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運転期間放棄の「R2見解」の出どころ

2月10日(金)のGX基本方針の閣議決定後、13日(月)夕方に臨時開催された原子力規制委員会で、石渡委員は「運転期間」を炉規法から削除することに再度反対した。反対の論拠の一つ、いわゆる「R2見解」の出どころを辿ると、山中委員(当時)の発言にしか辿り着かないことがわかった。

まず2月8日と13日に石渡委員が明らかにした反対の論拠を改めて列挙しておく。

1.今回の改変は、科学的技術的な新知見があっての法改正ではない
2.運転期間を落とすのは安全側への改変と言えない。
3.安全審査に時間をかけるほど、高経年化した炉を動かすので二律背反。
4.R2見解は40年ルール削除を意味しない。
5.60年目以降の高経年化評価制度が決まっていない。
(5−2「部品が調達できない」「設計の古さ」を審査できるか)

石渡「科学的、技術的な新知見なし」←山中「誤解」「心情」より再掲

山中委員長の説得材料はR2年見解

このうち4番目の「R2見解」とは、運転期間は「原子力規制委員会が意見を述べるべき事柄ではない」というフレーズが埋め込まれた見解で、13日にも、山中委員長は議論の冒頭で3度も言及した(以下)。

2月13日(月)原子力規制委員会議事録

これに対して石渡委員が「R2見解は40年ルール削除を意味しない」と論じていくが、その論拠に至るには以下のような筋道があった。議事録から抜粋する。

石渡委員「まず、本日の資料について一つ申し述べたいのですが、今、山中委員長も引用された令和2年7月29日の参考1となっている本日の文書ですが、これはどういう文書かということなのですけれども、ここに書いてある表題は「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電用原子炉施設の経年劣化との関係に関する見解」という文書であります。(略)これは原子力エネルギー協会ですか、事業者団体ですね。「ATENAとの実務レベルの技術的意見交換会の結果を踏まえた原子力規制委員会の見解(案)について」という議題の中でこの文章が出てきました。

ですから、これは当然、6回行われたATENAとの実務レベルの技術的意見交換会の内容を踏まえた文書になっているはずであると思います。実際、そういうATENAとの懇談、意見交換を踏まえた内容も当然盛り込まれておりますが、「原子力規制委員会が関わるべき事柄ではない」という、この部分に関する議論は、6回の議事録を私は全部検索しましたが、こういう議論が行われた形跡はありません。」

2月13日(月)原子力規制委員会議事録

そして、石渡委員はこう語る。

「ですから、この文章のこの部分がどういう経緯でここに盛り込まれたのか、私は非常に疑問に思っております。(略)特に「原子力規制委員会が関わるべき事柄ではない」ということについて、原子力規制委員会が、その当時、よく議論してこれを決めたかというと、私はそうではなかったのではないかと思います。」

2月13日(月)原子力規制委員会議事録

そして、こう迫る。

「ちなみに、参考1(R2見解)のこの文章の一部でも御執筆なさった委員の方はいらっしゃいますか。誰も執筆していないのですよね。(略)私は、この文章をあたかも金科玉条のように使って、原子力規制委員会が関わるべき事柄ではないということが原子力規制委員会の全体の意志として確固として決定されたというものでは、私は、ないのではないかと考えるのですけれども、皆様の見解はいかがでしょうか」

2月13日(月)原子力規制委員会議事録

R2見解の素を読み上げたのは山中委員(当時)

誰が執筆したのかは、もちろん、誰も真正面からは答えなかった。そこで、今回、遅ればせながら、2020年7月29日議事録を辿ってみた。すると、R2見解は7月22日の議論が反映されたものだとわかる。そこで、22日の議事録に戻った。

22日の議題「経年劣化管理に係るATENAとの実務レベルの技術的意見交換会の結果について」を報告したのは森下原子力規制企画課長(当時)。課長は事業者の取り組みをわかりにくく説明した後、意見交換は有意義だったと報告を締めた。

説明が終わると、更田(委員長)が「ご意見ありますか」と促す。

そこで、山中委員(当時)が話し始めるが、うつむいたまま手元の紙を読み上げ始め、「つまり」と例のフレーズ藪から棒に飛び出していく(以下、原子力規制委員会(2020年07月22日)頭出し)。

○山中委員(略)報告の中でございましたように、CNO会議の中でこの長期運転停止期間を運転期間延長認可制度に加味するべきであるという議論がございました。しかしながら、現行の運転期間延長認可制度の40年という期間は、科学的あるいは技術的な観点から定められたものではなくて、政策に基づいて決定されたものであると考えますので、運転期間延長認可制度の期間について、経年劣化などの科学的・技術的議論とは切り離して判断すべきものであると考えます。
 つまり、運転期間延長認可制度の期間については原子力規制委員会が議論すべき問題ではなく、加えて長期運転停止期間をそれに含めるかどうかについても原子力規制委員会が判断すべき事柄ではないと考えます。私からは以上でございます。

2020年7月22日議事録
2020年7月22日原子力規制委員会動画から
筆者スクリーンショット

なんのことはない。金科玉条のように山中委員長が振り回し続けているフレーズは、自分自身が令和2年に読み上げた、誰かが書いた文書だった。

翌週に誕生した「R2見解」

それが翌週7月29日に文案化されて課長に読み上げられ、更田委員長に促され、真っ先に発言したのがまた山中委員だった(以下、動画頭出し)。

山中委員(当時)は「原子力規制委員会は政策的に定められた運転可能な期間について、現在は40年ですけれども、申請された個別の発電用原子炉が安全に運転できるかどうかを科学的・技術的な観点から厳正に審査をする必要があり、その判断は原子力規制委員会の責任であると考えております」と手元文書を読み上げる

注意深く読めば、これは「40年」が削除された後の話を言っているものだと、今ならわかる。この時の課長の2代あとの現在の金城原子力規制企画課長が、「2年前から予想していた」と筆者のぶら下がり取材で昨年末に答えたように、既にこの時、運転期間を削除する結論または暗黙の了解があったと言わざるを得ない。

この発言の後には、何を目的に話しているのかがわからない妙な議論が続くが、それらも結論(今回の法改正内容)を知っていれば理解できる。「40年は評価を行うタイミング」「運転期間に長期停止期間を含めるべきか否かについて、科学的・技術的に一意の結論を得ることは困難」などだ。そして、文案は了承され、2年を経て金科玉条となる。

原子炉等規制法から運転期間が撤廃されるシナリオ

つまり、運転期間の撤廃は、2017年に原子力事業者のと意見交換会で提案され、2018年ATENA(原子力エネルギー協議会)設立を経て、2019年に日本経済団体連合会が後押しし、2020年に原子力規制委員会自身がR2見解を作って、「運転期間」のゲートを開放。原子力規制委員会はものを言わないという前提条件が完成した。最後の仕上げに、2021年に電気事業連合会が「安全な長期運転に向けて」として「現行の運転期間制度を規制当局の見解も踏まえて見直すことは、政策的な課題」と経産省の「原子力小委員会」で打ち上げて(既報)、法改正に向けたシナリオが完成した。

経産省出身の秘書官が巣食う官邸にトッピングされた岸田首相が、原発回帰を言い始めた時に、お膳立ては全て終わっていた。

では、R2年に山中委員(当時)が読み上げた文書を、誰が書いて手渡したのか。聞いてみるより他はない。正直な話、とても面倒だ。言わないだろうし、察しはついているからだ。

【タイトル写真】

R2年7月22日に「R2見解」の素となる文書を読み上げる山中伸介原子力規制委員(当時)

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