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日々雑感【海外駐在の話】

私は現役時代(今も、だけど)に海外に赴任していた時期があります。

おそらく他社でも似たようなことがあると思いますが、海外での仕事は日本での仕事と違って、多くのことをやらなくてはなりません。

私の場合で言えば、販売系の会社だったので、「売る」ことに関する仕事はもちろん、自分が管理する部門の収支の管理、現地人社員の仕事の管理や採用を含む人事管理、日本の本社との折衝などなど、それはそれはたくさんの業務がありました。

これらの自分の仕事ができるのは現地人社員たちが退勤した後なので、毎晩遅くまで残業していました。
大変でしたが、この「守備範囲」の広さが海外駐在員の面白さでもありました。

赴任して1ヶ月が経ったころのこと。
私より前に赴任していた先輩社員からこんなことを言われました。

「◯◯さん(私)は『自分がいなくてはダメだ』って思っていませんか?」

もちろん、そうでした。
何から何までやっている自分がいなければこの組織は回らない、だから頑張らなくては、と。

その人は続けてこう言いました。

「でも、それじゃいけないと思うんです。◯◯さんはいつまでもここにいるわけじゃない。だから、あなたがいなくなっても回る組織を作ることが駐在員の役割だと思います。」

ハッとしました。

自分が何でもかんでもやってしまったら、人は育たないし、自分が日本へ帰任したら、後任の駐在員がまた同じことをやらなくてはならなくなります。
それは組織として無駄なことですし、人だけでなく、会社も成長しません。
現地人社員たちは私が帰任した後も、その会社にいるわけですから、その人たちだけで組織が回るようにすることが自分の役目だと思うようになりました。

それ以降、できるだけ仕事を部門の現地人社員に任せることにしました。

例えば、製品を日本から仕入れる業務をやっている社員がいます。
それまでその社員がやっていた業務は、私が決めた販売目標台数や金額と私が決めた仕入れの数値を計算して、私に報告することでした。
この管理がうまくいかないと、不要な在庫を抱えることになり、部門の収支は悪化します。
ですから、日々の販売状況に応じて、仕入れの数も変えなくてはなりません。

「こんな重要なことを人に任せるわけにはゆかない」と思っていました。

しかし、この仕事を、判断も含めて現地人社員に任せることにしました。

その時点での目標販売数値に対して、どのくらい仕入れたら良いかをその社員なりに検討、計算してもらい、発注数量を決めてもらうようにしました。

もちろん、このような判断は一朝一夕にできるようになるわけではありません。
時間がかかります。
ですから、そのための指導をしながら、徐々にそれができるようにしてゆきました。

別の例。
製品の広告をすることも大切な役割でした。

そのために、何社かの広告会社に対して製品の概念や訴求点などを説明し、その上で、広告案を考えてもらいます。
そうして、出来上がってきた案の中から、その製品に最もふさわしいと思う提案をしてきた広告会社に決めます。

この一連の仕事をおこなうために、私が決めた広告会社を呼び、広告会社に説明するために私が決めた資料を作り、私が広告会社に説明し、出来てきた広告案を見て私が判断して委託先を決めていました。

現地人社員がやっていたことは広告会社に連絡をとり、私と広告会社の打ち合わせに同席して議事録を取ることくらいでした。

この「私が」決めていたことを現地人社員に任せることにしました。

どの案を採用するかも任せました。

いずれの例の場合でも、私が現地人社員に言ったことは、

「仕入れ計画や広告が失敗したら、責任をとってもらいます」
「責任というのは、給料が下がったり、配置転換されるということです」
「ただし、あなた達の失敗はあなた達に仕事を任せた私の責任です。ですから、私も会社に対して同じような責任を負います。」

ということです。

大きな賭けでした。

しかし、これをやらなくてはいつまで経っても駐在員の仕事は減りません。

駐在員の「管理者」としての役割はこのような仕組みを作り、残して帰任することだと思います。

この結果がどうだったか。
それは私が判断できることではありません。
その評価は、その会社や本社の経営層がおこなうことです。

ただ、一つ感じていることは、このように仕事を任せられることによって、それまで単純業務だけをやって「歯車」でしかなかった現地人社員が生き生きと働くようになったように見えたということです。

そして、そう感じることができたことが私の成果だと思っています。

このようなことは海外の会社に限ったことではありません。
日本においても、会社や組織の大小にかかわらず、人を育て、組織を作るということが管理職の役割だと思います。