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#女たち  #短編小説 #超短編  Vol.11 

ナジワ(Najiwa)の場合

着信はシャオシェイからだった。

今日は彼とのデートだったのだろう。
進展のない彼との関係、ワンパターンなデートの不満を聞いて欲しいのだ。


まだ夜のお祈りが終わっていなかったのもあるが、今は電話に出る気持ちにはなれなかった。


昼過ぎ、新しいヒジャブを買いに、アラブストリートへ向かう地下鉄MRTの車内で、モハメドが美しい女性と楽しそうに話している姿を見かけた。

モハメドは、私が住むHDB団地と同じブロックの上の階に住んでいる。

たまにばったりリフトで遭遇した時に、軽く挨拶を交わす程度の仲だが、彼と会えた時、私の心は弾んだ。長い間、私のこの密かな思いは、続いている。


モハメド達を見かけた瞬間、私は咄嗟に違う車両に移った。

モハメドを意識的に避けた。

私が被っているヒジャブと、彼女が被っているヒジャブの色が、同じ紫色だったからだ。

どうして今日に限っていつものブルーのヒジャブを被らなかったのか。

自分が恨めしくなった。

だがすぐに恥ずかしさが込み上げて来た。

彼女にない自分の魅力を無意識に探していたことに。
それと同時に、彼に変な誤解をさせたくないという過剰な自意識に。

幸い、モハメド達は私が降りる2つ前の駅で降りた。

駅を出ると、スコールが降ったのか、道が濡れていた。

お気に入りの壁画がある道を必ず通る。

ヒジャブの店まで少し遠回りだが、自由に描かれた鮮やかな色彩を放つ壁画を眺めていると、
窮屈な世界から自分が解き放たれたような感覚になる。

ふと、この気持ちをシャオシェイは理解してくれるだろうかと思った。

それとも
You think too much lah!
考え過ぎよ!

と笑われるだろうか。


壁画を見た後、色とりどりのヒジャブを眺めていたら、さっきの自分のいたたまれない気持ちは不思議と消えてしまった。
だが、シャオシェイに、この気持ちを共有出来る自信はなかった。

新しいヒジャブは、少し奮発して、肌触りの良い、鮮やかなエメラルドグリーンのものを選んだ。

#短編小説 #超短編 #シンガポール
#多民族 #女たち








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