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信じる者は救われる⁉︎─熱量10割の男・新島「タワシ膝枕はあの日のタケシ君です!」の巻

このnoteで公開している作品は、2021年5月31日から朗読と二次創作のリレー(通称「膝枕リレー」)が続いている短編小説「膝枕」の派生作品です。


「タケシ」と「タワシ」は似ている!?

サトJun(サトウ純子)さんがTapNobelに公開した新作のタイトルが衝撃的だった。

食品表示「タワシの毛」のコロッケ弁当を取り合うコロッケ好きな女

食品表示が「タワシの毛」というコロッケ弁当。それを「タワシはワタシのモノ!」と取り合うコロッケ好きな女。

どこから突っ込んでいいかわからない。

これはもう、膝を突っ込むしかない。

膝枕カンパニーのコールセンターにクレームの電話が来る。タケシ膝枕を注文したのにタワシ膝枕が届いたから返品したい、と。その電話を熱血な担当者が受けたとしたら、どんな会話が繰り広げられるか……妄想してみた。

熱血担当者は、サラリーマン時代に訪問販売営業で驚異的な売り上げを記録したという噺家の桂宮治さんと堺市博物館の名物学芸員・矢内一磨さん(くわしくはこちらのnoteを)を足して2で割らないような熱量レベル。つまり、かなり暑苦しい。

名前は田中(映画『嘘八百』シリーズ常連の熱血学芸員。矢内さんをモデルに誕生。演じるのはドランクドラゴンの塚地武雅さん)にしようかと思ったが、膝枕リレー2(knee)周年を前に膝枕erたちでknee knee(ニーニー)言っているので「新島(kneeじま)」にした。

熱量といえば、サトウ純子さんの「占い師が観た膝枕」シリーズに登場する「熱量7割の男」。

こちらにちなんでタイトルは「熱量10割の男・新島」に。ナビコのようにシリーズ化できるかもというシタゴコロで「〜の巻」をつけ、「膝枕リレーknee周年」記念蔵出し第2作として公開する。

「占い師が観た膝枕」の中で熱量7割から10割に跳ね上がった膝枕カンパニーの男がコールセンター担当になったのか、別な熱量10割の男なのか、解釈はご自由knee。

今井雅子作「膝枕」外伝「熱量10割の男・新島『タワシ膝枕はあの日のタケシ君です!』の巻」

N「休日の朝、独り身で恋人もなく、打ち込める趣味もなく、その日の予定もとくにない男は、いつものように出社した。持て余し気味な熱量の10割を仕事に注ぐ彼の名は、新島」

