集まったのは、石川、新潟、福井、宮城、茨城の住民。「山中規制委員長に直接、話を聞いてもらいたい」と求めたが、要請の場に出てきたのは、原子力規制庁職員だった。


石川県から「リスクを回避できない地震学の限界」

 石川県珠洲市からZoom参加した北野進さん(中止された複数の珠洲原発予定地から5キロ圏内等)は、「今回の能登半島地震は、3年前からの群発地震が引き金になったと言われている。20キロ離れた断層が連動したとも。新知見だ。志賀原発の敷地内断層の影響、隆起がなかったのかなど分析が必要。原発に内在するリスク、リスクを回避できない地震学の限界、原子力規制委員会の限界を直視すれば再稼働はありえない」

新潟県から「避難の必要な発電施設は要らない」

 新潟県刈羽村から駆けつけた近藤ゆき子さん(柏崎刈羽原発から2キロに居住)は、「柏崎刈羽原発は、『豆腐の上の原発』と言われてきた。中越地震、中越沖地震を経験した者としても今回の地震は怖かった。柏崎刈羽は世界最大の原発。中越沖地震は『最後の警告』と言われていたのに、東電は1F事故を起こした。避難の必要な発電施設は要らない。東電は1月30日には柏崎刈羽の説明会を開いたが、再稼働のためのアリバイづくりだった。未来の子どもに安心して住める柏崎刈羽を引き渡したい。裏庭に原発をかかえる者からの切なる願い」

2024年2月2日、衆議院議員会館にて筆者撮影

福井県から「福井では7基、40年を超えた老朽原発が3基動いている」

 福井県若狭町からの石地優(いしじまさる)さん(美浜原発、大飯原発、高浜原発から30キロ圏内に居住)は、「敦賀、美浜と大飯原発の間に住んでいる。震度4。原発は大丈夫かと感じる長い地震だった。福井では大飯、高浜で5基が動いていた。今は7基。40年を超えた老朽原発が3基動いている。なんで止めんのか。半月後の1月18日には、定期検査で止まっていた美浜原発を再稼働させた。人の命を守る規制庁がなぜ止めと言わんのか。能登半島と若狭湾はすぐ近く。ウチは美浜から15キロ弱。真下に三方断層があり、歴史的には3.6メートルの隆起があったと国の報告書には出ている。隆起は能登半島だけではない。美浜原発のすぐ近くにはC断層が海域で潜っている。こんな所に住んでいる私たちの思いを関西電力も規制庁もなんで理解してくれないのか」

要請取材後、「三方断層」や「C断層」の位置を確かめようと資料を探してみると、美浜原発がいかに断層の巣窟の中にあるかが分かった。出典:「美浜発電所3号の 審査結果について」原子力規制委員会

 福井県高浜町からzoom参加の東山幸弘(ゆきひろ)さん(高浜原発から4キロ、大飯原発から15キロに居住)は、「原発ができて以来、2度目の大きな地震だった。1995年の阪神淡路大震災と今回。海岸沿いの住民に津波避難の指示が出されたのは初めてのこと。7基のうち5基が運転中だったが、揺れの中でも緊急停止しなかった。恐怖でしかない。原発との共存共栄をいうが、日本国内すべての原発は止めて廃止すべきだ」

宮城県から「宮城沖地震の発生確率は70〜90%」

 宮城県女川町からZoom参加の阿部美紀子さん(女川原発から8キロ)は、「雄鹿半島は、以前からずっと地震の多発地帯。東日本大震災(3.11)当時、津波は14.8メートル、最大浸水高が18.5メートル、最大遡上高が34.7メートルだった。各地のモニタリングポストは放射線の測定ができないまま、原発の状況がわからなかった。3.11当日、外部電源4系統のうち3系統が電源喪失。1系統だけで動いていた。修復したが4月7日の余震でまた4系統のうち3つが電源喪失した。危うい状態だったが私たちは知らなかった。
 地震による地盤沈下、地盤沈下による冠水、道路寸断。島民は離島、避難。何千ものひび割れた起きた原発。このような原発を再稼働するのは許せない。宮城沖地震の発生確率は70〜90%になった。このような中で女川原発を再稼働すべきではない。今、東日本大震災の震災後ではなくて、新たな震災前ではないかと危機を感じている。子どもたちに逃げなくてもよい町を残したい。」

