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才能で博打十年と一年─「PIZZA HAMMER」

ピザハマラップをむちゃカッコ良くしてくれたラップができるナレーター賢太郎さんがclubhouseでピザハマラップ講座を開いてくれてます。replayでチェキラ。

膝浜→ピザ浜→PIZZA HAMMER

2021年12月にnoteで公開して以来、いろんな人が演ってくれている「膝浜」は浜で拾った膝枕を商う「膝屋」の夫婦の話。

「膝」と「ピザ」のダジャレから「膝屋」を「ピザ屋」に変え、2022年6月9日に公開したのが「ピザ浜」。

主人公は膝屋の久五郎夫婦から、ピザ屋のバイトで知り合った浜田(浜ちゃん)とヒサコに。

ヒサコのヒモになった脚本家志望の浜田。年に一度のシナリオ大賞の締切が迫るが、ヒサコの膝に溺れて一向に書き出さない膝枕廃人。拾った百三十万円は、膝枕のしすぎで脳がバグって見た妄想なのか……⁉︎

「膝浜」「ピザ浜」と来て、次はピザ浜をラップにしたいと思い立った。またまたダジャレでタイトルがまずできた。

「PIZZA HAMMER」

ハマーといえばMC HAMMER。わたしが知ったのはアメリカに留学した1986年。ラップには明るくないが、ハマーにノリノリで踊り狂った歴史はある。

ピザ屋でバイトしながらラップバトルに出ている浜田、人呼んで「PIZZA HAMMER」。追っかけのヒサコの部屋に転がり込み、自信のなさからヒサコの膝に逃げ込み、膝枕廃人に。

浜田の才能を信じて支え続けること十年と一年。その間にヒサコはPIZZA HAMMERのラップ動画を見過ぎて(つまりそれだけ推している)ラップができるようになった設定。

ヒサコの失われた十年。紫外線も浴び重力にも引っ張られ、田舎からは見合いを勧められる。十年なんて夢を追いかけていたらあっという間だし、夢をつかむにはまだ足りなかったりする。だけど、十年で動かなかったことが、たった一年でガラリと動くこともある。

14年間眠っていた「膝枕」のプロットを掘り起こして小説の形にして公開したら、一年の間に百人を超える人が朗読して(膝枕erとしてデビューした人だけで135人あまり)、百本を超えるアレンジや外伝が生まれた。

lap(膝)×rap(ラップ)=膝枕ップ

「PIZZA HAMMER」を書くにあたってラップバトル動画を研究し、「韻を踏むことよりフローが大事」なことを学んだ。

ラップといえば、正調膝枕にゴリゴリのラップを入れてくれたナレーター賢太郎さん。

賢太郎さんにリリックを磨いてもらい、それがシャベルになって物語も掘り下げられ、ラップ新作落語「PIIZZA HAMMER」が出来上がった。リリックのbefore afterは「MASAKO×賢太郎 ケミストリーのヒストリー」と題して本編の後に。

「PIZZA HAMMER」(原作:古典落語「芝浜」 膝入れ:今井雅子 ラップ:MASAKO&賢太郎)

語り「東京の片隅に浜田という男がおりました。ピザ屋でバイトしながらラップバトルに挑む浜田。人呼んでPIZZA HAMMER。打ち上げで隣の席になった追っかけのヒサコの部屋に転がり込むと、ヒマさえあればヒサコの膝に頭預けて膝枕。ヒサコの脛をかじり、膝に甘えるテイタラク。そうこうするうちに、年に一度のMCバトル本番当日となりました」

