![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/144532778/rectangle_large_type_2_af1c20068950e84864b9a1447695c8f7.jpeg?width=800)
五千円札のつくりかた
五千円札が急に必要になった。
必要なことは前からわかっていたのだが、あると思っていた五千円札が財布の中になかった。
黒と白の水引きの封筒におさめる五千円札が必要なのだ。千円札5枚では代わりが務まらない。
休日の朝。発覚したのは出かける直前。
一番近くて両替できるところは?
駅だ。
駅でなんとかしよう。どのみち駅に行くのだ。駅に行けば券売機がある。
券売機に千円札5枚を投入し、「取り消し」のボタンを押した。
出て来い五千円札。
千円札5枚が出てきた。五千円札1枚に化けなかった。
千円札9枚ではどうか。五千円札1枚と千円札4枚に化けないだろうか。
券売機に投入し、「取り消し」のボタンを押した。
出て来い五千円札。
千円札9枚が出てきた。
そうか。「受けつけを取り消し」ているだけだから変身しないのか。入れたものがそっくりそのままの姿で返されるだけなのか。
おや、改札の近くにATMがあるではないか!
コンビニまで行かなくてもここで両替ができる!
両替のボタンは……なかった。
五千円札が出てくることに懸けて、預金を引き出そう。でも、時間外手数料がかかるかも。ええい、背に腹はかえられぬ。
「5000円」を引き出すことにした。
出て来い五千円札。
千円札が5枚出てきた。野口英世が5人。
ダメか。
細かいほうが普段はうれしい。普段は。でも今は五千円札が欲しい。
不幸中の幸いで、手数料はかからなかった。ステージによっては無料になるらしい。
手数料がかからないなら、もうワントライしてみよう。
9000円ならどうか。五千円札1枚と千円札4枚に化けないだろうか。
「9000円」を引き出すことにした。
出て来い五千円札。
「手数料330円」と画面に表示された。
さっきはかからなかった手数料が今回はかかる。この1分の間に越えてはいけない一線を越えてしまったらしい。しかも330円。取り消そうとしたが、時すでに遅し。
ランチサービスだと思って頼んだコーヒーが、サービス提供時間を過ぎて有料だと知ったが、すでにオーダーが通っていてキャンセルできない。そんな状況。
タダだと思ったから注文したコーヒーの苦いことよ。
こうなったら、意地でも出て来い五千円札。
非情にも千円札が9枚出てきた。一葉召喚ミッション、インコンプリート。しかも330円課金されてしまった。
9000円を吐き出すだけで330円。
330円あれば、去年95円から110円に値上げされた御座候が3つ買える。
英世がさらに9人ふえた。元からいた9人にATMで14人が加わったことになる。
英世が23人。
英世はもういい。一葉が欲しい。HIDEYOとICHIYOはちょっと似てる。
ATMに見切りをつけ、券売機に引き返す。
おつりで出せないだろうか。
財布を見ると、一万円札があった。
切符を買おうとして、「Suicaにチャージ」を思いついた。冴えてる。というか、最初からそうすれば良かった。
1000円チャージすると、おつりの9000円が五千円札1枚と千円札4枚で出てきた。
勝った!
五千円札の壁を超えた!
手こずったゆえの達成感。おめおめと帰れないと思ったからひらめいたのだ。手数料330円は教科書代だ。
いいこと教えてあげよっかと若者をつかまえた。
「駅の券売機で五千円札を出す方法、知ってる?」
「Suicaにチャージ」
即答だった。
「他の方法ってあります?」
330円払わなくても、知ってる人は知っていた。
目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。