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「空」は「くう」であり「から」であり「そら」であり

京都シナハンの収穫

旅行を諦めた昨年の夏、思いがけず京都を訪ねることになった。ドラマ(1月10日から放送中の「ミヤコが京都にやって来た!」)の脚本を書くためのシナハンだった。

ロケーションハンティングを略してロケハン。
シナリオハンティングを略してシナハン。

「〜ハンティング」は和製英語で、ロケハンは英語だとlocation scoutと言うのだとか。スカウトのほうが志高そうだけど、ロケスカ、シナスカと略すと肩透かしを食らいそう。

肩透かしの端を切り落としたのがハズレを意味する「スカ」の由来らしいが、京都シナスカ(シナハン)は大当たりだった。

真夏の陽射しの下、よく歩いた。オリジナル脚本なので、見るものすべてがとっかかりになる。

ここで何をさせよう、だけでなく、登場人物が住んでいる町のにおいを嗅ぎ、時間の流れを味わう。舞台となる土地を歩いて、キャラクターの雰囲気や物語の空気をつかむことをイメージハンティング(イメハン)と称する人もいる。

歩いて歩いてつかまえた脚本のしっぽの話を書いてみる。

うれしなつかし「鴨川やー」

京都は学生時代の4年間を過ごした町。大阪の南のほうにある堺市の自宅からだと片道2時間かかるので、下宿していた。1年目は東山通りのちょい東で丸太町通のちょい北あたり。2年目からは北白川よりちょい南。 

北山のマールブランシュにケーキを食べに行くのも、三条の京はやしやにほうじ茶パフェを食べに行くのも、祇園の茶寮都路里に抹茶パフェを食べに行くのも自転車だった。南北に流れる鴨川を西へ渡ったり東へ渡ったりした。

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ドラマの第1話タイトルは「父と娘の出町柳」だが、シナハンも出町柳から始まった。このあたりの鴨川はとくになじみのある風景。

「鴨川やー」

当たり前のことをつぶやいて、鴨川と再会した。その前に京都を訪ねたのは『嘘八百  京町ロワイヤル』撮影中の2019年2月。渉成園での茶会のシーン目当てに、一緒に脚本を書いた足立紳さんと向かった。そのときは昼の鴨川を見ておらず、最後に鴨川を見たのは『嘘八百』続編のシナハンを兼ねて京都を訪ねた2018年10月。

2年ぶりに対面した鴨川が、前に見たときより大きくなった気がした。自分の中にある鴨川の大きさを目の前の鴨川が上回っていた。

縮こまる一方だった2020年。わたしが小さくなっていたせいかもしれない。

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「おかえり」の大きな懐

川だけじゃなくて、空も大きかった。ステイホーム中、庭いじりながら空を見上げることが多かったが、京都の空は、やはり鴨川と同じように、思い出の空より大きくなっていた。

その大きさが京都の懐の深さのように思えたののもまた、暮らしも仕事も気持ちもじわじわと狭められた2020年ゆえだったかもしれない。

「よう帰って来たな。おかえり」

鴨川の声を勝手に聞いて、受け入れられているような安堵を覚えて、ああ、息をつきたかったんやなと思った。

エンタメが不要不急と言われ、それが生活の糧になっている物書きのわたしには、あんたの仕事もあんたもいらんと言われているような息苦しい春だった。夏のはじめからユニバーサル・オーディション「ルーツ」に関わるようになり、こんなときだからこそ作るんだと表現に関わる気持ちにギアを入れ直せた。

思い出深い京都を舞台にしたオリジナル脚本ドラマの話が舞い込んだのは、そんなタイミングだった。

「離れて暮らしていた父と娘が京都で再会して一緒に暮らす」という大枠はシナハン前に決まっていた。父が東京から生まれ故郷の京都に戻って来た理由と、娘が父のいる京都にやって来た理由も心づもりしていたが、二人の思惑や屈託はまだふんわりしていた。

いつもより大きく感じられた鴨川と京都の空を見ながら、京都の懐に受け入れられる父と娘それぞれが抱いているもの、背負っているものに想いを馳せた。

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船岡公園の階段を上りきったてっぺんから見た京都の街並み。ひらけた視界に広がる空は、夏ということもあって、くっきりした水色に、かたまりの白い雲が浮かんで、絵本に出てくる空みたいにのどかだった。

深呼吸したくなるような大きな空を前に話す父娘の姿が思い浮かんだ。

上を向いたらラクになる

シナハンで撮った写真を後から見ると、カメラを上に向けて撮ったものが多かった。

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建物の向こうに空が見える構図のものが何枚も。

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京都で一番好きな場所かもしれない南禅寺の水路閣を撮った一枚も。

