見出し画像

海洋放出は134万m3だけか?東電福島第一原発

岸田首相は、8月下旬から9月前半に海洋放出を始めると、国内外に向けて発信をしているが、より重要なのは、今このタイミングで、政府や東電が何を発信しようとしていないかだ。


「福島県の漁業の今」

7月23日に原子力市民委員会が「いま改めて、処理汚染水の海洋放出の問題を考える」を開催。小名浜機船底曳網漁業協同組合 理事 柳内孝之氏の話「福島県の漁業の今」(動画は以下頭出し。資料)、そして

福島大学食農学類准教授の林薫平氏の話「復興と廃炉の両立とALPS処理水問題を考える福島円卓会議について」(動画は以下頭出し。資料)。これら生の声は聞き逃してはならないと思う。

 その上で、以下、取材メモを記録する。

告示濃度限度超え汚染水の2次処理、3次処理の見通しなし

2023年7月27日、東京電力の中長期ロードマップ会見で以下を質問した。

Q:トリチウム以外の核種については基準(正確には告示濃度限度)を超えている物が7、8割あると思うが、この処理はいつ始めるのか?
東電回答:いま、「処理途上水」という形で基準を上回っているものもあります。再度ALPSで再浄化を行う。浄化後に測定確認設備で確認する。

Q:それはいつ始まるのか、見通しを教えてください。
東電回答:いつになるか、計画はちょっとこれからとなりますけど、我々としては、国の規制基準を下回ったものから、いわゆるトリチウム濃度の低いところから放出していくことを計画している。

2023/7/27(木) 中長期ロードマップ進捗状況について動画)←近日中にリンク切れする。

東電資料「ALPS処理水等の現状」(下図)によれば、35%が処理水。75%は告示濃度限度を超えている(例えば5%は告示濃度限度の100倍〜約2万倍)。東電は、これらを2次処理、3次処理すると言ってきたが、この期に及んで、いまだにいつ始めるのかの見通しも計画もない。そんな中で放出を開始していいのか?

東電資料「ALPS処理水等の現状」より。

放出は134万m3(2023年8月3日現在)では終わらない

続いて以下も聞いた。

Q:実施計画では(言い間違え。正確には中長期ロードマップ)30年から40年をかけて、現在溜まっているタンク水を出し切る計画だ。その30年40年の間にも増加していく処理水は40年を超えることになると思うが、見解を。
東電回答:我々としてはそれも込みで40年と考えている。

2023/7/27(木) 中長期ロードマップ進捗状況について動画)←近日中にリンク切れする。

この回答は、単なる辻褄合わせだ。東電は2023年8月3日現在で134万m3がタンクにあるとしているが、恒久的な止水対策を取らない限り、これは刻一刻増える。

東電資料「ALPS処理水等の現状」より。

経産省の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書」(2020年2月10日)では、下表のように、2020年に処理を開始した場合、タンクの想定貯蔵量は130万m3と想定。2035年なら183万m3になるとしていた。増えるのだ。

「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書」(2020年2月10日)

辻褄合わせが必要なわけ

東電が、汚染水が増加しても「40年」で海洋放出を出し切れると言わざるを得ない背景はわかる。中長期ロードマップ(2019年12月)でステップ2完了(2011年12月)から30〜40年で廃止措置(廃炉)終了と定めてしまったからだ。そこに合わせるには、何がなんでも「40年」で海洋放出を出し切るというしかない。

ちなみに、2020年当時は、上表のように、経産省は、原発事故前の福島第一原発の放出管理の基準値年22兆ベクレルを超えて、年50兆、100兆ベクレルずつ処理する選択肢も考えていた。やがて年22兆ベクレルを遵守しなくなるのではないのか、という疑問すら頭をもたげてしまう。

デブリ取り出し準備で新たに見つかった高濃度汚染水

上記のことを除いても、汚染水は、今後、増えることはあっても減ることはないのが現実だ。

東電の中長期ロードマップの会見は、廃炉に向けた進捗状況を報道者に報告する場だが、7月27の会見では、新たな汚染水の存在が明らかになった。

燃料デブリ取り出し準備の1つ、3・4号機の排気筒解体に向けた現場調査で、8m3の溜まり水が見つかった。セシウム137で約1万4600ベクレル/リットル。告示濃度限度は90ベクレル/リットルだから、160倍以上の高濃度。そこで次のように聞いた。

Q:今度、これをどのように処理をするのか、お聞かせください。
東電回答:今後、当然、排気筒の解体前までに行うということで検討しております。処理方法については今後、検討してまいりたいと考えています。

2023/7/27(木) 中長期ロードマップ進捗状況について 会見より

つまり、未定。このように、告示濃度限度を超えている汚染水は、1000基のタンク以外にもそこここにある。

東京電力「3/4号機排気筒解体に向けた 現場調査の実施状況について」
2023年7月23日(中長期ロードマップ  【資料3−2】)より

IAEA評価が見過ごしていること

汚染水という意味では、冒頭で紹介した原子力市民委員会の「いま改めて、処理汚染水の海洋放出の問題を考える」で、日本政府の海洋放出方針にお墨付を与えた国際原子力機関(IAEA)の報告書は、重大な見過ごしがあるとの指摘もあった。

細川弘明さん(京都精華大学名誉教授)の指摘で、「日本政府は海洋放出を決定した後に、海洋放出の計画について国際的な安全基準に合うかどうかをチェックしてくださいと依頼した。それに対する報告書だから、IAEAは今回の海洋放出以外のことについては触れていない」というものだ。

例えば、2011年4月だけでも少なくとも50兆〜1000兆ベクレルが海洋に流出したと推定されている。事故前のトリチウム放出の実績は年2兆ベクレルだったので、事故後1ヶ月だけで50年分が既に放出された。これはトリチウムだけの話で、その他にセシウム、ストロンチウムなども流出している。この上にさらなる追加的、意図的な放出が許されるのかといった指摘だ(細川氏資料はこちら)。

可視化されない汚染水の全体像

政府は、事故直後の汚染水と今後も増加する汚染水については、国民にも国外にも可視化して見せていない。東電もまた、タンク約1000基分の処理水と処理途上水にしか目が向かない情報の出し方しか行っていない。

そんな中、岸田首相は、8月下旬から9月前半に海洋放出を始めると、国内外に向けて発信をしている。不誠実だと思う。

【タイトル写真】

2023年7月27日、東京電力の中長期ロードマップ会見で筆者撮影。記者席右側は、1F取材と発信を最も積極的に行なっている1人、おしどりマコさん。この日は東電社長と魚連との約束について、こちら↓で発信されているので、リンクを貼らせていただきます。

おしどりポータルサイト 【ALPS処理水】「漁業者の理解なくして放出なし」閣議決定なので東電と漁連の約束は反故に!?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?