はじめの雪
すごく昔、南の方から来た人がはじめて雪を見たとき、どんなふうに思ったのだろうか。
車を運転していてトンネルに入り、前方の出口から見える景色はスローモーションのようだった。
ゆっくりと白いものが途切れることなく落ちていく。
音も匂いも消えて、急に時間がゆっくりになって、周りの景色が沈んでいくような。
川端康成は「夜の底が白くなった」と書いたけれど、はじめて雪を見た人は、美しいと思っただろうか、それとも怖いと思っただろうか。
科学が未発達だったころは、虹ですら不吉の象徴だったと言う。
はじめて見た雪をわたしは覚えていない。
2歳のわたしを抱っこした母が雪の中に立っている1枚の写真を思い出す。
あの年はものすごく積もったと、母から聞いた。
その頃の記憶はもちろんないけれど、母の腕の感覚だけ、なんとなく覚えている気もする。写真を撮ったのは父だろう。
ひっそりと舞う白いものは、懐かしく降り積もっていく。
嬉しいでも悲しいでもなく、ただ時間が過ぎた分だけ積もっていくのを、眺めている日。
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