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カメラだけでなく、わたしも上を向いて、口角も上げて、京都を歩いていたのだろう。

子どもの頃、喘息を患っていたので、呼吸が浅い。肺活量を調べると、数値が低すぎて、やり直しになる。何度もハァーッと息を吐くうち、どんどん申し訳なくなって、さらに数値が下がる。

「胸をひらいて、しっかり息を吸い込むように」とお医者さんに言われる。

うつむいて背中を丸めていると、胸はふさがる。上を向くと、自然に胸がひらく。息が楽になる。気持ちも楽になる。

「洛」の響きにも通じる「楽」。肩の力を抜いて、気張らず、気楽に。京都に来たら、すとんと楽になった。そんな感じ、ええなあ。

これはシナハンというよりイメハン。

知らなかった京都

「京都の人が『こないだの戦争』って言ったら応仁の乱のことらしいですよ」
「ほんまですか⁉︎」

そんな話をしながら歩いた。疫病に右往左往させられている現実とは違う悠然とした時間が底に流れているようだった。

何百年の歴史を誇る老舗がそこかしこにあって、町に溶け込んでいる。京都では百年続いても新参者。第3話「秘密の鞍馬口」で市川猿之助さん演じる造り酒屋の4代目が「たかだか百年」と言う台詞は、シナハンでの実感を映している。

わたしがバイトしていたヤマダベーカリー(北白川)も、カフェコレクション(百万遍のちょい東)も昔と同じ場所にあった。名前は変わってなかったけれど、雰囲気は新しくなっていた。通り過ぎた一瞬に当時のことが包みをひらいてこぼれたみたいに思い出された。

京阪の今出川駅出てすぐ、くるみのパンをよく買ったベーカリー柳月堂も同じ場所にあった。

数十年経っても変わらずそこにある。それだけで感激したけど、数十年なんて、京都の長い歴史からしたら、まばたきするくらいの短い時間かもしれない。わたしが過ごした4年なんて、まぶたを閉じかけているくらいの刹那だ。

4年暮らした町なのに、知らないことだらけだった。今出川駅から鴨川を西へ渡ったところに立つ「鯖街道口」の碑も知らなかったし、その西に広がる桝形(ますかた)商店街の鯖寿司も口にしたことがなかった。

桝形商店街を撮った写真も上を向いている。

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Twitterでよく名前を見かけるミニシアターの出町座さん。2017年12月28日オープン。学生時代に通った映画館がなくなった一方で、新しい映画館が生まれているのはうれしい。

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鍾馗さんと天使突抜

鍾馗(しょうき)さん(第2話「五条路地裏ラビリンス」に登場)のことも知らなかった。

見上げれば、そこかしこの瓦屋根にいる鍾馗さん。火事や疫病から守ってくれるという瓦でできた魔除け。一度教えてもらうと、なんぼでも目につくのに、わたしは京都おったとき、どこ見てたんやろか。

いろんな顔やポーズの鍾馗さんがいて、「他にどんな鍾馗さんおるやろか」と探してしまう。面白いので、町医者の父親の元に転がり込むワケアリ娘の動画のネタにした。娘が英語で動画を撮る設定もシナハンのときには決まっていた。

(演じる藤野涼子さんが「英語いける」とは聞いていたものの想像以上に流暢な英語を話すので、撮影のときにびっくりした。英語を話すときの表情もとてもいいので、ドラマ観る方はそこもご注目!)

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サウナの梅湯」のことは、名前も初めて聞いた。わたしが京都を離れたずっと後、2015年に再出発した銭湯らしい。

「サウナの梅湯いうとこがあって、つぶれかけた銭湯を若い人(銭湯活動家の湊三次郎さん)が継いだんですよ」

話を聞いて面白そうと思い、行ってみたらなお面白かった。中でTシャツや野菜を売ってたりして、文化祭のノリを感じた。

海外からの旅行客がクチコミでUMEYUを広めていているらしいという話もヒントになり、第4話「恋舞い上がる天使突抜」に登場。サインにネオンが灯った夜の外観が、これまた面白い。

「天使突抜(てんしつきぬけ)」という地名は友人の住所として知っていたが、秀吉が区画整理で天使様(五条天神宮)を突っ切って道を通したのを皮肉って名づけられたという説は知らなかった。

