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パールのネックレス

20歳ぐらいの頃、パンフレットを持った父に聞かれた。
「そろそろパールのネックレスいるやろ、買ったろか」
「別にいらん」
即答した私を見て父は鼻で笑った。
「そのうち、頼むから買ってくれって言うようになるやろな」
言い返しはしなかったが、心の中で大きな問いが頭をもたげてきた。
どうして決めつけるのだろうか。
父は男性には珍しく宝石や鉱物が好きなようだ。お土産は天然石の詰め合わせだったり、きれいな貝殻だったり、小さな化石だったりした。母も宝石は好きなようだ。あまりつけないのに大量に持っている。私はというと、おばちゃんになった今でもあまり宝石に興味が湧かない。全く持っていないわけではないけれど、宝石と呼べるものはもしかして婚約指輪ぐらいかもしれない。
どうしてかと考えてみると、どうやら私は身に付けるのがあまり好きではないようだ。
ネックレスもイヤリングもたまにはつけるが、なるべく身軽でいたい。
考えてみればバッグの中身もおそらく少ない。ブラジャーやパンツですら、身につけたくないと思うことが多い。
たくさんものを持つのが億劫なのだ。
かといって、おばちゃんといえども一応女子だから、人並みの身だしなみは必要だと思っている。パールのネックレスは結局、母のお下がりを結婚したときにもらった。
もしかしたらそのうち欲しいと思うのかもしれない、と考えてみる。その時は父にねだってみようか。父はどんな顔をするだろう。私の頭の中には少し照れて無精な表情の父の顔が浮かんだ。

#パールのネックレス #エッセイ #宝石

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