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老朽原発の審査は厳しくなるのか?

首相指示による原発回帰問題の続き。原子力規制委員長が、原発の老朽化審査は、今より「はるかに厳しい」規制になると記者会見で述べたので、その根拠を探りに行った。

老朽化審査で何をどう見るのか?

原発は、燃料制御から冷却、発電まで、全部足すと計1000万点もの部材から成る巨大システムだ。現状の審査が高浜原発等のようにズサン(既報)なら、「はるかに厳しい」とは具体的にどれぐらいのことなのだろう。

最近の会見や2012年の国会審議議事録、原発メーカー職員が書いた論文など、質問の根拠を持って11月9日の会見へ向かった。

以下、11月9日の会見録から「はるかに厳しい」とは何を意味するのかを聞いた質問と回答部分を抜粋し、小見出しと<*解説>をそれぞれ加える。


延長12km、5万本の配管はどう確認?

Q: 委員長、10月12日の会見で、老朽原発の安全確認で一番ハードルが高いものということで三つ挙げられておられます。圧力容器、ケーブル、コンクリートで、今度その注視して見ていきたいところということで聞かれて、11月2日には、その三つに加えて、配管と電気部品ということもおっしゃられています。配管についてなんですけれども、一つの原発で、延長距離が120キロ、数にして5万本ある*と伺っているんですけれども、今現在だと、40年の延長の議論のときに、どれぐらいの確認を行っているのか。それで今後厳しくなりますと、30年、そして10年ごとで厳しくなるといったときは、これは一体何kmを何万本分確認するという規則に、法令になるんでしょうか。<*2012年6月18日参議院環境委員会議事録より>

山中委員長: 詳細な議論というのは、多分これから設計をしていかないといけないところだと思います。まず大枠を決めないといけないということで、いわゆる開始年齢と、いわゆる開始暦年と、どれぐらいの間で延長認可申請を出していただくかという、それをまず議論をしようと、どういう性質をどれぐらい見ていかないといけないのかということで、一つ配管もあろうかと思います。ただ、これまでの特別検査でも、全配管を見ているわけではございませんで、特に重要な、例えば熱劣化をするような部位を見るとか、そういうところを注視して見ていってますので、これからもそこは余り変わらないかなという、それ全長全部見るわけではなくて。

1000万点の巨大システム

Q: 恐らくそうだと思うんですけれども、そうすると、その燃料棒の制御から冷却、発電まで部品全部足すと合計1000万点あるということが言われてますけど、その認識で間違いないかというちょっと確認をさせていただきたいのと、だからこそ、国会審議で、2012年6月のときには、この巨大システム全体で見たときに、40年と区切るということは、全く科学的な根拠がないということではないというふうに、当時の担当大臣、環境大臣が答えているんですけれども*、この辺についての御認識も併せてお願いいたします。<*2012年6月18日参議院環境委員会>

山中委員長: 部品点数については、改めてちょっと事務方から*、本当に詳しい点数を御確認いただければと思います。運転期間についての認識でございますけれども、少なくとも運転期間を原子力発電所全体について一義的に決めるということは、科学的、技術的には困難であるという認識でございます。これは、原子力規制委員会全体でもそういう認識で間違いないかと思います。<*会見後に総務課長と広報室長が寄ってきたが、「原子力規制庁では確認しない」というので、1000万点と書かれた原発メーカー職員の論文をこちらから見せた。>

Q: 困難であるからこそ、巨大システムですから、40年というところで区切るということが事故の防止のために必要ではないかというのが立法政策だった、国会で議論された*ものということなんですけれども、それを覆すような事実が何かあったのでしょうか。<*2012年6月5日衆議院環境委員会>

山中委員長: 少なくとも、原子力規制委員会でこれまで議論されてきたことの一つとして、運転期間をどう考えるかということなんですけども、運転期間については利用政策側がお考えいただくことであって、我々規制委員会が何か意見を申し上げる立場にはないという、これはもう2年前に委員会で出た結論でございます。少なくとも運転延長認可制度の二つのその定めについての運転期間については、利用政策側が御判断いただくことである、そういう結論で我々は、これまでの判断をしてきております。

