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思い出そう:1F廃炉と柏崎刈羽の関係ー東電の約束

今回も長い取材メモとなる(読んでくださる皆様に感謝します)。
東京電力福島第一原発(1F)の廃炉を「やり切る覚悟と実績を示すことができない事業者に、柏崎刈羽原子力発電所を運転する資格はない」と6年前に原子力規制委員会が啖呵を切ったことと、今起きていることをつなげたいからだ。


求められてきた根本的な汚染水増加対策

海洋放出は134万m3だけか?東電福島第一原発で書いたように汚染水は増えている。そのために、東電は、原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会(以後、検討会)で、根本的な止水対策を講じるよう何度も求められてきた。

「蕎麦屋の出前」みたいな返事

その都度、東電の責任者は、まだ蕎麦すら打っていないのに「今出ました」と嘘をつく蕎麦屋の出前みたいな返事をしてきた。以下の通りだ。

橘高義典首都大学東京大学院教授:(略)当初凍土壁というのは仮設的な要素があるということで、できれば完全な構造壁をつくるというようなことで(略)2020年、2030年にかけて、これずっと凍土壁で行くわけにもいかないと思いますので、私何度も言っていますが、そろそろ具体的なものを考えていただければと思いますが。(略)相当、線量も下がっているという段階なので(略)建屋周りや陸側遮水壁を構造壁で止水するというようなことを少し念頭に入れられてはどうかなと思います。
小野明福島第一廃炉推進カンパニー廃炉・汚染水対策最高責任者:(略)本当に凍土壁をこれから30年も使うのかという議論は社内でも当然ございます。(略)いろいろ踏まえながら、今、検討を始めようとしている段階でございます。(P91)

2020年2月17日第78回検討会議事録

橘高義典首都大学東京大学院教授:費用対効果を考えて、しっかりした構造壁に変えていくということ
松本純一 福島第一廃炉推進カンパニープロジェクトマネジメント室長:恒久対策について、しっかり検討してまいります」

2021年4月19日第90回検討会議事録

伴信彦委員:今、高坂さん(高坂潔 福島県危機管理部原子力安全対策課 原子力対策監)が、凍土壁、いつまで使うんですかという話もありましたけれども、最終的にその建屋の止水はどうするんですかと(略)。今日説明していただいたのは、言ってみれば対症療法ですから、根本的にはどうするつもりなんでしょうか。
小野明 福島第一廃炉推進カンパニー廃炉・汚染水対策最高責任者:(略)我々、少し検討を始めていますけど、いつ、何をというところまで、まだちょっと詰め切れていないところがございます。(略)そう遠くないタイミングで、例えば年内とかそういうオーだーには、将来的な構想なんかは、構想というか、こういうふうな検討スケジュールとかというところはお示しできるように、ちょっとトライをしたいというふうに思います。

2022年4月18日第99回検討会議事録

そして、2022年内どころか、それから1年3ヶ月が過ぎた2023年。

7月24日の原子力規制委員会の検討会で、東電は汚染水対策の現況と2025年以降の見通しについてを説明。

しかし、汚染水発生については、2028年以降に進めるイメージしか書かれていない。汚染水対策の最高責任である小野氏が2022年に言った「検討スケジュール」レベルだ。

2023年7月24日 汚染水対策の現況と2025年以降の見通しについて

2020年時点ですでに何度も指摘され、「今、検討を始めようとしている」と答えていた。2028年から「進め方を具体化していく」というのだ。

蕎麦はいつ届く?

規制庁2026年以降、東電2028年以降とズレ

一方、規制庁は同7月24日検討会で、「建屋外壁の止水検討のスケジュールについて、今年度中の検討会で包括的な議論を行う」とした。しかし、2026年度以降とも書かれている。

原子力規制庁「中期的リスクの低減目標マップに対する進捗状況への指摘・確認事項等」

そこで、山中委員長に定例記者会見で尋ねた。規制庁は2026年、東電は2028年とずれているが、規制庁指示は「今の凍土壁ではなく止水できる工法を改めて考えていく」ということか(つまり、単に抑制策ではなく、根本的な止水策を求めているのか)を確認したかったのだ。

これに対して、委員長は、いろいろなことが「遅れている」という認識を示した。

山中委員長:止水については、いろんな方法があろうかというふうに思いますし、当然サイト全体のリスク全体を考えて、いろんな対策をとらないといけないと思いますので、この点についてもしっかりと、期限のすり合わせについても見ていきたいというふうに思っております。ただ、残念ながら、固体の廃棄物、あるいは液状の廃棄物の処理についても、かなり遅れておりますので、やはりサイト全体でのリスクを低減する優先順位をつけながら、東京電力にも指示をしていきたいというふうに思っています

