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蝶々の粉

雨上がりの蝶々ほど無防備なものはないのかもしれない。やっとありついたご馳走に夢中で、至近距離まで近づいても気づいていない様子だった。
久しぶりに近くでじっくり蝶々を見た。
細いストローを伸ばし、花を弄る。
小さいころ、蝶々を手で捕まえようとした。
虫取り網では簡単に捕まるけど、素手ではそうはいかない。
音を立てずに近づき、羽の部分をつかもうとした。
手の先が一瞬、羽に触れ、蝶は慌てて飛び立った。手に粉がついた。蝶の羽と同じ色の粉だった。
鱗粉という名前の粉は、雨から羽を守ったり、飛ぶために抵抗を減らす役割もあるらしい。
実際、鱗粉をすべて取ってしまうと、蝶は飛べなくなる。
一度取れてしまうと二度と戻ることはないようだ。
そんなに大切なものならどうして再生する機能が備わっていないんだろうと思わなくもないけれど、きっと自然とはそんなもんなんだと思う。
死んだ蝶は土になり、草花の栄養になる。
生も死もこの世界では同じ価値がある。
誰も目に止めないような道端の小さな世界に、なにか大切なものがギュっと詰まっているような気がしている。

#エッセイ #蝶々 #鱗粉

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