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Interview Vol.1 屋宜加奈美(hugging♡+)

境界線がなく、あいまいでファジーな、すべてが混ざり合い溶け合うような世界観。屋宜加奈美の描く絵にはいつも、「形が定まらない」美しさが存在している。本人からは笑顔が絶えず、人と会うこと、話すことをとても楽しんでいる印象を受ける。その様子は、屋宜の作品にあふれている境界線のない美しさそのものだった。そんな彼女の創作活動の原点や、作品づくりのこだわりをたっぷりと伺った。

(取材日:2018年7月6日 取材者:鯨井啓子)

柔軟に表現を重ねた “黎明期”

―表現活動をはじめたころの記憶はどんなものですか?

幼稚園でお絵描き帳を支給されていたのですが、それはすぐにいっぱいになっていた記憶がありますね。そのころから記憶の中に、絵を描いている自分がいるようになります。小学校の時のクラブ活動は、手芸部と漫画アニメクラブ。アートというよりもイラストをよく描いていました。ビーズや生地などの素材に触れることも、そのころから好きでした。中学校は美術部でパステル画を描いていましたが、高校時代には軽音部でベースを弾いたりもしていましたね。

―ご経歴を教えてください

大学は東京工芸大学のデザイン学部、グラフィックデザイン科に進みました。とても自由な雰囲気の大学で、写真や映像など幅広いジャンルの作品を作らせてもらいましたが、中心的に取り組んでいたのは平面的なグラフィック表現です。卒業後は広告制作会社にデザイナーとして入社し、パンフレットなど紙媒体のデザインをしてきました。結婚を機にフリーランスになってからも、チラシやパンフレット、名刺などのデザインの仕事をしてきましたので、紙を利用した平面のデザインの経験が比較的多いです。

抱きしめ、愛し、生み出すアート

―hugging ♡+(ハギングラブプラス)とはどんな取り組みですか?

2014年に立ち上げたアートプロジェクトです。名前は、もともとは生地のパターンを作るときのブランド名にしようとつけたもの。アートを生み出すプロセスを「ぎゅっと抱きしめる」、「抱きしめる」と表現し、“+”の部分には、カラーインクによる抽象画の描画、テキスタイルパターンのデザイン、ダイレクトメールや名刺のデザインなど、様々な表現を当てはめています。最初の頃はスイーツも作っていたくらい、活動内容は本当に形にとらわれないですね。現在力を入れて取り組んでいるのは、カラーインクを使って描くポートレートカラーです。

―立ち上げの経緯を教えてください

立ち上げ当初、長女は幼稚園で次女は赤ちゃん。次女はアレルギー体質でアトピー性皮膚炎や咳がよく出ており、症状で眠れない日が続きました。そんな中、「母親である自分が、生活面や精神的な面などで努力を怠っているから症状が治まらないのではないか」と自分を責めるようになってしまい、絵を描くことからも遠ざかっていました。そのころ、服部みれいさんや岡田哲也さんが発信されていた「現実に起こっていることには、自分の内面が反映されている。」といアイデアに出会い、自分自身が本当にやりたいことを見つめる機会を得ました。私のやりたいことはやはり絵を描くことだったので、それから作品をSNSにアップしはじめたんです。ありがたいことにこのプロセスの中で多くのご縁ができ、活動を後押ししてくれました。

―ポートレートカラーとはどんなものですか?

カラーインクを使用して描く抽象画で、B5サイズのキャンバスを使用します。もともと、妹に名刺を作ってほしいと言われたのがきっかけではじめました。似顔絵とかも描けないし、文字だけでは寂しいと思い、妹を見ながら抽象画を描き上げてそれをデザインに使いました。相手がいることで、普段の自分ならばあまり使わないような色を使っていることに気付き、絵の雰囲気もよくなったんです。そこに手ごたえを感じて取り組みを開始し、現在は、依頼者のホロスコープと顔写真からインスピレーションを得て描いています。

「見たことのない景色が見たい」

―作品を描くときに大切にしていることを教えてください

「きれいである」ということです。ポートレートカラーに関しては、にごりのなさ。そして、透明感を重視しています。デザインの仕事を長くやって来ましたが、広告は「伝えること」が最重要課題なので、美しさだけを追い求めていても成立しません。でも、絵の場合はそれができます。できるだけひとりでいられる環境を作り、集中して作品を仕上げるようにしています。作品を描くまでにはじっくりと時間をかけるタイプですが、気分が乗ると「次はこの筆でここにこの色を乗せる」というイメージが明確に湧いてくるので、負担なく描くことができます。こだわりはとても強く持っていますが、一方で依頼してくださった方に満足していただけるものを生み出すことも大事。相手と自分の満足が一致するポイントに作品のクオリティを持っていけたときはとてもうれしいです。また、私自身が誰かの「素材になりたい」という思いも強く持っているので、自分の生み出した生地などの素材を使ってもらえることにも喜びを感じます。

―やりがいを感じるのはどんな時ですか?

私は、「見たことのない景色が見たい」と思って絵を描き続けています。それができた!と思えたときに、とても大きな喜びを感じます。生地のパターンデザインも行っていますが、その魅力もやっぱり「景色が見られるから」。絵と違い、パターンはどこまでも続いて終わらない。そこが面白いです。

―今まで描いた中でいちばん印象的だった絵はどれですか?

昨年の夏にワンピースを作った生地に使用した絵はとても好きです。この絵を描けたときには大きな満足感がありました。

―屋宜さんにとって”アーティスト”とはなんですか?

学生時代とかだったらもっと「アーティストになるぞ!」と勢い込んでいたと思うのですが、まわりの人たちに「宣言しないとなれないよ」と言われ、「私はアーティストなんだ。だから、こういう生き方をするんだ。」ということを決めて行動するようになったところがありますね。若いころは自信もなくて、仕方なく会社員になると決めたところがあるけれど、いろんな経験をする中で逆に「私はアーティストとして生きるしかないな」とあきらめがついたというか。今でも創作活動をする中で、つくりたいもの、表現したいことはたくさんあるけれど、なかなか具現化できないというコンプレックスがあります。けれど、以前に友達が「目に見えないものを絵に表せているだけで形にできているよ」と言ってくれたことがあって、すごく救いになりました。

―発想の源はどこにありますか?

様々な刺激をシャットアウトしてしまうとなかなか面白い絵は描けない人だろうなと自分で感じているので、おいしいものも食べたいし、遊びたいし、癒されたいです。外からの刺激に満たされてはじめて絵が描ける人だなと思います。授乳期にはなかなか絵を描けなかったという経験もあって、体力の充実も絵を描くために大切なことだと思います。

―今後の展望をお聞かせください

以前に、衣類、ソファ、カーテン、壁紙などすべてのものを青いパターンの生地でつくりあげた“異空間”をつくろうと働きかけていたことがあります。あるいは、そのパターンを利用した様々なデザインの洋服を着て、表参道をたくさんの人が歩くプロジェクトとか。根底には、「日常の中の違和感」を表現したいという思いが強くあります。美術館にある作品もいいけれど、日常の中でなにかしら引っかかる部分になりたい。これからも、そんな取り組みを実現していきたいと思っています。

―作品を見てくれる人に伝えたいことはどんなことですか?

「みんなちがってみんないい」ですね。それぞれの人がそれぞれの個性を、絶対的に尊重されてほしい。という思いが、私には強くあります。今は肖像画を飾る時代ではないですが、それでも「自分の色はこんなに美しいんだ」ということを実際に目し、日々の暮らしの中で味わってほしいという思いからポートレートカラーも描いています。そういった思いが、見る人にも伝わるといいですね。

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