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ブルーピリオドが凄い

ブルーピリオドという漫画をご存じだろうか? 将来何をしたらいいのか分からないけど、学校の勉強は器用にこなす高校生の男の子(矢口八虎)が、些細なきっかけから、絵画の面白さに気づき、東京藝大を目指すというストーリーの漫画である。
東京藝大は、美術と音楽の日本最難関の大学であり、その受験は東京大学に入るよりも難しいと言われるところである。そんな大学に、全く美術に触れてこなかった主人公が、突然挑戦する!というところから話が始まる。

しかし、この漫画の凄いところはそこではない。最近(2022年5月31日時点)、最新刊の12巻が発売されたところなのだが、人生の悩みとか、そもそも「生きることとは何か」という問いをするどく突き付けてくる。しかし、作中では、その切っ先は主人公である八虎に向けられており、八虎を取り巻く人たちは基本的にとても優しい。だから、読み手は作中のこの鋭い問いをサラッと流すこともできるのだが、ちゃんと読んでいくと、どこまでも考えさせられる作品になっている。
※もう、ね。この漫画だけでめちゃくちゃ語り合いたい!

分かりやすい例を挙げると、スラムダンク的な感じの作品というのだろうか?キャラたちそれぞれの生き方が凄い。そして、スラムダンクと違うのは主人公が賢い(笑) しっかりと目の前のことに悩み、向き合い、考えていく様が、僕はより好きだ。
そういう意味では、同じ井上雄彦さんのバガボンドや、森博嗣のヴォイドシェイパの様な哲学性があると言えるかもしれない。

若干のネタバレなのだが、主人公は、見事藝大入学を果たした後、先生たちの指導やより深い芸術の世界で生きている人たちと交流を深める中で、何のために絵を描くのか?という問いに向き合い始める。基本的に「考えること」で前に進むタイプの主人公が、「芸術」という感性の世界に向き合う姿が、シリアスなタッチや時にポップな描き方を交えながら描き出される。

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12巻の個人的な見どころは八虎がひたすら人物を観察して絵をかきまくるシーン(とその後)と、美人のアーティストに色々なことを教えてもらって八虎が、また絵を好きになっていくやりとりです。
12巻では八虎は20歳になる年齢のはずですが、1つ1つの出来事によって、どんどん変化が起きてるのが丁寧な描写から分かります。
この漫画は、色々な表現方法でその時のキャラクターの気づきや集中しているものをひときわ際立たせてくるところもまた凄いところなんです。500枚のドローイングの課題に取り組むとき、八虎は電車に乗り合わせた乗客を観察しはじめます。そしてその気づきを一つ一つ絵にしていくという描写が、4ページにわたって描かれているのですが、久しぶりにその行為に没頭している様がこれでもかと伝わってくるんです。「それ以外に見えていない」ということが、本当に伝わってくる。
また、美人のアーティストに「アート」についてや色々なことを教えてもらうシーンでは、このアーティストが本当に美しく描かれているんです。このキャラクターが今後、どの様に八虎に関わっていくのかもとても気になります。

もう一つ、考えさせられるシーンとしては、八虎がイベントに参加するシーンで、その場のすばらしさは認めながら、自分には合わないと感じるところが、八虎のキャラクターがよく出ていると感じます。八虎は美術・芸術にどっぷり浸かっていないからこそ、その世界にいる人たちと一定の距離がありつつ、しかしその世界への憧れは捨てきれないが、ちゃんと自分のことを考えて冷静に見つめなおすようなキャラクターとして描かれています。
こういう場面って、日常生活の中でも色々なところにあると思うんです。楽しいなぁ、好きだなぁと思って踏み入った世界、例えば新卒で入社した会社とか、でもその世界で活躍している人たちや、同僚が凄く見えてしまったり、そんな風にはなれないと思ってしまって、やる気がなくなってしまったり。
でも、そんな中で、「自分ってなんなんだろう」ということに向き合って、「あの人と違う」ということを自分なりに納得していって、どう生きていくのか?という問いにずっと答え続けていくのが、人生なんだとしたら、それを目の前で等身大で悩んでくれている八虎が僕たちのいい道しるべになるんじゃないか、そんな気がしてくるんです。

12巻では八虎は悩みすぎて、ふと「誰か全部俺の人生選んでくれれば、『お前が選んだんだろ』とかも言われなくて済むのにな」という独白をしています。

こんな風な悩みを吐露する主人公が、今後どうやって絵画と、そして自分と向き合っていくのか。引き続き展開が気になります。


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