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[質問箱]教養って何ですか?

「教養とは何か」。ホントによく質問されます。わたしは折々に、けっこう思いつきで答えていて、総合すると話がとっ散らかってきたかもしれません。でも、今日も思いつきで答えますね。難しいご質問ゆえ、ご容赦ください(なら、思いつきで答えんなって話ですが)。

教養とは何か。ぱっと想像されるのは、「知識ある人」かもしれません。確かに知識は大切です。でも、たとえばソフトウェア言語のみ無尽蔵に知識がある人を教養人と呼ぶでしょうか。あるいは「〇〇年から製造されているあの新幹線の車両の座席数はいくつで、実は細部にこういう工夫があるんです。東京駅発の時刻表を上から言うと」と諳んじる人を教養人と呼ぶでしょうか。呼ばない気がします。

ただたんに「知識がある人=教養人」とするだけでは、説明が足りません。どこかでわたしたちは「特化的にある分野に『だけ』知識がある人を教養人とは呼ばない」と思っています。そういう人は、専門家だったり、あるいはオタクやマニアだったりする。専門家が教養人と見做される可能性はありえますけれど、できれば幅広いジャンルに知識を持っていた方が、よりふさわしいと考えられている。そういうきらいがあります。

では、幅広い知識を持つ人は、すべからく教養人といえるでしょうか。これについては、「いえるでしょ」と返事をしたくなる人もいるかもしれません。ですが、これもそうかんたんに断言できないかも、とわたしは思います。なぜなら、幅広い知識を持っていても、その知識をきちんと運用できない人は、やはり教養人とは呼ばれない感じがするからです。たとえば、広範な知識を頭にインプットしていても、自説に固執し、思考に柔軟性がなく、人の意見を否定ばかりしている人を教養人と呼ぶでしょうか。たぶん、呼ばないでしょう。

結論的にいえば、わたしは、知識をきちんと運用できることが「教養がある」ことであり、そういう振る舞いやパフォーマンスができる人を教養人と呼ぶ、と思っています。

ここで試みに辞書を引いてみましょう。私の手元にあるものには「教養」についてこう書いてありました。「学問・知識を(一定の文化理想のもとに)しっかり身につけることによって養われる、心の豊かさ」。「へぇ」となるかもしれません。驚いた方もいらっしゃるでしょうか。そうなのです。教養とは、心の豊かさを指す語なのです。教養人とは、きちんと知が運用できる心の豊かさをかねそなえた人のことを言います。

さらに追求してみましょう。「きちんと知を運用できる豊かさ」とは、どういうことを指すのでしょうか。実は、この点については多くの思想家の意見が一致しています(という気がします)。たとえば、阿部勤也氏は「自分が社会でどのような位置にあり、社会のためになにができるかを知っている状態、あるいはそれを知ろうと努力している状況」が「教養がある」状態であると言っています。一方、内田樹氏は、自分をマッピングできる人、自分が地図の中のどこに立ち、自分には何ができて、何ができないかを知っていて、それを言葉にできる人が教養人だ、と言っています。わたしも、つたない読書経験ながら、同じ解を導き出しています。

どんなに精巧な地図があっても、いま自分がどこにいるのかがわからなければ、地図は役に立ちません。地図を精巧なものに仕上げる作業は、知識を細かく詰め込むことに似ています。知識があればあるほど地図は細かくなる。厳密になる。しかし、肝心の、「あなたが、いまその地図上のどこにいるのか」がわからなければ、地図は使い物になりません。教養は、それをつねに素早く察知することに通じます。研ぎ澄まされた感性にささえられた教養が、「あ、今わたしはここにいるんだ」と自身の居場所をメタ的に知らせてくれる。それを知っていれば、次に自分がどう振る舞っていくことが、豊かな振る舞いつながるのかがわかる。で、次の動作に移るときに役立つのが知識です。地図が精巧であればあるほど、過つことなく次へ進むことができます。

よく、気の利く人っていますよね。みながカオス的に振る舞っていても、そこからある秩序を見いだし、その場にいる人の快適さが最大になるように場の文脈をつかみ、気を利かせ、配慮できる、そんな人。そういう人は、わたしは教養がある人だなあと思っています。集団のなかでの自分の立ち位置を理解して、また他人のことを知りうる限りインプットして、その上で、自分が何をすれば皆が喜ぶかをつかめる人。その教養にはしびれますね。

また、その場にいる人たちの知的パフォーマンスが最大に発揮されるように、自分と他人の知性をうまく引き出し、連結させ、運用させられる人も教養がある人だと私は思っています。こういったことを、わたしは「きちんと知を運用できる豊かさ」と呼んでいます。

これを踏まえたうえで、かんたんに教養が身につくかどうかに思いを馳せてみてください。おそらく「それ、難しいよ」と嘆息するはずです。

教養、奥深いですよね。

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