ヒサコ「浜ちゃん、いつまで私の膝でスマホいじってんの?」
浜田「ディスりコメント入ってんだよ。PIZZA HAMMER消えろって」
ヒサコ「コメントでケンカしないでバトルで結果出せばいいじゃん」
浜田「何が『おつかれさまーPIZZA HAMMER』だ? サマーソニック出てやるよいつか」
ヒサコ「出たね。いつもの『いつか』。いつ連れて行ってくれるのかなーサマソニ」
浜田「なんだよヒサコ? 俺が出れないと思ってんの?」 
ヒサコ「いつかのサマソニより、今日のMCバトル出てきてよ」
浜田「今日はいいよ。ディスりコメント見てたらバイブス下がった」
ヒサコ「バイブス下がったんならバイト行って稼いで来てよ時給千円」
浜田「ヒサコ、韻踏んでない? (ラップっぽく)♪バトル優勝したら賞金百万 サマソニ出たらフォロワー百万」
ヒサコ「じゃあラップで稼いで来てよ」
浜田「♪ヒサコの膝で充電させて あと十分」
ヒサコ「一時間前からずっとそれ言ってる」
浜田「知ってた? 膝は英語でラップなんだよ」
ヒサコ「だから何? ♪いつまでかまけてるパンチラの膝? 決めて来いやパンチライン」
浜田「ヒサコ、ラッパーじゃん。ヒサコ出たらいいセン行くかも」
ヒサコ「ビビってねーで、行けっての!」
浜田「ビビってねーし。行くよ。行かないって言ってないだろ」
ヒサコ「変なクスリキメるんじゃねーよ」
浜田「そんな金ねーし。(歩きながらブツブツ)サマソニラッパーに、なんだよあの口のきき方? 俺の追っかけしてたときは、目がハートになってたくせに。応援にも来ねーのかよ。俺も今日は勝てる気しねーけど賞金百万は欲しいなー。どっかに落ちてないかなー。ん? なんだこの封筒?」

語り「道端に落ちていた厚みのある封筒を拾い上げた浜田。そこに『膝枕』の文字を見つけると、思わず『枕!』と叫ぶなり、封筒を小脇に抱え、一目散にヒサコの部屋へ舞い戻ります」

浜田「(ドアをバンと開けて)ヒサコ! ヒサコ!」
ヒサコ「何? バトル行かなかったの?」
浜田「いいから、ちょっとこの封筒見ろ」
ヒサコ「何これ? 『膝枕カンパニー』の社封筒。浜ちゃんて、ほんと膝枕のことしか頭にないんだね」
浜田「いいから中、見ろ」
ヒサコ「うわ、諭吉がいっぱい! 諭吉ぃ、会いたかったよ〜。こんなところにいたんだ」
浜田「いるところにはいるんだよ。いくらあるか数えて」
ヒサコ「諭吉が一枚〜、諭吉が二枚〜、諭吉が三枚〜、諭吉が四枚〜」
浜田「番町皿屋敷みたいに数えんなって」
ヒサコ「諭吉が十、二十、三十、四十……百三十枚!」
浜田「百三十万!」
ヒサコ「浜ちゃん、ダメだよ。いくらバトルの賞金がアテにならないからって、コンビニ強盗は犯罪だよ」
浜田「強盗なんかしてねーよ。拾ったんだよ」
ヒサコ「このお金どうするの?」
浜田「そりゃ使うだろ。百三十万、一と三でヒ・ザ。毎日ヒサコの膝におまいりしてるご利益だよ。熱心で感心だねって、膝の神様からの差し入れだよ。この金があれば、サマソニまで遊んで暮らせる」
ヒサコ「また夢みたいなこと言って。落とした人が困ってるんじゃない?」
浜田「俺たちだって困ってる」
ヒサコ「だから浜ちゃんがラップで稼いで来てよ。今ならまだギリギリ間に合うんじゃない?」
浜田「いいよ。今日のジャッジ相性悪いし」
ヒサコ「何それ?」
浜田「あいつら俺、勝たせる気ねーし。行っても無駄だってわかってて行くのって、サステイナブルじゃねーよ」

ヒサコ
♪はあ? 何がサステイナブルだ
最低なズルはあんたのことだ
優勝したら賞金百万?
出てから言えや笑止千万 
ピザ屋で稼げ時給千円
他力本願のアンポンタン 
ジャッジと相性悪いんですか?
はいそうですかって敗走ダセーな

浜田「ヒサコどうしたんだよいきなり?」
ヒサコ「うるさい! 黙って聞きなさい! YO💢YO💢」

ヒサコ
♪腰砕けハマーにドッチラケ
正味ダセーうえ勝機はねぇー
会場アゲたらあんたの勝ち
じゃないとないだろあんたの価値
価値がないならガチ笑い
ラップというより立ち話?
カノジョに負けたら立場なし
逃げてばっかで騙し騙し

