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双子の星 03

ある朝、お日様がカツカツカツと厳にお身体からだをゆすぶって、東から昇っておいでになった時、チュンセ童子は銀笛を下に置いてポウセ童子に申しました。

「ポウセさん。もういいでしょう。お日様もお昇りになったし、雲もまっ白に光っています。今日は西の野原の泉へ行きませんか。」

ポウセ童子が、まだ夢中で、半分眼めをつぶったまま、銀笛を吹いていますので、チュンセ童子はお宮から下りて、沓(くつ)をはいて、ポウセ童子のお宮の段にのぼって、もう一度云いました。

ポウセさん。もういいでしょう。東の空はまるで白く燃えているようですし、下では小さな鳥なんかもう目をさましている様子です。今日は西の野原の泉へ行きませんか。そして、風車で霧をこしらえて、小さな虹を飛ばして遊ぼうではありませんか。」

 ポウセ童子はやっと気がついて、びっくりして笛を置いて云いました。

「あ、チュンセさん。失礼いたしました。 もうすっかり明るくなったんですね。僕今すぐ沓をはきますから。」

※青空文庫 宮沢賢治 作「双子の星」より

(底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社)

つづく


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