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「心と体と」

 夕べ「心と体と」というハンガリーの映画を見ました。公開当時にレビューを読んで、見てみたいなと思っていたこの作品がアマゾンプライムで見れるようになっていました。とても好きな映画でした。
(ある「サイン」に気づいた直後にこの作品を見たことも、またサインだなと思いました。神さまほんとうにありがとう)

 この映画の好きなところはまずその色彩です。全編意図的に基調カラーとしてペールグリーンが使われていて、そこにピンクマゼンタの刺し色が効かせてあります。私の好きな色ベスト1、2です。色を見ているだけで癒されました。

 けれど舞台は食肉処理場という、世界でも最も生々しい血が流れる職場なのです。寒々しい加工場内で牛が銃殺され、首を切られて血を抜かれ解体される様子を、カメラは躊躇することなく捉えています。
 監督は清浄な淡い色彩と、食肉処理という残酷極まりない現実を意識的に対比させています。

 この作品にはたくさんの「牛」と、それから二頭の「鹿」が出て来ます。 
 主人公の一人はこの食肉処理場の財務部長の初老の男エンドレ。エンドレは片腕が不自由で、どこか世間から一線を引きながら、消極的に人生を生きています。
 そこにもう一人の主人公、マーリアという食肉検査官の若い女性が赴任してきます。マーリアは高い知能と並外れた記憶力を持っていますが、高機能自閉症的な特性があり、人の気持ちや場の空気を読むことができず、他者とのコミュニケーションを避けて内向して生きています。

 職場で起きたある事件から、職員は心理検査を受けることになります。
 その検査の中で、エンドレとマーリアが毎晩まったく同じ夢をみていることが発覚します。お互いが夢の中で牡鹿と雌鹿となって、同じ森の中で交流していたのです。
 冒頭に二人の夢のシーンが出て来ますが、美しい牡鹿と雌鹿が深い森に静かに佇み、控えめに触れあう場面にとても引き込まれました。このシーンを見ただけで「この作品はアタリだ」と感じました。
 親子ほどの年の差のある二人は、見た夢を報告しあうようになり、次第にお互いに惹かれ合っていきます。

 この映画のタイトルのとおり、これはコミュニケーションを巡る「心と体」の物語です。また心と体のそれぞれにコミュニケーションの困難を抱えた二人が、困難を超えて繋がり合おうとする勇気の物語でもあります。

「牛」は体の、「鹿」は心の象徴として描かれています。
 牛は狭い檻の中に閉じ込められ、ただ死によって搾取されるのを待つ運命にあるのに対して、夢の中の鹿は静謐な森の中を、神々しささえ漂わせながら自由に駆け巡ります。
 興味深かったのはマーリアは初老のエンドレの「体」を見ずに「心」にだけ純粋に惹かれているところでした。マーリアが人目もはばからず(空気を読むことを知らないので)、自分の父親のほどの年齢の、くたびれた男性であるエンドレに向かって「あなたは美しい」と告げるシーンは印象的でした。

 マーリアは体に触れられることに極端な抵抗感を持っています。けれどエンドレが自分と肉体的にも繋がりたいと望んでいることに気づいて、その抵抗感を克服しようとポルノビデオを見たり、ぬいぐるみと一緒に寝てみたり、公園でむつみ合うカップルを無遠慮に観察して努力する姿は笑えましたが、彼女の一途さに胸がじーんとしました。
 ところが努力の甲斐もむなしく、マーリアはエンドレから親密な関係を結ぶのは無理だと距離を置かれてしまいます。

 始終完全に無表情なマーリアがこの後にとった行動から、マーリアの思いがどれほど深いものだったかが描かれていますが、マーリア自身も、その自閉症的な特性から、実は自分の感情を感じ取ることができずにいたのではないかと思います。
 このシーンは凄絶でありながら神聖な静けさに包まれていて、完全な絶望が一気に希望へと転ずる瞬間が描かれています。監督の手腕に思わず唸った場面でした。

 夢によってつながれた二人が、困難を乗り越えて現実(肉体)においてもつながった後、「鹿の夢」は消えます。
 作品の一番最後、場面はホワイトアウトして終わります。真っ白な画面いっぱいに溢れんばかりの光が充ちているのを感じて、監督は何より、この心も体も凌駕する、純粋な光を描きたかったのだろうなと思いました。
 多分、今後の人生で何度か見返す作品になるだろうと思います。


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