浜田「いや、キレッキレだな」

ヒサコ
♪あたしあんたにアングリー 
ハングリーじゃないからお冠
ラップ三流稼げない時給
あたしキレさせるのだけは一流 
自由を理由に生きる自分
武士の一分の無さにdis
やらない理由もかなり気分
そうして無駄にする また一分

ヒサコ「やっぱり田舎帰る」
浜田「わかったわかった。じゃあ別れる前にもう一回だけ」

語り「別れ話を切り出されても受け流し、これで最後と膝枕をせがむ、どうしようもない男、浜田。そのままヒサコの膝でぐっすり眠って、高いびき。その、あくる朝」

浜田「よく寝たー。ヒサコ、朝どこ行く?」
ヒサコ「どこって?」
浜田「モーニング。ホテルのビュッフェとか行っちゃう?  そのあとプールでスイミング? ついでにスキューバダイビング?」
ヒサコ「そんなお金どこにあんの?」
浜田「あるだろ? あの百三十万」
ヒサコ「百三十万って何?」
浜田「とぼけんなって。俺が昨日拾った封筒」
ヒサコ「浜ちゃん、昨日あたしの膝から一歩も動いてないよね?」
浜田「何言ってんだよ。ヒサコに追い出されて、バトル行く途中で拾っただろ。ヒサコも喜んでたじゃん。諭吉会いたかった〜って」
ヒサコ「クスリにだけは手を出すなって言ったのに」
浜田「クスリなんかやってねーよ」
ヒサコ「ラリってる」
浜田「ラリってねーよ。はっきり覚えてる。膝枕カンパニーの社封筒。膝の神様の差し入れだよ」
ヒサコ「ほらラリってる。膝の神様って誰? 百三十万、どうせ一と三でヒザって語呂合わせでしょ? 膝枕のやりすぎでラリったんだよ。ヒザマクラリだよ」
浜田「ヒザマクラリって何だよ? じゃあ、俺と別れて田舎に帰るって言ってた、あれもラリってたのか? 幻聴か?」
ヒサコ「それは言った」
浜田「そこだけは現実なのか」
ヒサコ「さっきまでちょっと迷ってたけど、今の話で吹っ切れた」

ヒサコ 
♪の〜らりく〜らりヒザマクラリ
爆速で約束破りまくり 
義理と裏切りのサンドイッチじゃ
仏の顔も三度までyou know  
己のアートをちゃんと出せbro
一小節も書けないリリック 
一生やってろ膝ホリック 
8小節にこめる情熱

浜田
♪そんなヒサコはエキセントリック
俺はいつかはサマーソニック
ビーフよりもっとピースに行こう
惚れてるだろならビーツにキス

ヒサコ 
♪あーたしかにモーションかけた 
でもあたしの膝にローション塗った
天才じゃなくただのド変態
ゴールデンマイクは到底ない
想定外お手上げ状態SHOWTIME
石炭くべたが蒸気のなさ
走り出さない正気の沙汰? 
枕枕と病気の性(さが)

浜田「ヒサコ、どこでラップ覚えたんだよ?」
ヒサコ「PIZZA HAMMERの動画だっての。この十年、あんたのラップ聴きすぎて、あたしラップできるようになっちゃったけど、あんた何してた? エゴサしてアンチたたいてただけだよね?」

ヒサコ
♪分かり合えない平行線 
あんたとあたしは消耗戦
浮かばれっこない蟹工船
キライになれないが未来に期待ない 
二十歳で出会って今三十路
失った十年いつまで充電
おなかいたいわ腸捻転
脳年齢いつまで少年です?

