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日本人は日本美術を学ぶ機会がない

2013年まで板橋区立美術館長をしていた安村敏信という人が、2005年に、著書でこんなことを書いている。

日本の美術がわからないからといって恥ずかしがることはない。(中略)そもそも、日本の通常の義務教育で、日本の美術を教えることはないといっても過言ではない。小学校・中学校の美術の時間を思い出して頂きたい。(中略)日本美術の作品写真か何かを見せられて、その素晴らしさについて熱く語ってもらったことはおそらくないだろう。(中略)日本の雪舟の絵や運慶の彫刻を見せることはまずない。こうした美術教育で育てられた我々日本人が、日本の美術から遠ざかってしまうのは当然のことである。(安村敏信『すぐわかる画家別近世日本絵画の見かた』(東京美術、2005年)、pp. 2-3

そういえば、日本の美大や美術学校では、水墨画を習わないと聞いたことがある。水墨画って、スケッチの手段として実はすごく便利なのに。

で、いざ、日本美術に興味を持ったとしても、常設展がない。常にアンテナを張って、今この美術館でこの作品が観れる、という情報を集めないといけない。同じ展示企画でも、途中で展示入替するし。

あと、あちこちのお寺に散在している。で、このお寺にあると思って行ってみたら、京都国立博物館に「寄託」されているので、模倣品だけが置いてある、とか。そういった「寄託」されている作品も、この間の「京博寄託の名宝」のような企画展でたまーに見ることしかできない。

戦後日本の風景が美しくないことの一因?

戦後日本の風景が美しくない、というのは、この辺に理由がある気がする。日本の自然風景から生まれてきたはずの、江戸時代までの日本人の美意識に触れることが異常に難しい。

例えば、俵屋宗達の「風神雷神図屏風」。

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有名で、絵柄はよくコピーされるので多くの人が見覚えがあるだろうけれど、本物を見た人はどれぐらいいるんだろうか。そして、その良さを学んだ人はどれだけいるのだろうか。実際に見るのと写真で見るのとは大きく違う。これは屏風絵なので、実際には左右それぞれの真ん中が折れている状態で見ることになる。絵の構図が、実はそのことをちゃんと考慮していて、風神雷神が中央へ迫ってくる躍動感を生み出している。そういうのって、空間デザインで重要な気づきだと思う。

ちなみに、上に載せた「風神雷神図屏風」の画像は、2017年に京都国立博物館で開催された「国宝展」のホームページから保存したものなのだが、そのページ (https://kyoto-kokuhou2017.jp/)は既に存在せず。これでは、日本美術の情報がウェブ上に蓄積されない。Google しても、関連情報に辿りけない。。。

ロンドンの場合

ロンドンに住んでいた時、National Gallery という美術館によく足を運んだ。ヨーロッパ美術史の主要作品が多数、常時、展示されている。しかも無料。学校教育の一環で、先生に連れられて来た子供達が大挙して見に来ていたりする。

ロンドンはここ数年、急速に東京のような、ごちゃごちゃな風景に変貌してきているけれど、でも、新しくできる場所の空間としての美しさは素晴らしいことが多い。美意識を磨こうと思えば、結構簡単にできるという環境のせいじゃなかろうか。

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