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猫のはなし…チビ

僕が初めて飼った猫は、チビというメスの白猫だった。
前にも書いたと思うが、僕がまだ6歳ぐらいの時の冬、帰って来た母親の上着の胸元に入ってた子猫がチビだった。
初めは「なんだこいつは」と思ったが、僕はすぐにチビを可愛がるようになり、いつも一緒だった。
まるで子供のようにチビを可愛がり育てていたのだが、猫の成長は早い。
すぐに立場は逆転し、チビが親、そして僕が子供のようにいつも一緒にいてくれた。

チビはよく、家の玄関横にある郵便受けの上に寝ていた。そして僕が帰ってくると一緒に家に入り、僕はチビにごはんをあげる。
子供の頃は「餌を待ってんだな」と思っていたが、今日はっきりと、「僕を待ってたんだ」とわかった。

いつも配達に来る酒屋さんのお兄さんが、自分を持ち上げてぐるぐる回して遊んでいると、自分がいじめられてると勘違いしたチビが酒屋のお兄さんに飛びかかったりもした。
文字通り「我が子のように」僕を守ってくれていた。

親戚のおじさんが来て僕にちょっかいを出すと、そのおじさんに噛みつき、家族の誰の言うことも聞かないのに僕の言うことだけは聞く猫だった。

今日母親とチビのことを話していて、「ああ、そんなことあったな」と思い出したことが一つある。
当時うちにはお風呂が無く、近くの銭湯に通っていた。僕が銭湯に行こうと家を出ると、チビがついて来るのだ。
家から銭湯までは歩いて5分ぐらいで大して遠くはないのだが、猫にとってはなかなかの距離だと思う。
そして何よりすごいのは、僕が銭湯に入って出てくるまで、チビは銭湯の前で待っているのだ。
チビは風呂上がりの僕にくっついて、一緒に家に帰って行く。白猫使いの子供と思われてもおかしくなかっただろうに。
今日母親と話しててそのことを思い出し、「チビはほんとに自分を愛してくれてたのだな」としみじみ思い出した。
母親は「ほんとうちで飼う猫はあんたにしか懐かないよね」と言っていて、『あれ、うちってみんな猫好きなんじゃないの?』と思ってしまった。

今、僕が街で出会って仲良くなる猫は、そのほとんどがメスだ。なぜかオスはあまり懐かない。
今日チビのことを思い出して、僕には猫の母性本能をくすぐる何かが備わってるのかもしれないと思った。

これはチビではない。
チビは真っ白で細っそりした、目の青い美しい猫だった。

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