2023年7月26日原子力規制委員長会見

東電を廃炉に集中させるべきではないか

そこで、質問の方向を変えることにした。

Q: おっしゃったように、たくさんの課題が監視評価検討会でも出ていて(略)そういったことを考えますと、ちょっと議題が変わっちゃうんですけども、柏崎刈羽で、やはり保安規定で、七つの約束の第1項目に福島の事故の責任を全うするということがあったと思いますが、今の福島第一原発の事故処理の状況を考えると、とてもじゃないですけれども保安規定の七つの約束の第1項目が達成できていないと思われるのですが、いかがでしょうか。

山中委員長 保安規定の七つの約束の1番目あるいは2番目というのは、福島第一原子力発電所の廃炉を着実に進めるということが一番の約束だというふうに私自身も理解しておりますので、これはきちっと約束が果たせるように指導をしていかないといけませんし、監視をしていかないといけない(略)。

Q: 最後なのですが、例えば、地下水そのものをだけを見ても(略)やはり、柏崎刈羽はもう東京電力に諦めさせて、集中的に廃炉作業だけをさせると、そういうふうにすべきだと思うのですが、どうでしょうか。

山中委員長:これは繰り返しになりますけれども、福島第一原子力発電所の廃炉というのは着実にやっていただかないといけないというふうに思っております。そこについては、きちっと我々で監視指導をしていくつもりでございますし、ご指摘のように、なかなか進み具合が遅い項目もございます。私自身、サイトの中に入って線量の状況等を実際に調べながら、事故調査、分析等をしておりますけれども、(略)やはり高線量の環境で何を優先して作業を進めていくかということについては、我々もきちっと指導をしながら作業の進捗が進むように見ていきたいというふうに思っておりますので、それは柏崎刈羽の発電所の案件とは(★)当然約束の中で含まれていることでございますので、きっちりとそれは指導してまいりたいというふうに思っています。

2023年7月26日原子力規制委員長会見 

(★)「案件とは別」と言いそうな流れで、突如、山中委員長は沈黙、固まった後、「当然約束の中で含まれている」とつないだ(該当箇所を以下、頭出し)。

東電の約束ー1F廃炉と柏崎刈羽の関係ー

会見で尋ねた7つの約束について、振り返っておきたい。

2017年7月10日、原子力規制委員会は東電社長に対して、7つの論点を提示した。その1番目が「福島第一原子力発電所の廃炉を主体的に取り組み、やり切る覚悟と実績を示すことができない事業者に、柏崎刈羽原子力発電所を運転する資格はない」という勇ましいものだった。事故から5年目、過酷な原発事故を起こした電力会社が、世界最大級の原子力発電所を運営することへの違和感を反映したものだったといえる。

2017年7月10日第22回原子力規制委員会 「参考資料 基本的考え方」

それに対して、2017年8月25日、東電の小早川智明社長は、1Fの廃炉を進めるにあたっては、「地元をはじめ関係者に対して理解を得ながら、廃炉を最後までやり遂げていく」と約束。

2020年12月14日特定原子力施設監視・評価検討会
「社長回答書(7項目)」の 実施計画への反映について P1

2020年10月30日に、その内容を反映した柏崎刈羽原発の保安規定を原子力規制委員会は認可した。

2020年12月14日特定原子力施設監視・評価検討会
「社長回答書(7項目)」の 実施計画への反映について P11

それはさらに、「原子力事業者としての基本姿勢」として、福島第一原発の「特定原子力施設に係る実施計画」にも反映された。

しかし、今、地下水の止水対策一つをとっても「蕎麦屋の出前」状態が続いている。海洋放出についても、政府やIAEAにお墨付きをもらう一方、東電は漁業者との約束は守っていない。

つまり2017年8月25日の東電社長の「地元をはじめ関係者に対して理解を得ながら、廃炉を最後までやり遂げていく」もまた反故にすることに等しい。

今こそ、原子力規制委員会は、「東京電力福島第一原子力発電所の廃炉を主体的に取り組み、やり切る覚悟と実績を示すことができない事業者に、柏崎刈羽原子力発電所を運転する資格はない」と言い切ったことを思い出すべきときではないか?

【タイトル画像】

2017年7月10日第22回原子力規制委員会 「参考資料 基本的考え方」に筆者赤線加筆。

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