考察への下準備2 ザコアドベントカレンダー16

はじめに

 前回では、言葉を分解していくと最終的に音素という音の塊に分けられるということと、その音素を表記するための国際音声字母というものを紹介した。そして、「どうも」と「アーモンド」を国際音声字母で表記するまで進めた。しかし、これではまだ正確な表記までたどり着いたとはいえない。なぜなら、音声における重要な要素、すなわち音の高さが抜けているからである。

日本語は音の高さも重要

 音声を聞き取るとき、まず第一にどんな音色なのかということが重要になる。例えば、「缶/kan」と「剣/ken」ではそれぞれ[a]と[e]というように音が違うため、別の単語で別の意味だということを判断している。だが、どんな単語を喋っているのかは音色だけでは判断できない。例えば、「缶/kan」と「勘/kan」の場合はどうだろう。どちらも音素の並びと組み合わせは同じ[kan]だ。他にも「雨」と「飴」や「神」と「髪」など、ひらがな書きしたときの読みは同じなのに、それぞれ別の単語として聞き取れる(もちろん「雲」と「蜘蛛」などの文脈に応じて聞き分ける必要のある単語もあるが)。その原因は、音の高さである。「缶」の場合は高い音→低い音の順番だ。一方、「勘」の場合は低い音→高い音の順番だ。つまり、音声を聞き取るとき、人は音の高さもしっかりと意識しているということである。
 したがって、音素を表記しただけでなく、音の高さまで考慮に入れて表記する必要がある。この単語ごとに決まった音の高さの配置を高低アクセント、あるいは単純にアクセントと呼ぶ。もちろん、厳密な定義ではないが、今回はこれだけ押さえていれば大丈夫だろうと思う。
 余談だが、中国語も同じように音の高さが単語の聞き分けに重要な役割を果たしている。中国語の場合は音の高さの変化が音節ごとにあり高低だけでなく上がり調子、下がり調子などが加わって基本的に四種類のアクセントがある。一方、英語では音の高さよりも強弱が優先される。これを強弱アクセントという。
 英語の日本語訛りの原因もおそらくこのアクセントの違いが一つの要因となっている。日本語の外来語のアクセントは最後から二番目のモーラから低い音になる(「ん」や「ー」のときなどは最後から三番目)。だから、日本人が「詳細」を意味する「detail」を発音するときは「ディ↑イル↓」となりがちだ。しかし、これを英語のネイティブが聞くと「テ」の部分が強いアクセントなのだと思ってしまう。英語の発音では「ディテイル」なので、日本人は発音が独特だなあ、と思われてしまうだろう。もっとも動詞のdetailは日本語風のアクセントと一致するのだが。

「アーモンド」と「どうも」のアクセント

 では、実際にアクセントも踏まえた表記を考えてみようと思う。ところで、音の高さはどのように記述すれば良いのだろうか。調べてみると、アクセントの表記方法はいくつかあるようだ。調べていくうちに、どのような表記法が適切か、という議論も研究者の中で行われているようで、どうにも筆者の手に負える問題ではなかった。とりあえず、筆者の独断で、表記の方法を決めさせてもらう。
 筆者が選んだ方法は、アクセントが低くなる境目の部分に「’」を挟み込むという方法だ。先回りするが、「アーモンド」も「どうも」も高いアクセントに始まり、一度下がったら戻らない。ならば、どの位置で下がるかということだけを見れば良い。そして、わかりやすさのために、音の下がる直前の音節を太字で表す。おそらくその手の人からのツッコミは多そうだが、これは筆者の勉強不足と簡便化のために行なっていることをご理解いただけたらと思う。それはそうと、ツッコミは入れて欲しいが。
 とりあえず、アクセントを踏まえて音声表記をアップデートすると以下のようになる。
「アーモンド」→「’mondo」
「どうも」→「do’ːmo」
 「アーモンド」は最初の2モーラ、「うも」は最初の1モーラが高く、それ以降は低いアクセントである。

標準的に考えれば聞き間違いなど起こらないが……

 それぞれのアクセントの境目に注目してみよう。「アーモンド」は、境目の直前は「あー」の長い母音で、直後は「も」である。すなわち、「a」→「m」で、口を開いた状態から唇を閉じる動きとなる。「どうも」は、境目の直前は「ど」で、直後は「お」である。すなわち、「o」→「o」で、口の形を変えないまま音程だけが変わっている。調声の方法とアクセントの位置の関係から考えても、やはり、単純に二つの語が普段から聞き間違いを誘発する特性を持っているわけではない。しかし、これはあくまで標準的な発音での場合である。Pekora-Almond Effectがその名の通りぺこーら特有のあいさつにおいてのみ現れるので、やはりぺこーらの発音に問題があるのである(問題、と言っても、それはそれでぺこーらのチャームポイントである)。次回からはぺこーら自身の音声と標準的な発音を比較してみる。

おわりに

 ここまではこれから登場していく概念の説明と、「アーモンド」と「どうも」の標準的な発音がどのようなものか明確にするという、いわば土台づくりの回であった。また、Pekora-Almond Effectはぺこーらの発音においてのみ現れるということを確定させる目的もあった。ぺこーらだけでなく、他の人もPekora-Almond Effectを起こしうるという可能性を否定しなければ、これからの標準的な発音VSぺこーら特有の発音の比較が成り立たなくなるからである。ここまで大変長らくお待たせした。次回からようやく検証パートである。(まあ、次の検証が終わったらまたこのような基礎知識パートが始まるのだが……)


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