圧力容器の脆化:試験片の確認は交互

<以下(*取消線箇所)は11月7日の集会で提供された二つの情報(原子力規制委員会が「原子炉の脆さを示す予測結果の原データを確認していない理由」と「圧力容器の母材と溶接金属の交互にしか確認していないこと」)を私が混同して質問したもの。法令上の義務ではないとか人材が限られていることなどは「原子炉の脆さを示す予測結果の原データを確認していない」ほうの理由であり、中性子照射脆化確認のための試験片は、交互にしか確認しない<これ自体も問題視されている>理由ではありませんでした。申し訳ありません! というわけで、以上を念頭に置いた上で、以下をご覧・ご視聴ください。

Q: 最後にしますが、高浜原発の具体例で最後に聞かせてください。40年から60年の延長の認可申請の際に、実は一番心配である圧力容器の中性子脆化を確認するための試験片が母材と溶接金属とあって、それが交互にしか確認されておらず、最終的に4回目の延長のときの申請では、母材ではなく、溶接金属だけのチェックであったということが裁判を通して判明し、<*なぜそうしない、全部を一々、母材、原子炉容器母材の材料を確認しないのだということで聞いたところ、法令にないからだということ。そして人材がそんなにいないので、審査の妨げになるという旨の回答が、規制庁のほうからあったと>、こういった御報告は受けておられるでしょうか。そして、法令になかったということが、<まさの加筆→原子炉の脆さを示す予測結果の>元データも確認してなかったということが分かったんですが、法令になかったということが、そういった杜撰な審査の延長認可の審査の実態であるとするならば、今後はそれを法令に入れる必要があると思うのですが、そのことも併せてすみません、最後にお願いします。

山中委員長: 事実確認については、改めて事務方に確認をいただければというふうに思いますけれども。

Q: 委員長のほうで確認をしていただければと。

山中委員長:分かりました。私のほうで確認をいたします。推測ではございますけれども、いわゆるその一番厳しい部位について試験をして合格だからいいという判断を、恐らくしたんだろうと推測はいたしますけども、事実確認させていただきます。


中性子照射脆化の試験片の扱いはバラバラ

抜粋は以上。最後に委員長が答えた「一番厳しい部位について試験をして合格だから」という推測部分は、少なくとも関西電力の高浜原発1、2号機と美浜原発3号機についてはハズレ。2022年8月に老朽原発廃炉訴訟市民の会が福井県議会に出した要請書(7日の集会で紹介があった)がわかりやすいので抜粋する。

「監視試験片の取り出しは10年ごとで、これまでに4回の試験が行われています。試験片には、原子炉 容器の母材と溶接金属があり、破壊靭性試験においても毎回、両方のデータを取っているものと思っていたところ、1回目と3回目が母材、2回目と4回目が溶接金属と、交互にしか試験をしていませんでした。しかも、老朽原発の評価で重要な直近の4回目に、原子炉容器本体である母材の試験を行っていないのは重大な問題です。」

出典:関西電力高浜原子力発電所1・2号機及び美浜原子力発電所3号機の運転再開同意に関する要請書 

一方、このような試験片の扱いは、九州電力や四国電力は行っていないこともこの要請書に書かれている。

関西電力高浜原子力発電所1・2号機及び美浜原子力発電所3号機の運転再開同意に関する要請書2ページ

つまり、山中委員長が10月12日の会見で「一番ハードルが高い」と述べた圧力容器の監視試験片の扱いは、法令で規定しなければ事業者任せでバラバラ。「合格」と言えるやり方がとられたかは電力会社次第になってしまう。

岸田首相指示で、経産省は、事実上、原発の40年ルールを壊そうとしている。そうなった場合に原子力規制委員会が行う老朽化原発の規制は「はるかに厳しい」ものになるという山中委員長の認識には根拠がない。

また、運転期間の上限撤廃をも許容する一方、肝心の高経年化技術評価は、今と「余り変わらない」と他人事のように捉えているとしか、この日、思えなかった。

タイトル写真【てんかんの発作】

アキは、眩しい太陽などの刺激で、時々てんかん発作を起こす。苦しい時間の後、ケロっと歩いたり、放心したりする。


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