液体を吸い込むバキューム音。ホースを流れる水分は透明のようでいてそうではなく、臭いはこの部屋の一部になってしまっている。この装置の正式名称は「自動採尿器」というらしい。つまり、寝たきりでトイレに行けない人間でも、このホースの付いたカップを局部に添わせればセンサーが排尿を感知し吸い込み機能が作動、そのままベッド下にあるタンクに溜めてくれるのだ。 玄関先でかすかに物音がする。誰か来た。それでも伊吹は気にかけなかった。今この手を離すわけにはいかないのだ。 駒田伊吹の右手が支える
図書館が好きだ。 小学生の頃、児童書エリアから一般図書エリアに私を手招きしたのは赤川次郎だった。当時、空前の赤川次郎ブームが起きていて、名前だけは知っていた。角川映画二本立ての原作の人らしい。どうしようもなく興味をそそられた。 大人の本を借りてもいいのかな、と緊張しながら手にした『三毛猫ホームズ』。 親におマセと思われたくなくて、「図書館の人がすすめてきた」とすぐにバレる嘘までついた。以後、中学卒業するくらいまで次郎ヘビーリーダーであり、その間、女子は林真理子の洗礼を受け、
「私、ひとりっ子ってことになってるけど、本当は秘密の弟がいるんだ」 「えっ?」 高校生の頃のことなので、平成の最初の頃。クラスは違うけれど部活が一緒だった同学年のH子が突然こう言った。 それほど仲良かったわけじゃないけれど、打ち明けられてしまった二人きりの帰り道。H子の弟くんは生まれつき重い障害があって、施設で暮らしているのだそう。ひと月に一度、両親と会いに行くんだ、と彼女は言った。 「ひとりっ子でなんでも買ってもらえていいね、って言われるたび、本当は違うんだけどって