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原発事故を起こした東電の柏崎刈羽原発の行方


燃料移動の禁止命令

柏崎刈羽原発で起きた核物質防護規定違反について、原子力規制委員会が2021年4月14日に東京電力に命じた核燃料物質の移動禁止命令は、次のようなものだ。

当委員会は、柏崎刈羽原子力発電所に対する原子力規制検査の対応区分を第4区分(各監視領域における活動目的は満足しているが、事業者が行う安全活動に長期間にわたる又は重大な劣化がある状態)に変更したところである。

ついては、(略)当該対応区分を第1区分(監視領域における活動目的は満足しており、事業者の自律的な改善が見込める状態)に変更するまでは(略)特定核燃料物質を移動してはならない旨命ずることとする。

2021年4月14日原子力規制委員会「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第43条の3の23第2項の規定に基づく命令について

「東電はやはり東電」

つまり、第1区分に変更されれば、禁止命令は解除される。そのための追加検査や再確認を行なっている最中に、福島第一原発で立て続けに被ばく事件が起きた。2023年12月20日の原子力規制委員会では、伴信彦委員が次のように述べた。

伴信彦委員: 今回もずっと追加検査チームの報告を受けながら、東京電力はやはり東京電力だなという印象を私は持ったのです。先ほど1F(東京電力福島第一原子力発電所)のALPS配管洗浄に伴う汚染の事例の発言がありましたけれども、あれも現場ではいろいろ工夫、改善をしていたはずなのですが、結局、ああいうことが起きた。突き詰めていくと、やはり現場をグリップできていなかった。

2023年12月20日原子力規制委員会委員会議事録

柏崎刈羽の保安規定第2条は、福島第一原発の廃炉を安全にやり遂げるという小早川社長の2017年回答が反映されている。では、運転禁止命令解除の条件はクリアできたと言えるのか?とてもそうは思えない。

福島第一原発から垂れ流される情報がコロコロ変わることに付き合わされてきた身としては納得がいかない。2023年12月20日の原子力規制委員会後の委員長会見で、そうは思えない根拠をぶつけて問い続けた。若干、端折りながら、他の記者さんの質問も抜粋しながら、小見出しをつけて記録しておく。

「正確な情報発信」を確認対象から外すことの見直しについて

○記者 月曜日の特定原子力施設監視・評価検討会で、東電の廃炉カンパニーの林田部長が、AさんBさんの汚染濃度について伴委員からの確認質問を受けて、AさんだけではなくてBさんも実は100kcpmを超えていたということを事故から2か月して初めて明らかにした。2桁、実は多かったということが2か月して初めて分かったということ、このことについて委員長は御存じだったか。

○山中委員長 月曜日に監視・評価検討会があったということは承知しておりますし、様々なやり取りがあったということも聞いております。情報の発信が正確でなかったということも聞いております

○記者 (略)確認の対象から正確な情報発信を外したことについて、前回「なぜ外したのですか」と聞いたところ、委員長としては、「安全に直接関連するものではない」ということを確認対象から外した理由として挙げてらっしゃいましたけれども、このように汚染濃度が2桁も違ったということについて鑑みると、この考え方を見直すべきではないでしょうか、やはり。

2023年12月20日原子力規制委員長会見録

広報の問題に矮小化

○山中委員長 基本姿勢の中に盛り込まれている情報発信というのはその廃炉について、周辺の住民に正しい理解をしていただくために、正確な情報を発信しましょうという、安全とは直接関わりのない事柄ですので、今回の再確認のあの検査の中からは外したということでございます。(略)正しいスピーディーな情報発信というのは心がけるべきだろうと思いますけれども、それぞれ一つ一つの情報発信について我々何か規制当局が判断をしているわけではございません。

○記者 しかし、10月25日にあった事件で26日に発信していた3.5という数字が、2か月しないと100でしたと言われないのは、地元をはじめ、関係者の関心や疑問に真摯に応えという基本姿勢にも反している。
○山中委員長 これは私、当然の広報のありようの問題だというふうに思っております。

2023年12月20日原子力規制委員長会見録

再稼働と事故処理、両立できるのか?

○記者 東電社長とのやり取りの中で委員長はどのような会社にしたいのかということに対して、小早川社長が廃炉をする事業と、柏崎刈羽を運転する2面を持つということを真っ先に挙げたと思うのですが、この二つは本当に両立できるというふうに、委員長はお思いでしょうか。
○山中委員長 これも、規制当局としてそれぞれの発電事業であったりとかあるいは廃炉事業であったりとか、これについては安全上あるいはセキュリティ上の規制をきっちりと行っていくということが我々の務めだというふうに思っておりますし、事業者は今日の社長の表明でもあったように、福島第一原子力発電所の廃炉を着実に進めて、その他の事業もきっちりとやっていきますというそういう決意表明だったというふうに思っています。

2023年12月20日原子力規制委員長会見録

来週(12月27日)の決定とは?

