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365回の

来年の手帳の最初のページを開いてみる。見開きのページに月ごとに1月から12月まで縦に日付が並ぶ。
たったこの1ページの間に、季節が変わり、また終わる。
365日。
365回の夜と365回の夜明け。
365回のおはようと、365回のおやすみ。

先日、仕事場のエレベーターで、息子を取り上げてくれた助産師さんと一緒になった。おはようございます、とあいさつした後、息を吸い込んだ。
「あの、息子、取り上げてもらったんです。ありがとうございました。おかげさまで元気に育ってます。もう10歳になりました。ずっと言おうと思ってて、今になってしまいました」
ちょっと緊張して早口になってしまった。その助産師さんは真っ白の頭をちょっと下げて、
「ご丁寧にありがとうございます」
と笑ってくれた。
あ、まだいらっしゃるんだ、と見かけてから、言おう言おうと思い、1年近く経ってしまった。せめて辞めるまでに、と思ってやっと言えたのだった。
毎日、赤ちゃんが産まれている。少しでも関わりを持てたことに意味はあったのだと思う。
1年間、怒涛のようだった。
ただ過ぎていった日々は消えてはしまわないのだと思う。
例え自分で取り出すことができないとしても、この世界のどこかに大切にしまわれているのだと信じていてもいいのかなと思ってみたりする。
眠る赤ちゃんのぽかんと平和に開いた口も、ぎこちなく大事そうに抱えるお母さんの表情も。
また、季節が終わっていく。

#エッセイ #365日  #365回 #日々

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