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#短編小説 #超短編         女たち Vol.6

 のりこの場合〜人生何があるか分からないね。

寒い季節がやってきた。

あたいは冬が大嫌い。

一年中あったかいところがあると聞いた事があるが、一生かかっても辿り着かないくらい遠いらしい。

最近、歳のせいか、冷たい風が吹くたびに
足の関節が痛む。

この界隈で仲間を見かける機会がなくなっちまった。

みんなどこに行ってしまったのか。

ガラス越しにいるあの子、あったかい毛布にくるまっていいなあ。
あたいも、一緒にぬくぬくしたい。

あたいだって今はこんな身なりだけど、
昔はみんなあたいの事を見るたびに
思わず立ち止まって見惚れるくらいキラキラしてたんだ。

あたいのばあさんは、どっかの国の高貴な生まれ。
何をどう間違えたのか、この国に連れてこられたのが最後、フーテンのじいさんと一緒になっちまった。

人生何があるか分からないね。

とうさんもかあさんも行方知れず。
天涯孤独。

お腹空いたなあ。
もう何日もまともなものを口にしていない。
何軒か食べ物を恵んでくれるところがあったが、最近は不景気なのか、そういう所も減ってきた。

塩分の取りすぎは体に良くないが、贅沢は言えない。

のりこ〜

あの声はリリーだ。
有名な占い師らしいが
あたいは占ってもらった事はない。

薄いピンクの毛玉だらけのセーター、
白髪染めを怠っているのか髪の根元が白くて
そのせいか、思ったよりおばあちゃんに見える。
あたいと歳はそんなに変わらないかもしれないね。

のりこ〜
おいで〜

あたいはいつからのりこになったんだろうか。
まあ名前がないよりゃあった方が何かの時には便利っちゃあ便利だが。

のりこ〜

しょうがない、リリーのご相伴にあずかるとするか。




#短編小説 #連載 #女たち #女

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