○記者 朝日新聞のササキと申します。今の件なのですけれども、来週の委員会で何らかの決定をするという何らかの決定というのは、解除以外だとどういう決定があり得るということでしょうか。
○山中委員長 おおよそもう方向性というのは委員の中で異論はございませんでしたので、適格性の再確認、6年前の判断が継続されているかどうかというところと、区分変更、その点について最終的な決定を行うということでございます。また、委員会としてのこれまでの議論を取りまとめたところに抜けがないかどうかというところは、来週、確認した上で、文書として残したいというふうに思っています。

2023年12月20日原子力規制委員長会見録

1Fの軽微な実施計画違反は14件でとどまっていないこと

○記者 再びフリーランスのマサノです。先ほど委員長が、6年前の判断を継続されているか、それで区分変更について、あと、取りまとめに抜けがないかということをおっしゃられました。取りまとめの中に、先日の規制庁の報告書だと、軽微な実施計画違反が14件あるというふうに書かれていて(略)、10月のを入れると15件、それで、水平展開をしますと言っている間にまた12月11日に被ばく事件が起きましたので、これで16件になると思うのですけれども、これもあの取りまとめの中に入ると考えますが、それでよろしいでしょうか。
○山中委員長 あの文書、精査はこれからまたしますけれども、その件数等手直しがあるかもしれません。

2023年12月20日原子力規制委員長会見録

放射線管理員が機能できていないことが報告から抜けていること

○記者 その12月11日に起きた件について。1名の方が濡れたペーパーみたいなものをウエスを濡らして、汚染されていたフェンスを拭き取る作業で、それをそのときにかぶっていた全面マスクの取り方がまずかったということらしいのですけれども、よくよくその東電が出してきて説明をしていない図を見て取材をしますと、一旦このレッドアルファゾーンを出るときに、チェンジングプレイスというところに入って、そこでアノラックとか全面マスクを拭き取る、そういう場所になっていると。そこに放射線管理の方がいらっしゃるのですね。その放射線管理の中に、括弧して、「拭き取り着脱補助員」と書いてあって(補足:「濡らしたウェスで放射性物質を拭き取る作業」をご参照ください)、この放射線管理員が全く機能していなかったことが外観的に分かるわけなのですけれども、(略)前回の被ばく事件でも、放射線管理員が一体何をしていたのか、何もできていなかったのではないかという疑いがあるわけですけれども、こういった人員配置についても、東電は全くその廃炉にあたってやるべきことができていないと思うのですが、こういったことも報告書から全く抜けていますが、これも盛り込まれるべきだと思われますが、いかがでしょうか。
○山中委員長 詳細は、今後の報告だろうというふうに思っておりますけれども、レッドゾーンからイエローに移るというところで除染作業する、あるいは放射線計測するという、そういう作業は、通常の場合そうされるというふうに思っておりますし、詳細、そこにどういう齟齬があったのか、あるいはその計画に何かミスがあったのかどうかについては今後の報告を受けたいというふうに思っています。

○記者 その報告が終わるまでは、適格性の判断、再確認はできたと言えないのではないでしょうか。立て続けの被ばく事件なのですね。
○山中委員長 一般の方もそうですし、もちろんその被ばくということについて非常に大きく捉えられるというのはよく理解はできるところですけれども、安全上重要な事案であるかどうかということについて、被ばくということについてですけれども、重要な事案であるかどうかということについては、きっちりと判断をしないといけない。前回の被ばく事故についてもそうですけれども、それほど大きな事案ではないという判断を18日の監視検討会(特定原子力施設監視・評価検討会)で報告を受けておりますし、今回の事案も、これから内部被ばくの状況等、バイオアッセイ等をしていかなければなりませんし、その結果を待たないといけませんけれども、正確にはそうなのですが、非常に重大な事案であるというふうな認識ではおりません

