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「トークン化」の実相についての試論(5)ー動産のトークン化

前回は不動産のトークン化について、現物はちょっと難しそうであること、信託受益権構成がありうるものの、いろいろと考えなければならないことがあること、についてご説明しました。

ちなみに、不動産のトークン化の方法として、不動産の引渡請求権をトークン化するというアイディアがありえます。不動産の引渡請求権は所有権に基づくものと債権的なものがありえます。所有権に基づく不動産の引渡請求権については、不動産所有者AがBに不動産の管理を委託した場合、AはBに対して所有権に基づき不動産の引渡請求権を持つことになります。これをトークン化するという発想ですが、引渡請求権は物権と紐付いているので、これは要するに不動産の所有権持分をブロックチェーンで帳簿化して管理しているということに過ぎません。したがって、対抗要件の壁は超えられないということになろうかと思います(第4回ご参照)。債権的な引渡請求権について考えてみると、たとえばAがBに不動産を売却して、Bが売買代金をAに払いますと、BはAに対して「自分に不動産を引き渡せ」と請求することができる権利を持つことになります。これとトークン化するという発想です。この場合も、指名債権譲渡に関する論点(第4回ご参照)が出てくることはわかっていますが、それ以外にどのような問題がありうるか、不動産特定共同事業法の問題はどうか等考える必要がありそうです。

動産のトークン化は、たとえば金地金(ゴールド)のトークン化などが考えられます。不動産との違いは、動産は引渡しによって物権変動の第三者対抗要件を具備することができる点にあります。この引渡しには、現実または簡易の引渡しのほか、①自分の手元に動産をおいたまま、今後はキミのためにこの動産を保有すると宣言する方法(占有改定)、②AがBに動産を保有させておいたまま、Bに対し、「今後はCのためにその動産を保有してくれたまえ」と指図する方法(指図による占有移転)が考えられますので、第三者対抗要件は具備しやすいといえます。

方法としては、いくつか考えられますが、たとえば、金地金の所有者Xが、これを管理してくれるYに対して、金地金の保管を依頼します。Xは、Yから所有権に基づいてYから金地金を返還してもらうことができる地位を持ちますので、この地位をトークン化します。すなわち、ブロックチェーンの帳簿は金地金の持分権利台帳ということになります。Yには管理者ノードを持ってもらうことになります。そのうえで、トークンを譲渡するとともに、譲渡に際してYに通知が行くようにします。このようにすると、指図による占有移転の方法により、トークンの保有者=金地金の持分所有者(第三者対抗要件あり)という状態を作り出すことができるように思います。金地金の保管が倉庫業にあたるのか、倉庫証券に関する規律との関係はどうなるのか等、詰めなければならない論点はありますが、面白いと思った方は考えてみてもよいかもしれません。

なお、金地金を信託に入れて信託受益権化し、信託受益権をトークンとするという発想もありますが、この場合には不動産の信託受益権化の場合と同様の論点が出てくることになります。

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