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警戒レベルの沈み込み─熱量10割の男・新島「お客様には膝休めが必要です!」の巻


鈴蘭さんに捧げる新島新作

clubhouseの膝枕リレーでダントツの登板回数を誇る鈴蘭さんが、6月28日、突然clubhouseに入れなくなった。

こんなメッセージが表記されたらしい。

「あんた使い過ぎてるから出直して」と制限がかかった状態。

これがなかなか解除されず、毎日15時にルームの予約は入っているのだが、鈴蘭さんが入れず、ルームが流れてしまうという事態が1週間続いている。

まさか、膝枕に沈み込み過ぎて健康被害が出ないようにとclubhouseがお節介を焼いたのだろうか。

と妄想をかきたてられ、熱量10割の男・新島に鈴蘭さんらしき人が相談の電話をかけてくる新作を書いてみた。

鈴蘭さんの復帰祈願も兼ねて。

clubhouseでブツブツ読み上げ(replayは下に)、音で推敲したのち、公開。

🔥タワシ膝枕はあの日のタケシ君です!
🔥AIに負けるわけにはいきません!

に続く、新島第3弾。

膝開き(初演)は鈴蘭さんにお願いします。

今井雅子作「膝枕」外伝 熱量10割の男・新島「お客様には膝休めが必要です!」の巻

N「休日の朝、独り身で恋人もなく、打ち込める膝だけはある熱量10割の新島は、いつものように出社した」

新島「お電話ありがとうございます! 膝枕カンパニー、カスタマーセンターの新島が全力でお答えします!」
客(電話)「あのー、不具合で膝枕のルームが開けなくて、困っているんですが」
新島「膝枕が開かない不具合でございますか? 開かないのは外箱でしょうか? 中袋でしょうか? それとも膝でしょうか? はたまた、心を開いてくれない、のお悩みでしょうか?」
客(電話)「膝枕のルームです」
新島「膝枕のルームウェア、でございますか?」
客(電話)「いえ、ルームです」
新島「お客様、当社の膝枕製品はすべてルーム仕様、つまり室内用となっておりますが……お客様のお膝の番号はおわかりになりますか?」
客(電話)「膝番号は130です」
新島「130でヒ、ザ。番号の続きをお願いします」
客(電話)「130で終わりです」
新島「お客様、ご注文番号は461の1313の222のように10桁の表記になっているはずなのですが」
客(電話)「130は私の膝番号です」
新島「お客様の膝枕の注文番号、略して膝番号、でございますよね?」
客(電話)「いえ。膝枕リレーの膝番号です」
新島「膝枕リレー? ああ、ファンクラブイベントの膝枕運動会についてのお問い合わせですね? お客様、こちら、商品のお問合わせ窓口になっておりまして。ただいまイベント担当におつなぎいたします」
客(電話)「いえ、新島さんにご相談したいんです」
新島「わたくし新島をご指名でございますか⁉︎」
客(電話)「はい。熱量10割の新島さん、ですよね?」
新島「はい。熱量10割の新島ですが、お客様、私のことをどちらでお知りになられたのですか?」
客(電話)「clubhouseの膝枕リレーです」
新島「クラブハウスというのは、膝枕ファンクラブとは別物でございますか?」
客(電話)「新島さん、ひょっとして膝枕リレーをご存じないのですか?」
新島「もちろん知っております! 膝枕運動会のハイライトですから。膝枕をバトンにつなぐリレー競技のことですよね?」
客(電話)「いえ。私がご相談したいのは、朗読と二次創作のリレーのほうの膝枕リレーです」
新島「朗読と二次創作の膝枕リレー? 何ですかそれは?」
客(電話)「あるんです、そういうのが。clubhouseっていう音声SNSで2021年の5月31日から一日も欠かさず続いていて、わたしは昨日が430日目だったんです」
新島「430日目‼︎ 」
客(電話)「でも、今日このままclubhouseに入れないと、連続記録が途切れてしまうんです」
新島「膝枕を連続430日。その記録が途切れるのは、大ごとですね。それで、なぜこの新島にご相談を?」
客(電話)「英語で警告が出たんですけど、どうやら、私の利用が度を越していて、制限がかかってしまったみたいなんです」
新島「お客様のご利用が度を越しているとは、一体どういうことでございますか?」
客(電話)「もちろん、『膝枕』の読みすぎです。私、膝枕作品を毎日少なくとも1時間、多いときは4時間、朗読しているんです。膝枕への沈み込みが度を越しているので制限がかかってしまったんだと思うんです」
新島「お客様、失礼ですが、自慢でございますか?」
客(電話)「え?」
新島「時々いらっしゃるんです。この新島に膝対決を挑まれるお客様が。ご自分のほうが沈み込みでは負けていないとばかりに武勇伝をひけらかし、新島を押さえこもうというわけです」
客(電話)「新島さんに勝負を挑むなんて、とんでもないです。私に不具合が出るのなら、私より膝に沈み込んでいらっしゃる新島さんにも不具合が出ているのではと思って、勇気を出して、電話をかけたんです」
新島「お客様、今の発言、マウントでございますね?」
客(電話)「え?」
新島「新島には不具合は出ていないが、お客様には出ている。つまり、お客様のほうが沈み込みがまさっている。そうおっしゃりたいわけですね?」
客(電話)「いえ、そんなつもりは」
新島「わたくし、クラブハウスなるものは、やっておりませんし、当然、膝枕リレーなるものもやっておりません。なんなら今日初めて名前を聞いたくらいです。この新島にも知らない膝がある。そうおっしゃりたいのですね?」
客(電話)「そんなことありません。ただ、新島さんは、clubhouseの膝枕リレーの人たちの間では結構有名なので、当然ご存知かと」
新島「ほら、それですよ。先ほどからの『え? こんなことも知らないの? 意外!』という反応が、いちいち新島のガラスのハートにヒビを入れているんです。膝頭のシワみたいに。私だって、世界中の全ての膝事情を熟知しているわけではないんです。ええ。鉄道ファンにも乗り鉄や撮り鉄や音鉄や時刻表鉄がいるように、膝枕ファンも色々です。わたくし新島は乗り膝ではありますが、読み膝ではありません。だからって、そんなマウント取ることないじゃありませんか」
客(電話)「マウント取るつもりなんてないです! 新島さんにマウント取るなんて130年早いと思ってます!」
新島「ヴァージンスノー膝色の旗を上げるとおっしゃいますか?」
客(電話)「ヴァージンスノー膝色の旗?」
新島「白・旗・です」
客(電話)「新島さん、さすがです。ヒザぺディアにも載っていない表現ですね」
新島「ヒザペディア? 何ですかそれは?」
客(電話)「膝枕リレーで生まれた膝枕用語を集めた辞典です。あ、そっか。新島さん、膝枕リレーをご存知ないんでしたね」
新島「ほらやっぱりマウント取ってます!」
客(電話)「すみません、つい」
新島「そういう無意識で無邪気なマウントが一番傷つくんですよ」
客(電話)「ほんと、すみません」
新島「お客様は骨の髄まで膝に毒されています。私から見てもかなり重症です。これ以上の健康被害が出ないよう、しばらく膝と距離を置かれたほうが良いでしょう」
客(電話)「膝と距離を?」
新島「骨休め、いえ、膝休めです。そうですね。300日ぐらい」
客(電話)「そんなに?」
新島「何事もやりすぎはよくありません。膝のやりすぎで人生を棒に振った人を、わたくし、何人も見ております」
客(電話)「新島さんがそうおっしゃるのなら、それがいいのかもしれません」
新島「お客様、人生は膝枕のためだけにあるのではありません。どうぞ、ごゆっくりお休みください」
客(電話)「ありがとうございます。このままclubhouseに入れなかったらどうしようって思い詰めていたんですけど、気持ちがラクになりました。膝の神様が休暇を下さったと思えばいいんですね」
新島「お客様、そういうとこです」
客(電話)「え?」
新島「今の『私には膝の神様がついている』発言、無意識、無邪気にマウントとっています」
客(電話)「あ……ほんとだ」
新島「お客様は大変危険な状況でいらっしゃいます。新島、心を鬼にして警告いたします。膝から離れてください。今から300日。強制隔離です。わかりましたね? さもないと、手遅れになります!」