新島「お電話ありがとうございます。膝枕カンパニー、カスタマーセンターの新島です!」
客(電話)「あのー。返品したいんですけど」
新島「返品、でございますか?」
客(電話)「頼んだのと違うものが届いてしまって」
新島「違うもの、でございますか?」
客(電話)「タケシの膝枕を注文したんですが、どう見ても……タワシの膝枕なんです」
新島「どう見てもタワシ、でございますか。ただいまお調べいたします。ご注文番号はおわかりになりますか?」
客(電話)「461の1313の222です」
新島「461の1313の222ですね。(ブツブツ)し・ろ・い・ひ・ざ・ひ・ざのニー・ニー・ニー。お客様、ありました! こちらご郵送にてご注文いただいておりますね」
客(電話)「はい、そうです」
新島「オーダーメイド膝枕。お客様、こちら『タワシ』と読めるのですが」
客(電話)「いえ。タワシではなく、タケシ膝枕です」
新島「タケシ……いや、タワシに読めてしまいますが」
客(電話)「涙で手が震えて、タケシの字が歪んでしまったかもしれません」
新島「そうですね。限りなくタワシ寄りのタケシになってしまっておりますね」
客(電話)「あの……写真も一緒に送ったんですけど」
新島「お写真? はい。ご注文書と一緒にいただいております。こちら、だいぶブレておりまして。なにか茶色いものがぼんやり写っているんですが……」
客(電話)「タケシです」
新島「え?」
客(電話)「そちらに写っているのがタケシです」
新島「タケシ君、ですか?」
客(電話)「急いでいて、いい写真が見つからなくて。うちで飼ってた犬のタケシです」
新島「このお写真、ワンちゃんだったんですか? ワンチャン(one chance)、タワシかと……」
客(電話)「たしかにうちのタケシの毛は茶色でしたけど」
新島「そうですよね。色はタワシ色でございますね」
客(電話)「でも、手触りはまるで違います。タワシみたいにゴワゴワじゃありませんでした」
新島「お客様、お客様、思い出してみてください。タケシ君の毛がタワシみたいにゴワゴワだった日はありませんでしたか?」
客(電話)「タケシの毛がタワシみたいにゴワゴワだった日、ですか?」
新島「お客様、お客様、ようく思い出してみてください。他の人にはわからなくても、お客様にはわかる、ちょっとした違い。その日だけのタケシ君。お客様の記憶の底に眠っていませんか?」
客(電話)「私だけにわかる、その日だけのタケシ……(思い出して)そう言えば、ありました」
新島「ありましたか!」
客(電話)「雨の日、外を駆け回って、どろんこになったことがあったんです。泥が乾いたら、泥だらけの毛が固まって……」
新島「それですお客様! タケシ君がタワシのようにゴワゴワに!」
客(電話)「でも、タワシほどゴワゴワではなかったかと……」
新島「お客様、お客様、落ち着いて思い出してください。そのときタケシ君には小枝や草など、ゴワゴワしたものがくっついていませんでしたか?」
客(電話)「小枝や草……? そう言えば、ひっつき虫が」
新島「ひっつき虫!?」
客(電話)「あの子、ボケッとしたところがあったんです。栗のいがを踏んづけて飛びのいたり、石油ストーブの前で温まっていたら、毛がトーストみたいにこんがり焦げたり。そんなところも可愛くて」
新島「ああ、可愛いですね! 愛おしいですね! たまりませんね!」
客(電話)「泥だらけの体にひっつき虫がびっしりくっついてたんです。もう、取るのが大変で」
新島「お客様、それです! ひっつき虫を体のあちこちにひっつけてきたタケシ君! ひっつき虫は小さなタワシです。集まったら、タケシ君の体は丸ごとタワシのようにゴワゴワになったのではありませんか?」
客(電話)「そうですね。確かに、あの日のタケシはゴワゴワしていました」
新島「タケシ君がタワシだった日。今、ありありとお客様の瞼の裏に思い出されましたね?」
客(電話)「はい。ありありと……」
新島「お客様、あの日のタケシ君です。タワシになった日のタケシ君が膝枕になりました!」
客(電話)「タワシ膝枕は、あの日のタケシだったんですね」
新島「そうです、そうです。お客様、会えましたね。あの日のタケシ君です。さあ、どうぞ、頭を預けてみてください。タケシ君に」
客(電話)「タケシに、頭を……?」
新島「はい。あの日のタケシ君に」
客(電話)「はい……痛いっ。やっぱりおかしいです。これ……こんなのタケシじゃありません」
新島「お客様、お客様、落ち着いてください。その痛みは、忘れないでの痛みです」
客(電話)「忘れないでの痛み?」
新島「お客様、『時薬』という言葉をご存じですか?」
客(電話)「とき薬? 水に溶いて飲むお薬ですか?」
新島「いえ、『とき』は時間のことです。時は金なり、タイムイズマネー。時は薬なり、タイムイズメディスン。別れの悲しみは時とともに和らぎます。前を向いて生きていくためには大事なことですが、忘れられるのはさみしいものです」
客(電話)「忘れられるのはさみしい……あの子、さみしがりやだったんです」
新島「お客様、お客様、思い出してみてください。さみしがりやのタケシ君は、お客様の気を引くために、お客様をツンツンしたりしませんでしたか?」
客(電話)「私の気を引くためにツンツン? そう言えば、前足で引っかかれたことが何度かありました」
新島
「それです、それです! お客様、お客様、想像してみてください。そんなさみしがりやのタケシ君が、もしもタワシに生まれ変わったら?」
客(電話)「もしもタケシがタワシに生まれ変わったら……? あの子なら、きっと私をツンツン刺します」
新島「そうですお客様! タワシの毛がほっぺたをツンツン刺すたび、タケシくんが呼んでいると思ってください!」
客(電話)「この痛みは、忘れないでの痛み……」
新島「そうです!」
客(電話)「これ、どう見てもタワシですけど、タワシの中にはタケシがいるんですね」
新島「そうです! タワシの中にはタケシ君がいます!」
客(電話)「もう、タケシとしか思えなくなりました。どう見てもタワシですけど」
新島「誰がどう見ても、どこから見てもタワシです。そこにタケシ君を感じられるのは、世界中でお客様ただ一人です!」
客(電話)「ありがとうございます。なんだかスッキリしました。返品するだなんて、血迷ったことを言ってしまい、申し訳ありません」
新島「いえ、タケシ君と、どうかお幸せに」

