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本の仕事と私

今日は、私がなぜ本屋で働くことを選び、なぜ本屋を開きたいと思うのか、自分自身に問いかけてみたいと思います。

私は、書店員を30年やっています。書店員を辞めようと思ったことは何回もあります。しかし、他の道に進もうとしても、なぜかそこには道はつかず、この道に戻されるのです。何か他の道で生きていこうと思っても、一歩その道に足を踏み入れてみると、心の奥底から「これは自分の仕事ではない」という気持ちが湧き上がります。

私のことを心配してくれる人たちから、斜陽産業の出版業界に身を置くより「違う業界で働いてみたらどうか」と助言をいただくのですが、おそらく、うまいこと違う業界で働けたとしても、何かモヤモヤした気持ちを抱えながら仕事をしていると思うのです。

なぜ本屋で働くのか。なぜ本屋を開きたいと思うのか。この問いに対して、口でそれらしいことはいくらでも言えます。それらの表面的な思いのヴェールを少しずつ剥がしていって、より、本心に近い気持ちを探ると、この言葉に辿り着きます。

「私にとって、本の仕事は天職であり、私には『本と人をつなぐ』という使命があるから。そのために本と人が出会う空間を作り、広げ、守る」

年をとって、選択肢がなくなった、という見方もあるかもしれません。しかし、年齢を重ねて様々な体験をして、やっと天命の欠片を見つけたと思う方が私にとっては自然です。

神様が本当にいるのであれば、「寄り道せずに真っ直ぐ進め、そのための縁は用意してやる」と言われているような気がします。

私が目指す本屋の姿―。

本と人がつながることによって、その人の人生がよりよく変わっていく。そのプロセスに寄り添える本屋でありたいと思います。そして、本に関わる全ての人たちが幸せになることを目的として働きたいと願います。

本と人が出会う場所というのは様々あります。

代表的なところは書店の他では図書館でしょう。しかし、その人の人生にとって、とても大切な一冊は、所有しておきたいものです。必要な時に読み返し、生きる糧としておきたいものです。

そこまで大仰なものではなくても、本との偶然の出会いが、後から振り返ればそれが必然と感じられる瞬間を創出する空間でありたいと願います。

本との出会いはオンライン書店でも作ることは可能です。

少し話は変わりますが、今、紙の辞書が見直されており、隆盛を誇っていた電子辞書は、その勢いを落ち着かせています。理由は紙の辞書の方が、ひとつの単語を調べても、紙面に並ぶ他の単語も目に入るからです。結果的に知識の幅が増えて、学習効率が良いと考えられているからです。

同じことが、リアル書店にも言えます。ひとつの本を見ていても、隣に並ぶ本も目に入ります。広く知識をとらえることができ、そこからまた深く物事を探ったり、考えたりする機会が生まれます。

そして、リアルな書店には「人」が介在します。商品知識もさることながら、コミュニーケーションを大事にする。そんな書店員を育みたいと願います。

そんな私たちの書店は「親切な対応」「笑顔の接客」「清潔な店内」を約束します。そしてお客様、取引先様とは「同志」であることを再認識します。

オンライン書店とリアル書店、電子書籍と紙の本。対立するような見え方をしますが、両者は共存できると考えます。大切なことは、お客様が選ぶということ。私たちはお客様に選ばれる書店を目指します。

私たちは、街の本屋の文化をたやさないため、様々な取り組みを試みたいと思います。しかし、それらは「◯◯さんだからできる」というような属人的なものではないほうがいいと考えます。

確かに、独自性があったほうが集客にもつながりますし、差別化もできます。しかしそれは、「◯◯さんだからできる、自分はできない」というように、現状を投げ出すための理由ではいけないと思います。

「何か、自分にしかできないことがある」と苦境に喘ぐ街の本屋さんが思えることがスタートではないでしょうか。それぞれのお店が、個性を活かして再生できるようなヒントを一緒に探すための取り組みでありたいと思います。

私は、「街に本屋があったほうがいい」とは思っていますが、なぜいいのかは明確な答えを見つけることができていません。その問いを抱き続けながら進んでいきたいと思います。


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