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ある児童虐待

この場に何度か書きましたが、昨年、8ヶ月間、私は「介助員」という仕事をしました。
普通学級に通う、重度知的障がい児の「介助」をする仕事です。
何故、重度知的障がい児が普通学級に通っているか。
保護者の「インクルーシブ教育」という夢を叶えるためです。

インクルーシブ教育。

障害のある子もない子も同じ環境で学校生活を送る。
一つの理想の形であり、国内外にはそれを実現しているところもあるようです。
しかし、私が経験した「インクルーシブ教育」は名ばかりで、その理想からは程遠いものでした。
普通学級の教室に席があるものの、当然、勉強にはついてゆけません。
食事、着替え、排泄のいずれも自立していません。
加えて、食べ物を飲み込む機能にも障害があり、通常の食べ物を食べるのは危険な状態にあります。
さらには、足にも障害があり、今のまま放っておくといずれ歩けなくなるのは明らかです。
それでも、保護者は普通学級にこだわり、給食用にはさみを持たせ、それで食べ物を刻んでくれといい、歩行訓練も学校でして欲しいと言う。
しかし、このような子にきざみ食はかえって危険。
そのことは専門家から保護者にも伝わっています。
また、私たち素人の介助員が歩行訓練などできる訳はありません。

部屋の片隅にある席で、好きは本をパラパラ見て過ごす毎日。
機嫌が悪くなると奇声を発し、ゆかに寝転がり、机を蹴飛ばし、介助員の髪や衣服を引っ張る、つねる、叩く、噛みつく。
手に負えなくなると、誰もいない別室に連れて行って、そこで気持ちが落ち着くのを待つ。
本人の自立に必要な訓練は一切おこなわれていません。

障がい者や高齢者が施設ではなく、地域で暮らす「地域移行」には大賛成です。
そのためにこそ、この子は特別支援学校/学級に通って、少しでも自立に必要な生活動作の訓練を受ける必要があるのではないでしょうか。

それを頑なに拒む保護者。
いったい、何を求めているのか、理解に苦しみます。
私の個人的な感想ですが、この子はいずれ命を落とすのではないかと思っています。
或いは、良くても施設で全介助の生活を送ることになるでしょう。
皮肉なことに、「インクルーシブ教育」という理想にしがみつくことによって、地域移行の波にも乗れないことになってしまいます。

これは一種の「児童虐待」ではないでしょうか。
教育を受ける権利をはく奪しているとも言えます。

学校や市役所に実情を訴えても何もしない。
何も変えようとしない。
それは保護者が頑なだからです。
そのような状況を見かね、私にできることはないと感じたため、この職を辞することにしたのです。