2023年12月20日原子力規制委員長会見録

「大きなトラブルは小さなトラブルがいっぱい起きるから起きる」

○記者 18日のその検討会では、伴委員は、これは結果的に被ばくの程度がさほど重要ではなかったみたいなことはおっしゃられたのですが、だけれども、重大な被害になり得たということもおっしゃっていたのですよね。この16件あるというのは、要するに実施計画違反が16件あるというのは、やはり重視されるべきであり、今回の事件をやはり報告を待つべきなのではないでしょうか。
○山中委員長 どの程度その安全上重要な事案であるかということは、きっちりとこれまでも判断をしてきておりますし、月曜日の報告があった事案についても軽微であるという暫定の報告をされていたかというふうに思いますし、伴委員もその点については納得されていると思います。御指摘の事案については、実施計画違反であるというのは、判定結果が出るまでに私が申し上げたところでございますので、そういう作業管理ですとか、あるいは作業計画ですとか、そういうところに不備があったというのはもう確かだというふうに思っております。事案自身の安全上の影響を考えると、軽微な違反であったという、そういう結論を暫定的に出されているというところでございます。そういうことを考えると、特段、今回の結論に何か影響を与えるものであるというふうには考えていません。

○記者 東京新聞、オノザワです。もう一度ちょっと適格性についてお伺いしたいのですけれども、先日、監視・評価検討会でも話題になりましたけれども、ALPS事故についてですね、これはつまるところ東電が現場の実態を全く把握していなかったという事案だと思うのですけれども、東電が現場の実態を把握し切れずに事故なりトラブルが起きるというのはこれまでも繰り返されてきて、いろいろあるのですけれども、SGTS(非常用ガス処理系)が難航するとかも結局そうだったと私は思っているのですけれども、私は事故対処の基本だと思うのですね。現場の状況把握、正確に把握するって。これができない状態の東電で、しかも同じようなことを繰り返していると。それなのに、なぜ今回適格性で技術的能力に問題はないという結論になるのか、ちょっとその素人考えでは全く理解できないのですけれども、何でなのでしょうか。
○山中委員長 トラブルが何度か起きているということは1F(福島第一原子力発電所)でもそうですし、柏崎でも事実です。我々規制当局として判断しなければならないのは、安全上のその影響がどの程度のものであるのかというところを、やはりきっちりと見ていかなければならない。それが軽微である、あるいは新検査制度に基づくような施設であれば緑であるという、自主的な改善で事象が改善できるという、そういうトラブルであれば、自律的に改善をしていただけるような状況であるというふうな判断をしております。今回の増設ALPSでのトラブルについても、暫定ではございますけれども、軽微な事象であるというふうに判断をされているということでありますので、特段その適格性の再確認の判断に影響のあるものであるというふうには私自身は思っていません。

○記者 今、委員長がおっしゃったことだと、結局、その大きなトラブルが起きなければ、非常に影響の大きいことを東電が起こさなければ、適格性って問題にならないということになると思うのですけれども、大きなトラブルというのは小さなトラブルをいっぱい起こすから起きるのであって、なぜ結果が重大でなければそういう適格性を考えるというところに上がっていかないのかがちょっと分からないのですけれども、それは何でなのですか。
○山中委員長 もう全てのトラブルをゼロにしろというのは、ゼロリスクを求めるのと同じことでございますし、規制委員会としては、ゼロトラブルを事業者に求めるということはしておりません。自主的に改善できるような事象については、事業者が自主的に改善をしていただくという、規制委員会としてはそういう姿勢でございます。

○記者 結果は軽微だけれども、同じような背景で幾つもトラブルが続いていきますねというのは、それは、伴さんが言うとおり、結果論で重大ではなかったというところで問題にはならないのかもしれないけれども、そういう体質が続いてしまっているというのは別に問題視しなくていいのですか。
○山中委員長 同じようなトラブルが例えば年間何回も起きているというような、そういう状態が続けば、当然、組織文化上何か問題がないか、あるいは安全上何か背景になるような問題がないかというところはきちんと検査の中で見ていく仕組みになっておりますので、そこについてはきちんと監視をしていくつもりです。

○記者 今現在はそういう状況ではないという判断ですか。
○山中委員長 そういう判断です。

○記者 どうなったら、そこも考えていくということになる。
○山中委員長 当然、四半期に一度、各発電所であったトラブル、あるいは福島第一原子力発電所の廃炉であったトラブルについては報告を受けることになっておりますし、その状況を見て、委員会としては判断をしていきたいというふうに思っています。

2023年12月20日原子力規制委員長会見録

ループしてしまうが、柏崎刈羽原発で起きたID不正事件は、まさに「四半期に一度、各発電所であったトラブル」であり、「報告を受ける」べきことだった。ところが、事件を知っていた原子力規制庁自身が、四半期に一度の報告で報告せずにいたところ(既報)から、始まった事件だということを山中委員長はすっかりもう忘れてしまっているようなのだ。

【タイトル写真】

山中伸介原子力規制委員長 2023年12月20日会見にて筆者撮影。


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