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手帳の中の日々

使い終わった手帳は2年ほど置いて捨てることにしている。去年の手帳を引き出しから引っ張り出してみた。
ウィークリーのページは余白が多く、その日あったことやちょっとしたメモが書かれていた。
10月29日、帰ってきたら、車にただいま、と声をかける。なぜか、かわいいと思う。
7月8日、SFみたいな夢ばかり見る。光る車、夜空。
9月5日、黒いアゲハ蝶が洗濯物に止まった。
ぽつりぽつりとメモがあるものの、ほとんど真っ白だった。
なんとなく覚えているものもあるし、なんじゃこりゃというものもある。
手帳の間から何か落ちてきた。おみくじだった。
そういえば、年明けに引いたおみくじは凶でない限り、手帳に毎年挟んでおくことにしているんだった。
今年のお正月に奈良の松尾大社で引いたおみくじだった。末吉、と書かれている。
〈吹きあれし あらしもいつか おさまりて 軒端に きなく うぐいすの こえ〉
おみくじに書かれた歌が身に染みる。
なんでもないような日々の積み重ねで人生はできているのかもしれないと改めて思う。
使い古された手帳の中の日々が全部何かで埋まっていなくてもいい。
私の手帳は余白だらけだ。

週刊キャプロア出版 72号 手帳より

#手帳 #キャプロア出版 #エッセイ

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