電話を切る。

新島「(ため息)」
社長「(近づいて)ニ〜島くん」
新島「社長」
社長「今日も休日出社ご苦労様。今日で連続130日勤務。記録更新だね。そろそろ溜まりに溜まった休日出勤の代休を消化しようか」
新島「社長、あと300日、連続勤務させてください!」
社長「300日!?  そしたら連続430日勤務になっちゃうよ」
新島「はい! 連続430日勤務、させてください!」
社長「させてあげたいんだけどね、行政がうるさいんだよ」
新島「行政、ですか?」
社長「すでに指導が入っちゃってるんだよね。働かせすぎだ、代休取らせろって。新島君、君のことだよ」
新島「そうなんですか?」
社長「イメージダウンにもなるしね。白い膝売ってる会社がブラック体質って」
新島「社長、黒い膝でしたら、サーファー膝枕やボディービルダー膝枕がございますが?」
社長「そういう問題じゃないんだよ新島君。明日から代休消化して」
新島「イヤです。休みたくありません」
社長「休んだらまた130日働かせてあげるから」
新島「でしたら社長、警告してください」
社長「警告?」
新島「このままだと度を越すと危険だ、命に関わる。だから強制的に休め、と。新島の連続130日勤務は連続430日勤務に値する、と!」
社長「130日は130日だよ」
新島「お願いですから言ってください。130日でも新島は十分、度を越している、と。そしたら代休取りますから!」
社長「新島君」
新島「はいっ」
社長「君、めんどくさいよ」
新島「よく言われます」
社長「これ以上めんどくさいこと言ったら、社員割引取り上げるよ」
新島「それは困ります!」
社長「新島君は今日から膝枕商品、全品定価の130%にしてあげよう」
新島「ありがとうございます! じゃなくて! 定価の130%って値上げじゃないですか! これまで通り13%割引でお願いします!」
社長「じゃあ消費税13%で手を打とう」
新島「社長が度を越してます!」

N「休日も給料も膝枕に捧げる熱量10割の男・新島ヒサオ。この話が何者かによって書き留められ、ネタにされ、clubhouseで読まれることを、彼はまだ知らない」

clubhouse朗読をreplayで

2023.7.19 鈴蘭さん(復帰記念で膝開き)

2023.2.9 高坂奈々恵さん


目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。