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河瀬直美監督「殯の森」を振り返る/森の中でのピアノ録音

11歳の少女が奏でる殯の音

河瀬直美監督「殯の森」を振り返ってみようと思います。
話題の多い作品ですが、今回は、森の中でのピアノ録音について。

若いときに妻を亡くしグループホームで暮らす認知症の老人しげき、子を水の事故で亡くし喪失感を抱えながら働く介護福祉士真千子、二人の心の交錯と死んだ者への悼みを描きながら物語は進んでいきます。
主演:うだしげき、尾野真千子。2007年カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。同年劇場公開されました。

2006年夏、劇伴音楽の録音が行われました。場所は森の中。演奏者は11歳の少女、坂牧春佳さん。ピアノは、グループホームでの撮影にも使われていた河瀬監督が子供の頃から愛用していた想い出のアップライトピアノ。

夜明け前、グループホームからピアノを運び出し奈良田原地区の森へ。調律師に同行してもらい現場で調整、調律。夜が開け出す頃、演奏が始まりました。

11歳の少女が奏でるピアノの音は、グループホームの部屋で聴いたときの音とは違っていました。森の中で音の粒が木々に反響し、ピアノがさらに豊かに鳴り始めた感覚がありました。録音には、風、雫、枝葉のざわめき、鳥の声など自然の音が一緒に入っています。この作品全体を通して聴こえてくる森の音、その中でのピアノ演奏と録音でした。

亡き人を偲ぶという意味をもつ「殯」。奈良田原地区には今も土葬の風習が残っています。ピアノの音はきっと地の下に眠る人へも届いていたと思います。


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