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マイルドに挨拶を叩き込んでくる庭師のおじちゃんの話

Cairoで暮らして1年。現地の人たちとの出会いを通じてたくさんの学びがありました。今日はその中から一つ、今住んでいるレジデンスの庭師のおじちゃんとのエピソードを紹介します。

おしゃべり好きなイスマイエールおじちゃん

彼の名前はイスマイエール。恰幅が良くて、お腹がポヨンとしていて、いつもネイビーのジャンパーと帽子を身につけています。イスマイエールはとにかくいつも笑顔。庭師らしいのですが庭にいることは稀で、いつも敷地内をうろうろしてはレジデンス内の住人やスタッフとおしゃべりしています。

イスマイエールの庭。ここにはほとんどいない。

今の家に引っ越してきてから最初の1ヵ月は、ほとんど現地の友達もおらず、家とスーパーとの往復くらいしか外出することはありませんでした。

息子の学校が決まるまでに1ヵ月ぐらいかかり、当時はこちらに友人もいなかったので、その間は大人の話し相手がエジプトにはいなくて結構寂しかったのを覚えています。


そんな中、会うたびに話しかけてくれたのが彼でした。

他のエジプシャンはどちらかというと、アジア人という物珍しさから声をかけてくることが多かったのですが、彼は違いました。彼にとっては、近くにいる人とおしゃべりするのは当たり前のことで、あたたかく声を掛け合うことが彼のライフワークのように見えました。

彼は英語をほとんど話すことができず、一生懸命、簡単なアラビア語と身振り手振りで私たち親子に話しかけてくれます。日常会話を勉強し始めた頃だったので、私はこれ幸いにと、思いつく限りの単語を使ってコミュニケーションを取ろうと試みました。


毎朝、同じ挨拶を繰り返す

息子の学校が決まって毎日のルーティーンに登下校が加わると、スクールバスの見送りとピックアップが始まりました。

その時間帯がちょうど彼のシフトに重なっていたようで、いつの頃からかほぼ毎日朝と午後、顔を合わせるようになりました。毎朝少しずつ違う言葉を教えてくれるイスマイエール。でも、特にこだわって私に教え込んだのは挨拶でした。

イスマイエール 「サバーハルヘール(おはよう)」

私 「サバーオンヌール(おはよう)」

イスマイエール 「イッザイエック?アーミルエー?(調子はどう?)」

私 「クワイエッサ、アルハムドリラー。クンルタマーム!(おかげさまでばっちりです。全部いい感じ)」

間違えると、何度も繰り返して言い直すチャンス(?)をくれます。このおきまりの挨拶が終わると、イスマイエールは「ボーイ、マドラサ?(息子は学校に行った?)」とか「イッガウヘル(いい天気だね)」とか、簡単な言葉で話してくれます。

私の回答は大抵「アイワ、ハムドゥリラ(そうですね、おかげさまで)」。もしかしたらイスマイエールは、私がそう答えられる質問を考えてくれてるのかもしれません。

そうすると満足気に、「グッド、グッド」と言いながら仕事に戻るのです。

時間にすれば30秒から1分位のやりとりなのですが、それでも毎朝誰かが声をかけてくれるのはすごく嬉しくて。そして何より、この反復練習を3ヶ月くらい続けたことで「挨拶はできるぞ」という謎の自信がみなぎり、自分から躊躇せずに話しかけていくことができるようになりました。
なので、私のエジプト生活が楽しくなったきっかけの一つは、このイスマイエールとの毎朝のやりとりだといっても過言ではありません。ほんとにありがとう。
いつかアラビア語で気持ちを伝えられるように勉強しようと思います。でもきっと彼にとっては「教えていた」とかそういう感覚はなくて、彼の日常生活の中の一コマにすぎず、穏やかに毎日を過ごしていただけ、というかんじなんだろうけど。

イスマイエールがおすそ分けしてくれた観葉植物、すくすく育ってる。


距離が近い!

エジプトでは、家族や友人はもちろん、見知らぬ人同士の距離がすごく近いです。

最初にイスマイエールに出会った頃は「このおじちゃんすごい話しかけてくるなぁ」とめんくらったんですが、エジプトに少しずつ慣れてくるとそれは彼だけではありませんでした。

地元の商店に買い物に行けば店主や店員は友達みたいなノリで話しかけてくるし、美容院やサロンでは近くの女の子に親しげに話しかけられることもしばしば。洋服を買おうとレジに並んでいたら「そのブラウスどこの棚にあった? あなたにパーフェクトに似合うね、きっと私にも!」と話しかけられたり。
(お金持ちエリアのショッピングモールだとまたちょっと違う雰囲気ですが、それでもみんな人懐っこいです)

距離の近さに戸惑うこともありますが、都会の儀礼的無関心の中で育った私にとっては、全く違う世界にきたみたいでなんだか面白い。大阪のおばちゃんのノリを知る人は、それによく似ていると話してました。

知らない人と、どんなときにコミュニケーションをとる?

危なっかしく見えるのか、エジプトに詳しい方やエジプシャンの友達から「エジプト人には簡単に心を開くな」と言われたりもしました。それでも挨拶だけは笑顔でするようにしています。

道を歩いていると、見慣れないアジア人に興味津々なのか頭の先からつま先まで無遠慮な視線を感じることもあります。でもこちらが笑顔かつ毅然とした態度で「アッサラームアレイコム(あなた方の上に平安がありますように、という意味の挨拶。こんにちはの代わりにすごくよく使う)」と言うとだいたいみんな笑顔で返してくれます。
たまに変な人だとバクシーシ(喜捨、といい、お金を恵んでくれと言ってくる人は普通にいます)を要求されたり、ナンパされたりするので困りますが……まぁ、その辺りの見分け方も最近はだいぶ上手くなってきました。 

日本(特に東京)にいると、知らない人には声をかけないのが礼儀、という感覚があります。声をかけるときはだいたい、謝るときや、よっぽど我慢できないときなんじゃないでしょうか。

エジプトでも、ケンカやトラブルはしょっちゅうで、路上で若者たちが取っ組み合いをしていることはあります。でもそれよりずっと、おだやかな世間話が多い印象です。カフェでも八百屋でも近所のアパートのバワーブ家族たちも、道行く人たちとおしゃべりしています。

どんなときも誰かに聞けば応えてくれる。
手伝ってくれる。
初めて会った人たち同士でも声を掛け合い、助け合える。

まぁ色々と不便なこともそりゃああるんですが、そんな安心感をどこかで感じることができるエジプト。東京生まれ東京育ちの私ですが、不思議なことにどこか懐かしさを覚えています。

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