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武蔵野のパン屋

東京郊外の農家の敷地内に立つ古い建物を改修したパン屋の庭を作る事になりました。店のデザインを手がけた家具デザイナーの山上さんと一緒に考えたコンセプトイメージは宮崎駿のアニメ「となりのトトロ」に出て来そうな昭和の雰囲気のある店でした。気取らず飽きのこないパン屋さんをやりたいと言う店主の希望を考えるうちに馴染み深い景色として思い至ったのが武蔵野郊外の風景でした。

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小さな洋館(小屋)の前庭には柿の木、梅の木、キンカン、アオキ、アジサイなどの馴染み深い植木が植えられています。植え込みの間の小路をたどっていくと奥の薄暗い森に誘い込まれるようで、雨の降る日に柿の木の前のバス停でバスを待っていると、となりにトトロが立っている様な気がしてきます。そんなイメージを膨らませながら庭を作りました。以前からそこにあった何気ない日常の風景が広がっています。多摩川から運んできたであろう玉石の石垣の土手にはタンポポ、ヒガンバナ、イヌタデ、ヘビイチゴなどの草が生えています。子供の頃から当たり前にあって、あまり気にも止めなかった草たちですが、ずっと私たちに優しく寄り添っていてくれたのです。ガーデンデザイナーとして若い頃は目新しくて、珍しい植物を庭に取り入れる事に一生懸命になりました。ガーデニングブームに新しい領域を開拓するにはそれも必要な事だっのでしょうが、多くの人にとって心安らげる場所とはむしろ子供の頃から見慣れた場所ではないでしょうか。こんな風景の中でパン屋さんが馴染み、長く近所のに皆さんに愛され続けることを願うものです。

正木覚. http://ab-design.jp



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