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核燃料の制御棒につながるケーブル接続部の即刻調査「指示」せず:高浜原発

高浜原発4号機(37歳)の緊急停止:考えるべき3つのこと 2023年2月8日
高浜原発4号機:ケーブル接続部の寿命を議論すべき 4月24日
原子力規制委「バスタブ理論は原発では取らない」発言の根拠 5月2日
を書いてきたことの続きです。

関西電力は、4月25日に3、4号機の運転期間延長認可申請を行ったと発表した。しかし、その前に原子力規制委員会がやるべきだったことがあるのではないか?

これまでのあらすじ(やや長い)

関西電力は昨年11月25日に「特別点検」などの結果、高浜原発3、4号機は「60年までの運転を想定しても問題がない」との方針を発表。ところが、わずか2ヶ月後に高浜原発4号機の警報が鳴り、原子炉が自動停止した(既報)。

「特別点検」で見つからなかった問題

自動停止の原因は、約90キロのケーブルがのしかかり、制御棒に電流を送るケーブルの接合部が引っこ抜けたからだと関西電力は推定。ケーブルがいつその状態になったのかはわからないまま、経年劣化ではなく、37年前の建設時の施行不良が原因だとした。

ケーブルの接続部が引っこ抜けた直接の原因が「推定」のままなのは、現物を取り出した確認をしていないからだ。

取り出さない理由は、「接続部は、樹脂で覆われていること等から状態を維持したままの分解調査することは容易ではない」という奇妙なもの。原子力規制委員会も現物の調査を命じていない(既報)。

ケーブル問題を放置したまま老朽原発の規制案を議論

現在、高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チームで老朽原発の規制する制度案を議論している。ケーブルの接続部の点検をどうするのか、果たして点検が可能なのかは重要なはず。チーム第1回会合から「ケーブル」は「①安全上重要な機器」に位置付けられている。取り出しての調査を行わない理由が全くわからない。

出典:高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム第1回 
資料4 発電用原子炉の規制制度の枠組み 

問題箇所の取り出しを命じない規制委員会

釈然としないので、4月25日の山中原子力規制委員長の会見で、関西電力が調査をしない奇妙な理由について聞いたが、回答は次のようなものだった。

○山中委員長 その理由については理由にならないと思っています。ただ、取り出してきちっと検査はしてくださいと。取り出すことに意義があって、調べることに意義がありますという、委員会でもそういうふうな発言をさせていただきましたし、杉山委員も同意見なので、樹脂に覆われているから取り出してその状態が保全できないので調べても意味がないという、そういうのは私は当たらないかなという、きちっと調べるべきだというふうに思っています。
○記者 おっしゃるとおりだと思うんですが、でも12月の定期検査のときでさえ取り出さないと(関西電力は)おっしゃっています。これは委員長、理解できますか。
○山中委員長 これはもう取り出す時期に取り出していただいてきちっと調べていただければいいと。他の部位については、取り出してどういう損傷があるか、あるいはないのかということについては調べてもらえればそれでいいというふうに思っています。
(略)
○記者 指示は出されませんか。
○山中委員長 特にその部分に、いつ、どういう検査をしなさいという指示は今のところ出すつもりはありません。
○記者 特定することによって何か不都合があるんだろうかと、ちょっと勘ぐってしまうんですけれども、要するに(略)劣化が起きていたと分かれば、今の運転期間を削除するという法案とは不整合が起きてしまう。
○山中委員長 それは全く関係ないです。高経年化だとは思っていません。(略)施工不良であるというふうに考えております。高経年化だとは考えておりません。

2023年4月25日の原子力規制委員長会見議事録

つまり、山中委員長は「樹脂に覆われているから取り出してその状態が保全できないので調べても意味がないという(略)のは、私は当たらない」と言いつつ、直ちに取り出す調査は指示しない。

山中委員長の「バスタブカーブを取らない」論の続き

上記質問の前に、「原発ではバスタブカーブ(初期故障期の故障率は高く→偶発故障期は低く→経年と共に摩耗故障期は再び高くなる曲線)を取らない」発言が山中委員長からあったことについて、論拠だと教えてもらった論拠には、50年以上(正確には49年以上)のデータは示されていなかったことまでは書いた(既報)。

長くなってしまったが、ここまでが、あらすじだ。

「バスタブカーブを否定するわけでは」

さて、念押しで、バスタブカーブを原発は取らないと言える根拠はないことの確認を、5月10日の原子力規制委員会委員長の会見で行った。

山中委員長「多分」「記憶」「全面的に否定するわけではない」

○記者 (略)委員長のおっしゃった調査というのは、IAEAが2017年にフランスで開催した原発の寿命管理に関する国際会議の報告書ではないかということで拝見しましたところ、これは別にIAEAの見解ではないということが明記されている上に、書かれている内容が、30年以上と40年以上を比較して、30年超過した原発よりも40年以上のほうが失敗率が少ないということが書いてあったりとか、その場合の要件、理由というのは、蒸気発生器とか原子炉容器ヘッドのような重厚な部品の近代化や交換がされていたり、中央制御室の近代化がされているからだと、いろいろ条件がついており、日本で今考えているのは「60年以上をどうしよう」ということなので、30年と40年を比較してバスタブカーブ論をとらないと言っていることとは合わないと思うのですが、委員長はこの調査を御覧になったということなんでしょうか。
○山中委員長 私が見たのは、多分、IAEAが出した、そういうトラブル情報のデータを使って解析をした結果というか、年ごとにそういうトラブルをプロットした結果を見た記憶があるんで、そういうお話をさせていただきました。昨日の国際アドバイザー会合でも同じようなコメントをいただいているんですけども、米国からのアドバイザーのメザーブさんから、そういうメンテナンスをきちっとしていくことで、むしろトラブル率は下がっていくのだという、そういうコメントもいただいております。ので、バスタブカーブを必ずしも全面的に否定するわけではございませんけれども、そういうようなお話があるということ。

2023年5月10日原子力規制委員会委員長会見

山中委員長の言う「昨日の国際アドバイザー会合」とは「国際アドバイザーと原子力規制委員会との意見交換会合(2023年5月9日)」のことだった。動画で「メザーブさんのコメント」なるものを視聴したが、既報でザックリ訳したこと(設備の近代化など)を、手元資料もなく、大雑把に述べている。山中委員長が述べた「原発はバスタブカーブを取らない」の根拠にはなり得ない以下の報告と同じものについてコメントしたと思われる(現在、以下のデータ詳細を報告集の発行主体を通じ、著者に確認中だが)。

IAEA報告集 P12

老朽原発の規制制度の設計の前に

いずれにせよ、関西電力が「特別点検」をやった直後に、制御棒につながるケーブル接続部が引っこ抜けた。その部分の劣化状態を直接、調べさせることもなく、高浜原発3、4号機の運転期間の延長審査を行なったり、老朽原発の規制制度を設計したりする原子力規制委員会は、国民から規制機関として信頼されるのか?委員たちは、自らの目線を国民の目線に置いて、もう一度、考えてみてもらえないだろうか。

調査結果によっては、点検では老朽化が発見できない部品(ケーブル)があることを認めることになり、「運転期間」を原子炉等規制法から削除するGX脱炭素電源法案を原子力規制委員会として了承したことを後悔するのではないか。その後悔は、原発事故がもう一度起きることの後悔よりは、遥に小さいのではないか。

【タイトル写真】

2023年5月10日原子力規制委員会定例記者会見にて筆者撮影


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