誰かとどこかで
こんな話しを聞いた。
ヨーロッパの上空で、スーツケースに仕掛けられた爆弾か爆発して、某国の飛行機が墜落したことがある。
農村地帯の小麦色の畑の中に、飛行機会社のロゴのついた機体の一部がバラバラになっている写真が新聞の一面に掲載されていた。
この話をしてくれたのは、その農村地帯のあった国の人で飛行歴が空軍時代を含めて30年になろうとする、パイロットだ。
テロがあってから次の日くらいのことだったらしい。
ヨーロッパのハブ空港で、夜中見回りの警備員がシェパードを連れて歩いていた時、人の誰もいないゲートの前でシェパードが激しく入り口に向かって吠え出した。
テロ直後で、各国の空港の警備はみんなピリピリしていた。
ゲートの外から見ると特に異常は見られない。
でも訓練された犬は不安げにそのゲートの前を離れずにウロウロしている。
警備員は、ライトをつけて電源の落とされた機内に犬を連れて入った。
人気もない機内を一周したが、特に犬もその後は吠えることもなかった。
警備員は他のゲートも見て周り、その日シェパードが吠えたゲートナンバー、メモしてあった機体番号と航空会社を報告書に書いて異常なし、そう付け加えると夜勤を終え家に帰った。
翌日、出勤した警備員は、上司にすぐにきて欲しいと呼び出された。
会議室に入ると、いつもの警備会社の上司だけでなく、空港管理の会社の人もいた。
警備員はその日の様子を報告し、シェパードもその後は何もおかしいところはなかったと話した。
警備会社の上司と空港管理の人はしばらく見つめあった後、少し青ざめて話してくれた。
その日、そのゲートには飛行機は止まっていなかったこと、本来は墜落した飛行機がそのゲートを使うはずだったこと、報告された機体番号も飛行機会社も打ち落とされた飛行機のものだったこと、そしてこの報告は無かったことにすると。
パイロットは言った。
不思議だよね。
でもこういう話は隠そうとしてもダメなんだ。
人はこういう話に出会うと誰かに話さなくてはいけないと思う。
忘れてはならない話だとそう感じる。
そして無実の人が亡くなったのだから、帰らせてあげないとって、飛行機だって思うさ、と。