詩的な4文字の並びがタイトルっぽいなと思っていたが、「angel」が大きな意味を持つ今回のドラマと「天使」でつながった。

天使突抜を英語で言うたら、break through angel⁉︎  強そうやなー。

わたしが鍾馗さんに気づかなかったように、天使も実は近くにいるのかもしれない。上を向いていたら、いつか目が合うのかもしれない。

空也上人から一字もらって「空吉」

シナハンでつかまえたしっぽをたぐり、見たこと感じたことを入れ込んでプロットを書いた。

プロットとは、こんな脚本にしたいという企みがわかる骨組み。出来事よりも登場人物の動機に重点を置いて、流れを整理したもの。あらすじとしても読めるが、作り手が意図を共有して、よりどころにするために書く。「あらすじとプロットは違う!」と力説する人も多い。

プロットを重ね、脚本に進んだ。シナハンの後からも「京都こんなとこありますよ」と教えてもらい、どんどん取り入れた。監督の千葉行利さんの打ち返しが実に的確で、直すのが楽しかった。なるほどそっちに行きますか、こっち曲がりますかと京都の路地を探検するような発見と驚きがあった。

崖を登ったりそこから突き落とされたりというような高低差、落差の激しい話ではなく、地べたを歩いたり自転車で走ったりする速さで、その目線から見える小さな半径の生活圏で物事が進んでいく。

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オリジナル作品なので、人物の名前も一人ひとりつけていった。

佐々木蔵之介さん演じる町医者の名前は、病人や貧しい人に念仏を唱えて回った「空也上人」(第2話「五条路地裏ラビリンス」に登場)から一字いただきましょうとなり、「空吉」に決まった。名字は柿木。かきのき・くうきち。か行が多くて、「隣の客はよく柿食う客だ」の早口言葉みたいな名前。飄々とした主人公の佇まいにも合う。

「空」は「くう」とも「から」とも「そら」とも読める。父と娘が離れて暮らしていた空白の年月。空っぽの思い出。心の隙間に吹き込む冷たい風。曇ったり茜色に染まったり、父娘の空模様も移ろい揺れる。重い雲の向こうに青空がのぞくようなドラマになればと思う。

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藤野涼子さん演じる娘の名前は「京」と書いて、ミヤコ。今の名字は宮野。第2話で京が空吉に「母が再婚して、ミヤノミヤコって漫才師みたいな名前になって、結構イヤでした」と不満をぶつける。名前ひとつとっても、色々あった。そんなミヤコが、名前の由来になった京都に、父を訪ねてやって来る。

ドラマのタイトルは「ミヤコが京都にやって来た!」に決まった。ハッシュタグは「#ミヤ京」。

京都紹介のミニコーナーも含めて1話30分の全6回。ABCテレビにて日曜23:55から、テレビ神奈川にて火曜23:00から。

TVerGYAO!はABCテレビでの放送後、1週間無料で見逃し配信。TELASAは全話配信(水曜0時最新話公開)。月額562円(税抜き)、auスマートパスプレミアム会員は無料。auの佐々木蔵之介さんインタビュー(誰でも読めます)では脚本家にも触れていただき、ありがたや。

夏の終わりから秋のはじめにかけて脚本を書き、秋の終わりの撮影にもお邪魔できた。冬に届けられたドラマを見ながら、また京都に行ける春を待っている。 

おまけ。柳家こゑん師匠が「月刊天文ガイド」で連載中の「星空川柳」の募集《「夏銀河」のどれか一文字を頭に折り込んだ折句》に応じて一句。

夏雲や 銀歯落として 河深し

「夏銀河」の3文字すべてを頭に入れるのは規定外だけど面白いからと掲載作に。シナハンで撮った写真に合うので、はめてみた。

川を覗き込んだら銀歯がぽちゃん。水は深く、どこに行ったかわからない。やれやれと天を仰ぐその人が銀髪になった空吉だったらと想像する。「しゃあないなあ」と笑ってそう。

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最後まで読んでいただきありがとうございます。脚本参加しているユニバーサル・オーディション「ルーツ」について書いたnoteをマガジンにまとめています。読んでいただけるとうれしいです。https://note.com/masakoimal/m/m654df923d4a7

ありがとうございます。ほくほくのたこ焼きどうぞ❤︎
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✒︎ミヤコが京都にやって来た!✒︎アイカツプラネット!✒︎おじゃる丸✒︎嘘八百シリーズ✒︎ユニバーサル・オーディション「ルーツ」脚本「運命のテンテキ」「私じゃダメですか?」✒︎連載小説「漂うわたし」 http://instagram.com/masakoimai1/