放射能汚染された鉄くず回収されず既に製品化:制度改正に誰が取り組むか
10月12日に書いた放射能汚染地域の鉄くず等売却事件(既報)。10月25日に逮捕者が出て、10月31日に業者に指名停止の行政処分が下った。
4人が窃盗で逮捕、業者は指名停止処分
鹿島・東急特定建設工事共同企業体、鹿島建設、東急建設、青田興業の4社が、10月31日から12月11日まで6週間の指名停止となった。範囲は福島地方環境事務所管内のみだから、他では受注も可能な甘い処分だ。
背景事実は以下の通り。
既報したように環境省が7月にこの件を知り、毎日新聞の9月19日のスクープで問題が発覚した時点からすれば、環境省にしては想定外に早かった。
環境省コッソリ開催か
愕然としたのは、9月22日の環境大臣会見で設置するとした「外部有識者による検討会」が東京の本省ではなく、出先機関「福島地方環境事務所」で、10月10日に発表、12日に取材申込を締め切り、13日に「解体工事不適正事案に係る対策等検討会」を開催していたことだ。
10月3日に聞いた際も、担当者はいつどこで開くとも言わない。環境省の除染情報サイトをチェックしていたが、開催の気配がなかった。しかし、10月27日の大臣会見で逮捕者が出たと知り、慌てて「検討会は開いたのか」と尋ね、福島で発表・開催したと分かった。コッソリ開催したのかと言いたくなる。
汚染金属は回収されず、既に製品化
それで、持ち出された金属はどうなったのか。環境省は「解体工事不適正事案に係る対策等検討会」には「売却された金属くず等は、事業者による細断・加工・溶融等の処理を経て、既に製品化されたと考えられ、回収することは出来なかった」と報告。
同じ解体建物から発生した同一性状と思われる2つの金属を測定したら、放射能濃度は0.5Bq/kg、0.8Bq/kgで、「廃棄物を安全に再利用できる基準である原子炉等規制法に基づくクリアランス基準100Bq/kgを大きく下回っていた」という。
第三者確認と当事者任せの違い
環境省は、想定される原因に対して、元請受注者の原則常駐、抜き打ち検査や注意喚起などの幾つもの対策対策を示したが、ズレている。クリアランス制度とはそれを第三者(原子力規制委員会だ)が確認する制度だ。
しかし、今回、流通してしまった金属くず等は、それを受け入れた各社が測定し、「測定データは残されていない」(資料P1)。窃盗した側と儲かる当事者しか、知らない。だから100Bq/kgを下回っていてよかったで済む話ではない。
汚染地帯では今も事業者任せ
実際のところ、既報した通り、汚染地域から出てくる金属くず等の扱いに関する決まりは、いまだに2013年に「当面の取り扱い」として定めた「福島県内における公共工事における建設副産物の再利用等に関する当面の取扱いに関する基本的考え方」しかない。規制は不在だ。
ちなみに一般社団法人 日本鉄鋼連盟が、「鉄鋼メーカーの自主運用のための手引き骨子」を作っていることがわかり、手引きを入手したいこと、そして、「再生利用の現状がどのようなものになっているか」について取材したいと9月28日に申し込んだところ、次のように解答がきた。
手引きは1998年作成。つまり、福島第一原発(1F)事故以前、2005年にクリアランス制度ができる前の取り組みだ。でも結局、福島の汚染地域から出る金属は再び、クリアランス制度ができる前と同じ状態になっている。
環境省の出先機関が設置した「解体工事不適正事案に係る対策等検討会」の目的は、再発防止の他、「放射性物質汚染対処特措法に基づく制度運用の実態や、工事の契約に基づく現場での対応状況なども含め、幅広い観点から検討すべき対策に対する助言」を求めることだという。
原子力規制委員長はなんと言ったか
放射性物質汚染対処特措法は、東京電力福島第一原発による汚染物質に適用される法令でありながら、1F敷地外の汚染金属の再利用の基準は定めておらず、いまだに先述した2013年の「当面の取り扱い」しかない。規制力はない。だから今回のようなことが起きても「窃盗」の扱いにしかならない。
原子炉等規制法と放射性物質汚染対処特措法のダブルスタンダード(基準も第三者確認制度も)の解消に向けた話し合いが、環境省と原子力規制委員会の間で必要な段階ではないか。
しかし、10月4日、(100Bqを上回っている前提で)山中原子力規制委員長に聞きにいったが、「環境省の所管でございますので、責任を持って環境省のほうで対処をお願いしたい」(2023年10月4日原子力規制委員長会見議事録)という姿勢しか得られなかった。
【タイトル画像】
無断持ち出しされた金属くず等の状況(令和5年10月13日 福島地方環境事務所)P1より
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