電話を切る。

新島「(安堵のため息)」
社長「(拍手)いやー。新島君、お見事お見事」
新島「社長、聞いていらっしゃったんですか」
社長「タワシはタケシ。よく丸め込んだ。ああ言えばこう言う。立板に膝。口八丁手八丁膝八丁。だけど騙したのとは違う。信じられるものを提供しただけ。物は言いよう。信じる者は救われる」
新島「ありがとうございます。膝枕とお客様の幸せな関係をお手伝いできて、うれしいです!」
社長「新島君」
新島「はい!」
社長「ニ〜島君」
新島「はい!」
社長「ニ〜〜〜〜島君」
新島「はい!」
社長「いい名前だ。名前にknee、膝が入っている」
新島「はい! 下の名前はヒサオです!」
社長「ニ〜〜〜〜島ヒザオ君」
新島「はい!」
社長「臨時ボーナスを出そう。社員販売10%引きのところ13%引きで、どれでも好きな膝枕買っていいよ」
新島「ありがとうございます社長! では、タワシ膝枕をお迎えしたいです!」
社長「タワシ膝枕?」
新島「はい! お客様の対応をするうちに、どうしても欲しくなってしまいました!」

N「休日も給料も膝枕に捧げる熱量10割の男・新島ヒサオ。面接で130社に断られて膝枕カンパニーに拾われた彼は、この会社と膝を心から愛している。数か月後、海外の工場から特注のタワシ膝枕が届いた。ダンボール箱の伝票には『タワシ』ではなく『タケシ』と書かれていた」

clubhouseでブツブツ推敲

clubhouseでルームを開きながら書き始めたのは3月7日。

5月11日に開いた蔵出しルームでもブツブツと推敲。

このときは、まだコールセンターの男の名前はタナカだった。

コールセンターの男の名前が新島になり、タイトルも決まり、最後の仕上げに5月15日に公開直前ルームを開いた。

10分だけのつもりで、ちょうど予定終了時刻に電話がかかってきて、乱暴に部屋を閉めてしまった。

あぶれたセリフたち

当初は「タワシ膝枕が大量に誤発注された」設定で考えていた。タワシ膝枕をねじ込めそうな注文に、わざとタワシ膝枕を送りつけ、返品の電話が来ると、新島があの手この手で丸め込む流れ。

でも、「タケシ膝枕の注文をタワシ膝枕と間違えて作ってしまった」という特注設定にしたほうが面白いと思い、現在の形になった。

あぶれたセリフをこちらに。

新島
「ふうっ。国外発注で行き違いがあり、タワワ膝枕を頼んだのにタワシ膝枕が百個も届いた。タカシ膝枕。タラシ膝枕。タクシー膝枕。タワマン膝枕」

客(電話)「小枝のようなか細い膝枕を頼んだのに、タワシ膝枕が届いたんですけど」
新島「お客様、お客様、そのタワシの毛の一本一本をよく見てください。小枝に見えませんか?」

客(電話)「誰も触れたことのないヴァージンスノー膝が自慢の箱入り娘膝枕を注文したんですけど、タワシ膝枕が届いたんです」
新島「お客様、お客様、失礼ですが、膝枕がタワシに見えるのですか。心の清らかな方にはヴァージンスノー膝が見えるはずなのですが」

あと、「人使いの荒い社長に都合良く使われているだけではないのか⁉︎   ヴァージンスノー膝の向こうに広がる、ブラック企業の深い闇」というナレーションも割愛した。

シリーズ化したらどこかで使えるかもしれない。

clubhouse朗読をreplayで。

2023.5.16 中原敦子さん

2023.5.17 こもにゃんさん(新島を女性に)

2023.5.23 鈴木順子さん(女新島バージョン)

2023.6.2 鈴蘭さん

2023.6.8 遠藤ヒザトさん 144膝目デビュー

2023.7.10 ひろさん

2023.7.19 鈴蘭さん(復帰記念)

2023.7.30 今井雅子×やまねたけし(誕生日祝いバージョン)

2023.8.1 鈴蘭さん


目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。