浜田「ヒサコぉ、田舎帰らないでよ。俺住むとこなくなる」
ヒサコ「はー。心配するの、そこ? 落ちるとこまで落ちてるね」
浜田「どん底から生まれる魂の叫びもあるんだよ」
ヒサコ「ほんと口先ばっかり。やっぱり田舎帰るわ」
浜田「ヒサコいなくなったら俺死んじゃうよ」 
ヒサコ「浜ちゃん、いっぺん死んだほうがいいよ」
浜田「やだ。死んだら膝枕できなくなる」
ヒサコ「だったら死ぬ死ぬ言うな、このかまってちゃんが! いっぺん死ぬ気で本気出せよオラ!」
浜田「本気出したら別れないでくれる?」
ヒサコ「チャンネル登録者数百三十万人」
浜田「え?」
ヒサコ「本気出すんだよね? 今から一年でやって」
浜田「一年なんてムリムリムリ」
ヒサコ「その前にあたし十年待ってんの。やる前に諦める言い訳先行スタイル、ほんと腐ってんな ♪言い訳ばっかのヘボラッパー 見込んだあたしはパッパラパー」
浜田「♪あーどうせ俺はヘボラッパー 聞かせてやるよ負け犬の遠吠え」

ヒサコ
♪何が負け犬の遠吠えだ?

しょうもねーな負けてもない結果

シッポまいてhiphopじゃないね
そんなんじゃ一生なれないマイメン


わんわんと吠える子犬じゃ
ワンマンもできず終えるな

アンチのディスリは正解だな
何がサマソニだ? おつかれさまー

浜田
♪そこまで言うならやってやる
一年ポッキリ一念発起
あばよワナビーオーキドーキ

見せてやるよ俺の本気の韻
チャンネル登録千三百人

倍の倍にして気合いの違い
神がかっているオートクチュール
ガッポリゲトるぜ広告収入

語り「心を入れ替えた浜田、まるで人が変わったようにリリックを書き、ラップバトルに精を出します。気がつけば、あの日から一年」 

浜田「チャンネル登録一万三千人。惜しい。あとふた桁」
ヒサコ「千三百人から十倍。よく増えたよ」
浜田「約束の百三十万人には全然届かなかったけど、ヒサコが喜んでくれたらそれでいいんだよ」
ヒサコ「え?」
浜田「俺、なんの取り柄もないけど、ヒサコが俺のラップ好きだって言ってくれて、ちょっと自信持てたんだ。アンチコメントが減って、俺のラップほめてくれるコメントがポツポツ入るようになって、それ読んで、ヒサコ泣いてくれたよな」
ヒサコ「見られてた?」
浜田「見てた。ラップやめなくて良かった。ヒサコがいてくれたからここまで来れた。今、ラップやるのが楽しくて仕方ない。膝枕してるヒマがあったら、一小節でもリリック書きたい」
ヒサコ「あのね浜ちゃん、実は」
浜田「(続けて)でも膝には徹底的にこだわりたいんだよな。隙あらば膝。唯一無二のヒザマクラッパー。これが俺のスタイル。♪お前の味方皆サクラ 俺の味方膝枕」
ヒサコ「浜ちゃん、ちょっといい?」
浜田「(続けて)ヒサコの田舎でライブやるときは知らせるよ。連絡先、教えといて」 
ヒサコ「そのことなんだけど、浜ちゃん、これに見覚えない?」
浜田「膝枕カンパニーの社封筒」
ヒサコ「中を見て」 
浜田「諭吉がこんなに」 
ヒサコ「百三十枚ある」 
浜田「百三十万。てことは、俺が拾った封筒……?」
ヒサコ「そう。一年前のあの日、浜ちゃんはバトルに向かう途中で、この封筒を拾った」     
浜田「そうなの?」
ヒサコ「あの日、私も舞い上がったよ。 このお金があれば、今月の家賃を払えるって。でも、すぐに怖くなった。 良くないお金かもしれない。浜ちゃんがバトルでてっぺん取ったとき、拾ったお金をくすねたことがバレたら、優勝を取り消されちゃうんじゃないかって。それに、こんな大金手に入れたら、浜ちゃん、満足しちゃって、ラップやらなくなっちゃうんじゃないかって。 だから、膝枕のしすぎでラリったってことにして……ごめんなさい」 
浜田「なんだ、ラリってたんじゃなかったんだ?」
ヒサコ「警察に届けたんだけど、持ち主が現れなくて、百三十万全額戻ってきた。浜ちゃんに早く知らせてあげたかった。でも、このお金を見せたら、また膝枕に溺れてラップやらなくなっちゃうんじゃないかって……」 
浜田「なんで今日、話すことにしたの?」 
ヒサコ「さっき、膝枕してるヒマがあったら、一小節でもリリック書きたいって言ってた。だから、もう大丈夫って思えた。浜ちゃん、ずっと嘘ついてて、ごめんね。いっぺん死んだほうがいいなんて、ひどいこと言って浜ちゃん追い込んで……怒ってる?」
浜田「クソだな」
ヒサコ「クソだよね」
浜田「ヒサコじゃなくて俺が」
ヒサコ「え?」
浜田「ヒサコに嘘つかせて、一年も抱え込ませて。何も知らなくて、ごめん」 
ヒサコ「浜ちゃん……」 