2024年2月2日、衆議院議員会館。規制庁は「写真お断り」だというので後ろ姿を筆者撮影

茨城県から「東海第二は防潮堤が施行不良だと内部告発で分かった」

 茨城県ひたちなか市から参加した荻(おぎ)三枝子さん(東海原発から10キロ)は、「東海原発差止訴訟の原告の一人。1月31日に行われた集会で「能登半島地震を踏まえて原子力災害対策指針を見直すことは考えていない」と原子力規制庁が回答したのを聞いて衝撃を受けた。再稼働ありきで動いているとしか思えない。
 東海第二原発は今年9月に使用前検査があるが凍結してください。この間、防潮堤の北門、南門の扉が施工不良だと、内部告発で分かった。ところが、規制庁が使用前検査で十分だと言っている。30キロ圏内には94万人が住んでいて避難できない。基準地震動が、策定時270ガルから新規制基準で1009ガルに引き上げられたが、家の耐震基準は最大約5000ガルまである。どういうことか。
 事業者の日本原電は、2023年に3件、2024年に4件の火災を起した。品質管理能力がない、工事施工能力がない。規制委員会は、住民が避難しなくて済むよう使用前検査を凍結してください。

石川県から「地震の科学は発展途上なんだ」

 石川県金沢市から参加の中垣たか子さん(志賀原発から60キロ)は、「金沢は今回の震源から直線距離で100キロ以上離れているが、直下の活断層が動いたかと思ったほど。最大震度7が志賀町と報じられ、志賀原発から11キロ北だった。今回分かったのは、地震の科学は発展途上なんだなということ。
 奥能登では群発地震が続き、地震学者がいろいろな観測機器を持ち込んでいる。それでなお、マグニチュード7.6で、震源が浅い、陸海の境のところで津波が起こりうるという予測がされていなかった。分からないことがまだまだあると考えるべきだ。
 はっきりしたのは、大地震が引き金で原発事故が起きた時は、避難なんて不可能。避難計画が機能しない。もともと5〜30キロな屋内退避してください、線量が高くなったら避難開始してくださいという計画で。計画があっても名前だけ。避難できない、避難させない計画になっている。

「規制委員会のお仕事って何だろう」

 大地震が起きたら逃げられないし、屋内退避しろと言われても建物が壊れている。本当に規制委員会のお仕事って何だろうと疑問になり、規制委員会設置法の目的や任務のところを読んだ。国民の生命、健康、および財産の保護、環境の保全に資するため原子力利用における安全を確保すると書いてある。果たしてこの任務を果たしているのか。改めて考えてやって欲しい。
 地震や津波は止められない。でも原発は止められる震災は避けられない。でも、原発震災を繰り返さないことは、原発を止めればできる。適合性審査をパスしたものも止めて欲しいし、これから審査するものも新しい知見がでてきたらと悠長なことを言っていないで。審査している間も、地震が起きる危険は残っているので、審査会合自体も使用前検査もきちんと凍結してください。
 各地から原発の近くに住んでいる方から声を聞いていると思うが、文書を1枚ピラっと出したということではなく、各地に出向いて公聴会を行うとか考えて。」

要請書提出を取り次いだ超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」からも(写真右から)阿部ともこ衆議院議員、笠井亮衆議院議員、松木兼公衆議院議員、近藤昭一衆議院議員らが同席した。

【タイトル写真】

アドホックに「自然発生的に集まった」(司会役を務めたアイリーン・美緒子・スミスさん)周辺住民は「原発周辺に暮らす地元の声を伝える緊急行動」として要望書を原子力規制庁に手渡した。原発30キロ圏内の住民を含む288名が賛同した。(2024年2月2日、衆議院議員会館、筆者撮影)

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