はじめて作った椅子の話

先日、お客さんのお宅へ納品の際、職人さんとふたり、車に乗ってでかけました。
普段はなかなかできない話ができるとなると、ぼくは聞きたかったことを次々に質問してしまうのですが、嫌な顔ひとつせず、答えてくれました。

まあ、やっぱり、なんでこの仕事をしているんですか?ってことは気になります。
どのようにして、はじまったのかということも。
これまでにそんな質問を投げかけた相手の答えは皆さんそれぞれ違いました。

それで、Sさん。
当時、彼はサラリーマンとしてまったく別の仕事をしていたのですが、お子さんが生まれ、ご自身で椅子を作ってあげたいと思い、道具と材料を揃えて、その子のための椅子を作ったことがきっかけだったといいます。
「こう、ぱたんと倒しても使える小さなテーブルもつけたんだよ」
「凝りましたね」
「うん、どうせやるならと思ってね。それが楽しかったんだろうね。1年間、木工の職業訓練校に通ってさ、そのあと家具を作る仕事をはじめた」

ゆったりとした口調で語ってくれました。

「その椅子、いまもありますか?」
「もうない」
「もったいないな」
「そうだねえ」

ふと、Sさんは家ではどんな感じで過ごしているのだろうと思い、聞きました。

「お酒は飲まれますか?」
「うん、飲むよ」
「毎日?」
「うん」
「お好きなんですね」
「そうだね、好きかな」
「ビール?日本酒?」
「ワインだね」
「へえー、ワインを飲む場合、食べ物はなにを合わせるんですか?」
「なんでもいいの、昨夜はゴーヤチャンプルー」
そういって、Sさんは笑いました。

毎日、立派な仕事をしているというのに、偉ぶるところがひとつもなくて、穏やかで、さっぱり、というのが職人さんたちに共通するところ、そんな姿にいつも、多くを教えられます。

彼らを見ていると、仕事って、事に仕えるってことなんだなあと感じる。

いま取り組んでいるこの仕事は、どんな働きをぼくに求めているのだろう。
ぼくはこの仕事を通じて、なにを生み出せるだろう。

働きはじめて、もうすぐ1年です。



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