浜田
♪バズらせたいのに鳴かず飛ばずで

才能あると信じて進むDAYS

Twitterにインスタ 期待したコメント

ごめんよと逃げ込む君の膝に


現実逃避の脳裏にソーリー

逃げてばっかでラッパーじゃないな



あの日拾った百三十万も

嘘にしてくれた君の優しさに
気づけなかった馬鹿やろーだ

口先と裏腹の脆すぎるガラクタ
頑なプライドを守ってたキャラクター

ひたすら磨くさ光るさリアルが

諸々ボロボロの心の男と
支えてくれてたヒサコがいたのさ

君がくれてたラストチャンスと
破ってしまって散った約束

(サビ)才能で博打十年と一年
でも決めてた時は満ちて
いつかは笑い合える日々へ
割れて転がる別べつの道へ

(サビ繰り返し)

浜田「こんな俺に付き合ってくれて、ほんとにありがとう。田舎帰っても時々俺のチャンネルのぞいてみてよ」
ヒサコ「あたし、これからも浜ちゃんのそばで追いかけてちゃダメ?」 
浜田「でも、約束は約束だから」 
ヒサコ「チャンネル登録一万三千人。広告収入十三万円。あの日拾った百三十万円より、ずっと尊いよ。この調子だと、来年あたりサマソニ行けちゃいそうじゃん。もう少しあたしに夢見させてよ」
浜田「ヒサコ……」
ヒサコ「浜ちゃん……」
浜田「ヒサコ〜〜〜」
ヒサコ「あー、やっと胸のつかえが取れた。お腹空いちゃったね。なんか食べに行く?」
浜田「その前に(とヒサコの膝へ)」
ヒサコ「ちょっと浜ちゃん!」
浜田「一年ぶりのヒサコの膝。ピザ枕〜」
ヒサコ「ピザじゃなくて膝でしょ」
浜田「ヒザにハッピーエンドのマルを打てた」

(2022.6.21追記)公開後も、ちょこちょこ加筆。
はいそうですかで敗走ダセーな→はいそうですかって敗走ダセーな
あたしキレさせるのだけ一流→あたしキレさせるのだけは一流
のらりくらり膝枕でラリ→の〜らりく〜らりヒザマクラリ
浮かばれることのない蟹工船→浮かばれっこない蟹工船

MASAKO×賢太郎 ケミストリーのヒストリー

わたしが書いた「PIZZA HAMMER」の「なんちゃってラップ」に賢太郎さんが磨きをかけ、ヒザマクラップ、いや、ピザマクラップにしてくれた。

まず下書き(初稿)を読んでもらった。

「最後のラップはもう少し長くてもいいかなと思いました♪ でもたくさん韻踏んでてビートに乗りながらもできました! 文字が長くなるところは早口になるので一小節の中に入れるのは初心者には少し難しいかもしれません」

という感想を踏まえて加筆したもの(2稿)を送ると、驚く速さで「リリック完成しました!」とキレッキレになったものが返ってきた。

おお、これぞラップ! 

