平櫛田中(ひらくし でんちゅう)
私の家の近くに「平櫛田中彫刻美術館」があります。
私は芸術には疎いので田中のことは知りませんでした。
ある日、ジョギング中に偶然この美術館の前を通り、「せっかくだから」と思い、入ってみました。
そして、その数々の彫刻品を観るに従い、ぐいぐいと田中の世界に引き込まれてゆきました。
遠くをじっと見つめる老人、何かを悟ったかのようにぼろをまとい飄々とした男、この世の苦しみも悲しみも笑い飛ばしてしまえとばかりの笑顔の僧侶...
それぞれが生き生きとしており一つ一つの作品に時の経過を忘れて見入ってしまいます。
最も衝撃的だったのは「転生」と題された鬼の彫刻。
「迫力のある鬼の彫刻?」と思ってよく見ると、口から人間を吐き出しています。
解説によれば、「生ぬるい人間を食べた鬼がそのまずさに吐き出した様を作ったもの」とあります。
この美術館は田中が晩年を過ごした家をそのまま使っています。
その和室に掛けられた額に書かれている言葉にも感銘を受けました。
「いまやらねば いつできる わしがやらねば たれがやる」
「不老」という大きな文字に添えられた「六十七十は はなたれこぞう おとこざかりは百から百から」という言葉。
田中自身107歳の天寿を全うしました。
数々の彫刻やこれらの言葉に田中の厳しい生き方を感じることができます。
小さなことにもすぐに心が揺れ動いてしまう今の自分。
鬼に吐き出されないような「おとこざかり」を迎えられるようになりたいものです。