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精神科診断に代わるアプローチ PTMF読書会の対話 4章 後編

現在開催中の【全10回:精神科診断に代わるアプローチ PTMF】読書会でおこった対話や白木先生の教えを元に構成しているレポートです。初学者の方にも易しく解説しています。
医療関係者だけではなく、人材開発、組織運営、教育現場の方にもおすすめです。
前回の内容はこちらから 👉PTMF読書会の対話 4章 中編


前編では、イデオロギーが作用する環境下でのMeaningとPowerの関係性をご説明しました。続く中編では、Meaningについて「PTMF」書籍の文中だけでなく、他分野でも重視される要素であることや関連するWell-beingについてご紹介しました。そして4章の最後となるこの後編では、パワーがどんな状況や原因によって発生し作用するのかをご紹介します。

私たちを苦しめる7つのパワーとは

言説(discourse)と説明される原因となるパワーには、大きく7種類が示されています。
① 生物的身体に関するパワー
② 人間関係のパワー
③ 構成的・暴力のパワー
④ 法的パワー
⑤ 経済的・物質的パワー
⑥ 社会/文化的資本
⑦ イデオロギーのパワー(価値・信条)

ここでは読書会で盛り上がった⑦と⑤についてご紹介します。

イデオロギーのパワーがもたらすナラティブの苦悩

イデオロギーとは、Oxford Languagesではこう記されています。

人間の行動を左右する根本的な物の考え方の体系。観念形態。「―は社会的立場を反映する」。俗に、政治思想。社会思想。

つまり、ここで指すイデオロギーのパワーとは、社会的立場や地位そのものが権力となって、ある人にとっては脅威(Thread)となりうることを指します。ここで示す社会的地位とは、会社での役職や社会的に力を持つ職業だけではありません。例えば親と子ども、経済格差が著しい居住地も含むでしょう。

今回の読書会で飛び出したある事例では、女性である ことが 女性ではない 方にパワーと働いたそうです。

女性のくせに!!

LGBTQで悩みを抱える方とある女性の方がお話した時の出来事です。この話題を提供してくださった方は、開口一番、罵倒され、驚き、言葉も失い呆然としたそうです。その言葉は「女性のくせに!!」

女性であることは生まれ持っている性質です。生まれてくる時に、自分で選択できません。けれども肉体的な性が「女性でないこと」に悩み、今までさまざまな方法で傷つけられてきた方にとって、相手の性別をもパワーとなりうるのです。

私は「女性」という言葉に刻まれる期待される生き方(役割期待)に疑問を抱いてきました。私自身が地方に住むからこそ感じるその地域や環境に特有な感覚かもしれません。
周囲の環境から「こうあるべきだ」と好きな色や思考、そして希望を制限されている感覚を、ひしひしと感じてきました。真綿で締められるように。

だからこそ「女性のくせに!!」のお話を伺った時に、自分自身に育んできたMeaningを改めて自覚しました。女性であることに楽しさや、めんどくささを感じたことはあったものの、知らず知らずのうちに誰かを苦しめていることもあるのかと痛感しました。

PTMFの書籍ではこのように、無意識のうちに誰かを傷つけてしまうことを指摘しています。

他には「新自由主義」についても述べています。

新自由主義では、個人の自由、主体性、選択、自立と責任を強調し、ビジネスではできる限りルールや規制から自由であるべきだという考え方が推し進められます。効率と繁栄のために必要だともいわれました。この考え方は、福祉や公共サービスへの支出削減など、政府の役割を最小限に抑えようとすることの裏付けとされました。

出典「精神科診断に代わるアプローチ PTMF: 心理的苦悩をとらえるパワー・脅威・意味のフレームワーク」 メアリー・ボイル, ルーシー・ジョンストン著/ 石原,白木ら訳/北大路書房出版

マイケル・サンデル教授の書籍でも指摘され、この思想が社会的な格差を生み出したのではと議論されてるのはご存じですよね。
※マイケル・サンデル教授の書籍は文末にご紹介します。

経済的・物質的なパワー

前述の通り、パワーは目に見える経済格差だけではないようです。対話で上がったのはパラダイムシフト。新しく発生するパワーもこの中に含まれるようです。例えば、「信用」。今では数値化されて経済的条件と並ぶ指標として活用されています。
私が研究するWell-beingに関しても様々な指標が開発されていますが、使用者の目的が「改善」ではなく「除外」であればあるほどパワーが強くなり、脅威ともなるのでしょう。
さまざまなランキング、あるいは生まれた国、持つ言語が誰かのパワーとなるのかもしれませんね。

聞ききるとは何か

今まで心理分野にはなかった「社会学」からの視点

私が白木先生に「PTMF読書会企画」をご相談したきっかけは、他の精神心理分野の書籍よりも実社会の事例が多く理解がしやすかったためです。今までのオープンダイアローグの話は思想や哲学の部分は共感を得ているのですが難しい医学用語や病名が多く、私にとっては正しく理解することが困難でした。

このPTMFの書籍は社会学に通づるものがあり、病名や状況が「医療関係者ではない私」でも想像しやすかったのです。同じように精神心理や対人支援の業界以外で活躍する、多くの人の共感と理解が得られると感じました。
また、以前にも増して心を患う人が増加する一方(注1)で、それを支える人々もこの社会的背景を理解することで、気持ちが楽になる部分もあるのではないか。

自己実現に陥らない対話を

「臨床が上手くなりたい、、」というお声を耳にします。先生方はより高い専門性を求め日々訓練されています。人の役に立ちたいという姿勢や志を尊敬し胸を打たれています。一方で、「臨床」において人の話を聞き寄り添うということは一体、何でしょうか。技術を研ぎ澄ませることは時として、技術を得ることこそが目的にすり替わり目の前の人を見えなくしてしまう危険性もはらんでいます。

これは多くの職場・業界でも起きていることではないかと推測します。上司が部下の話を聞くとき、対等な立場で心ゆくまで対話がなされているのでしょうか。

主観的なあたり前が、誰かのありのままをもみ消してしまう。今回の事例や参加者の心の機微を感じながら、自分の行動をふりかえりたいと思っています。

次回の読書会は第5章「その出来事はあなたにどのような影響を及ぼしましたか?」の前に立ち止まってみた
です。レポートをお楽しみに!

Writer:豊川真美


注1: 出典)厚生労働省「第7次医療計画の指針に係る現状について:P2 精神疾患を有する総患者数の推移」より(2022年2月)
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000892236.pdf


今回ご紹介した書籍はこちらからご覧いただけます。
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P(パワー)T(脅威)M(意味づけ)F(フレーム)は精神科診断によらないアプローチであり精神科医や心理専門職など職種を選ばず幅広く活躍すると期待されています。】
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👇マイケル・サンデル教授の書籍はこちらから。


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