さらにビートに乗せたラップ音源まで送ってくれた。耳で聴くと、ああしたいこうしたいをまた思いつき、往復書簡でリリックが固まっていった。

リリックはラップの歌詞のこと。

そもそもわたしのリリックはラップの基本である「8小節」の形になっていなかった。賢太郎さんが8小節に整えつつ彫刻してくれた。残す言葉、足す言葉。賢太郎さんがどこをいじったかを見ると、とても勉強になる。

before賢太郎(今井の2稿)とafter賢太郎(加筆版)を並べて紹介する。

せめてピザで稼げや→ピザ屋で稼げ

ヒサコ
♪はあ? 何がサステイナブルだ
最低なズルはあんたのことだ
優勝したら賞金百万?
出てから言えや笑止千万 
せめてピザで稼げや時給千円
他力本願のアンポンタン
ジャッジと相性悪いんですか? 
はいそうですかダッセーな

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

ヒサコ
♪
はあ? 何がサステイナブルだ

最低なズルはあんたのことだ

優勝したら賞金百万?

出てから言えや笑止千万 

ピザ屋で稼げ時給千円

他力本願のアンポンタン

ジャッジと相性悪いんですか? 

はいそうですか腰抜け敗走

「せめてピザで稼げや時給千円」を「ピザ屋で稼げ時給千円」にすると、字数も韻もリズムも整う。

「はいそうですかダッセーな」を「はいそうですか腰抜け敗走」にしてもらったが、「敗走」の韻は残したかったので「はいそうですかで敗走ダセーな」を提案。その形で公開ののちに「はいそうですかって敗走でダセーな」となった。

「勝ち」「価値」「ガチ」韻をガチガチ

ヒサコ
腰砕けハマーにドッチラケ
相性のせいにする甲斐性なし
会場沸かせりゃあんたの勝ち
味方につけろ味方見つけろ
グチほざいてねーでブチ上げろ

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

ヒサコ

腰砕けハマーにドッチラケ

正味だせーうえ勝機はねぇー

会場あげたらあんたの勝ち

じゃないとないだろあんたの価値

価値はないならガチ笑い
ラップというより立ち話?
彼女に負けたら立場なし
逃げてばっかで騙し騙し

あんたの「勝ち」を拾って、「価値」「ガチ」と韻を踏んでくれた賢太郎さん。「立ち話」「立場なし」にも感心。ヒサコガ浜田を煽っている感じも強くなっていて熱い。

「アングリーハングリーお冠」にびっくり

ヒサコ
♪何言ってんの? 
あたしあんたにキレてんの
あんたラップのキレは三流だけど
あたしキレさせるの一流

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

ヒサコ
♪
♪あたしあんたにアングリー
ハングリーじゃないからお冠
ラップ三流で出ない時給
私キレさせるかだけ一流
自由を理由に生きる自分
でも武士の一分の無さにdis
やらない理由もかなり気分
そうして無駄にする また1分

「アングリー」「ハングリー」に「お冠」。「三流」「時給」「一流」、「自由」「理由」「自分」、「dis」「気分」「1分」。韻また韻。ビートに乗せると、とてもいい気分。最後の「そうして無駄にする また1分」もうまい。

「you know」「bro」でリズムを作る

ヒサコ 
♪のらりくらり膝枕り
爆速で約束破る 
義理と裏切りのサンドイッチ
仏の顔も三度まで 
あたしの性格どんどんビッチ
一小節も書けないリリック 
一生やってろ膝ホリック

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

ヒサコ

♪のらりくらり膝枕り

マッハで約束破るバカ

義理と裏切りのサンドイッチ じゃ

仏の顔も三度までyou know 

己のアートをちゃんと出せbro

一小節も書けないリリック
 
一生やってなよ膝ホリック
8小節にこめる情熱



「you know」「bro」こういうのぶっ込むとラップ感が上がりますね〜さすが。《「のらりくらり膝枕り」を「のらりくらり膝枕でラリ」に》したいと賢太郎さんに伝え、その形で公開したのちに「のらりくらり膝枕り」に戻し、表記を「の〜らりく〜らりヒザマクラリ」に変更。「マッハで約束破るバカ」は「爆速で約束」をやりたかったので「爆速で約束破りまくり」はどうでしょうと賢太郎さんに投げかけ、その形に。

ラップ用語「ビーフ」と韻踏んでる「ビーツ」

浜田
♪そんなヒサコはエキセントリック
ピースに行こうぜ 惚れてんだろ?

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

浜田
♪そんなヒサコはエキセントリック
劇的に刺激的な一撃

ビーフよりもっとピースに行こう
惚れてるだろならビーツにキス

ビーフ」がラップ用語で「ラッパー同士が楽曲を通してディスりあうこと」を指すとは知らなかった。1984年にアメリカで放送されたウェンディ―ズのテレビCMで「肉はどこ?」(Where's the beef?)と競合他社のバーガーの肉の小ささをディスったのがバズったのが「ビーフ」の始まりらしい。

「Where's the beef?」で動画を探したら、あった。

くすぶってヒモに成り下がっているヘボラッパーの浜田に、ヒサコがキレッキレのビーフを浴びせる。「ビーツ」はビーフのつけ合わせの赤カブのことかと思ったら、ラップの「beats」のことらしい。

「リリック」「膝ホリック」の押韻から「サマーソニック」を入れ込みたくなり、「ピザ浜」の浜田が「いつか大河ドラマを書く」と豪語しているようにPIZZA HAMMER浜田の口癖を「いつかはサマーソニック」にしようと思いつく。《「劇的に刺激的な一撃
」を「俺もいつかはサマーソニック」に》したいんですけどハマりますか賢太郎さん? 「いけると思います」

「ド」変態のリズム

ヒサコ 
♪あーたしかに
あたしあんたにモーションかけた 
あんたあたしの膝にローション塗った
天才だと思っていたらただの変態
見抜けなかった見る目なかった
さんざん石炭くべたのに 
走り出さないロコモーション

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

ヒサコ
♪あーたしかにモーションかけた 

でもあたしの膝にローション塗った

天才じゃなくただのド変態

ゴールデンマイクは到底ない
想定外お手上げ状態SHOWTIME

石炭くべたが蒸気の無さ

走り出さない正気の沙汰?
膝以外への興味の無さ
枕枕と病気の性(さが)

三十(さんじゅう)→三十路(みそじ)

ヒサコ
♪分かり合えない平行線 
あんたとあたしは消耗戦
浮かばれることない蟹工船
キライになれないけど未来は見えない 
二十歳で出会って今三十
失われた十年いつまで充電
おなかいたいわ腸捻転

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

ヒサコ
♪分かり合えない平行線 

あんたとあたしは消耗戦

浮かばれることない蟹工船

キライになれないが未来に期待ない

二十歳で出会って今三十
路
失った十年いつまで充電

おなかいたいわ腸捻転
脳年齢いつまでも少年ね

なるほど。三十を三十路にすると、「はたち」「みそじ」で韻を踏める! 「いつまでも少年ね」はのちに賢太郎さんが「いつまで少年です?」に。そっちのほうがいい! 「浮かばれることない」が字数が多くて言いづらいので、のちに「浮かばれっこない」に。

ヒサコ
♪言い訳ばっかのヘボラッパー
見込んだあたしはパッパラパー

浜田
♪あーどうせ俺はヘボラッパー  
聞かせてやるよ負け犬の遠吠え

この二つはビートに乗せず、セリフに入れ込むことに。

シッポとhiphop

ヒサコ
♪何が負け犬の遠吠えだ?
お前は負けてすらいねーんだよ
シッポまいてビビってるだけ
弱い犬ほどよく吠える
アンチのディスリは正解だな
おつかれさまーPIZZA HAMMER

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

ヒサコ

♪何が負け犬の遠吠えだ?

しょうもねーな負けてもない結果

シッポまいてhiphopじゃないね
そんなんじゃ一生なれないマイメン

わんわんと吠える子犬じゃ
ワンマンもできず終えるな

アンチのディスリは正解だな

おつかれさまー限界PIZZA HAMMER

「負け犬」で始まり「わんわんと吠える子犬」が入る流れが心憎い。「しっぽ」と「hiphop」で韻を踏めそうと思いつつリリックにできてなかったのを賢太郎さんがやってくれてて感激。以膝伝膝。サマソニを入れたくて、「おつかれさまー限界PIZZA HAMMER」を「何がサマソニだ? おつかれさまー」にできますかと賢太郎さんに相談し、その形に。

たった一文字で大違い

浜田
♪そこまで言うならやってやる
一年ポッキリ一念発起
見せてやるよ俺の本気
チャンネル登録今千三百
百倍千倍百三十万
広告収入ガッポガッポ

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

浜田
♪そこまで言うならやってやるって

一年ポッキリ一念発起
オーキドーキよりノリノリ

見せてやるよ俺の本気の韻

チャンネル登録千三百を

倍の倍にして気合いの違い
みせる使わんオートクチュール

ガッポリゲトるぞ広告収入

ホストファーザーがよく言ってたOkey Dokey。ラップ用語の「ワナビー」が「いつかは」と夢みたいなことばかり言っている浜田を言い表しているようで、どこかで入れ込みたいと思っていたのだが、《「オーキドーキよりノリノリ」を「あばよワナビーオーキドーキ」に》できますかと賢太郎さんに相談。採用してもらった。

他に《「本気の韻」と韻を踏みたくて「千三百」を「千三百人」に。「ガッポリゲトるぞ」と韻を踏みたくて「みせる使わんオートクチュール
」を「神がかってるオートクチュール」に
》したいとリクエストすると、「神がかってる」より「神がかっている」がいいですねと賢太郎さん。「い」の一文字があるかないかでリズムの取り方が変わる。実際にビートに乗せてみて検証。

名フレーズ「才能で博打十年と一年」誕生

浜田
♪バズらせたいのに鳴かず飛ばず
才能あるはずあったはず
見なきゃいいのにエゴサして
アンチコメント見て凹む
逃げ込むヒサコの膝枕
現実逃避のシャングリラ
バトルにビビッてシッポ巻いて
あの日拾った百三十万円
嘘にしてくれたヒサコの優しさ
気づかなかったヘボラッパー
口先だけのビックマウス
ヒサコがくれた最後のチャンス
チャンネル登録百三十万
ギャンブルみたいな十年と一年

before賢太郎 ↑ ↓ after賢太郎

浜田
♪バズらせたいのに鳴かず飛ばずで

才能あると信じて進むDAYS

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期待したコメント

ごめんよと逃げ込む君の膝

現実逃避の脳裏にソーリー

逃げてばっかでラッパーじゃないな

あの日拾った百三十万も

嘘にしてくれた君の優しさに

気づけなかった馬鹿やろーだ

口先と裏腹の脆すぎるガラクタ
頑なプライドを守ってたキャラクター
ひたすら 磨くさ 光さ リアルが
諸々 ボロボロの 心の 男と
支えて くれてた ヒサコが いたのさ
君がくれてたラストチャンスにもまた
破ってしまって散った約束

(サビ)才能で博打十年と一年
でも決めてた時は満ちて
いつかは笑い合える日々へ
割れて転がる別べつの道へ

賢太郎さんは、わたしの書いた初稿から原石を拾って、上手に磨いて光らせてくれた。この最後の一曲(ラップというより歌)に、とくにそれが表れていて、「PIZZA HAMMER」のテーマを見事にリリックで描いてくれた。

「ギャンブルみたいな十年と一年」から「才能で博打十年と一年」という名フレーズが生まれたことにうち震えた。「PIZZA HAMMER」の映像化企画書を作る暁にはタグラインにできそうだ。

続く「でも決めてた時は満ちて」にもグッと来た。西陽が当たる時間を眩しく振り返るような切なさのあるメロディに、遠い記憶がかき混ぜられる。広告代理店のコピーライターを経てフリーの脚本家になり、シナリオ講座でも何度か教えた、その間に出会った人たちの顔や語り合った夜がいくつも浮かんでは消える。

6月19日に公開した原稿を浜田=賢太郎さん、ヒサコ=今井で読み合わせ。ラップは賢太郎さんが2役担当。

PIZZA HAMMERへの道

面白がり屋の膝枕erたちが早速ピザハマラップで遊んでくれている。膝枕リレーという広場に新しい遊具ができ、使い方から探っている感じ。いろんなPIZZA HAMMER浜田とヒサコが生まれて、色とりどりのバトルが繰り広げられて、広場がもっとにぎやかになりそう。

2022.6.20 しょこらさんラップ練習部屋 こまりさん見守り

2022.6.21 賢太郎さんが桜井ういよさん(一人で二役)のラップを調教

2022.7.4 膝枕リレー400日目 賢太郎さん練習部屋 生徒は小羽勝也さん




目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。