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BtoB SaaSの製品比較はどのように行えばよいか?

はじめに

この記事では、ユーザ企業がBtoB SaaSを導入する場合に気にしておくべきの製品比較の観点を紹介します。

なお、私はシステム運用の現場リーダーとして「インフラ監視SaaS」のPoC&商用導入を行った経験があり、その際に複数製品を比較しました。このとき整理した考え方はBtoB SaaS全般に対して参考になると思いますのでご紹介します。

結論

いきなり結論ですが、BtoB SaaSの製品比較の観点は、概ね以下の4つに分類できます。

1. 機能
・必要十分な質/量
2. 費用
・イニシャル
・ランニング
・フォーキャスト
3. 品質
・SLA
・不具合修正&機能追加速度
4. サポート
・QAチャネル
・カスタマーサクセス/アドボカシーマーケティング 

それぞれ一つづつ詳しく見ていきましょう〜!

1. 機能

その製品に具備されている機能数、もっと分かりやすく言えば「できることの多さ」を見ます。もし比較している複数の製品で同じ様なことができる場合、「どのようにできるか」というの部分も見ます。例えば「操作のしやすさ」や「レスポンシビリティ(≒サクサク感)」などが質的観点で重要な要素になってきます。また、特にBtoB SaaSであれば「セキュリティ対策」なども重要な機能的要素になるかもしれません。

これらの観点を考える上で重要な心構えは「自分たちが必要十分な範囲」をしっかりと把握&定義しておくことです。闇雲に機能数の多さを評価しても意味がありません。「自分たちがこの製品を導入する上で期待していること、実現したいことはなんだろうか」をはっきりと定義し、その上で比較対象の製品たちがそれに叶っているかどうかを見る必要があります。

どんなに多機能&高性能であっても、自分たちが必要とするレベルを超えたものは無駄になります。

まずは

・いま自分たちが抱えている課題はなんだろうか。
・SaaSを導入する事で解決したいと思っていることはなんだろうか。

についてチームメンバとコミュニケーションし、期待する機能数とその質について意見をすり合わせることが重要です。

2. 費用

恐らく最も重要な観点は「費用」です。

実際の製品比較の実行や、どの製品を導入するかの決定は担当者レベルが行うと思います。しかし企業としてお金の使い方を決定するためには、当然ながらマネージャークラスに対して説明する必要があります。マネージャークラスが最も気にする観点は、やはり「費用(=コスト)」です

さて、「SaaSの費用」というのはざっくり以下の3つの観点で考える必要があります。

・イニシャルコスト
・ランニングコスト
・フォーキャストコスト

一つづつ見ていきます。

イニシャルコスト
文字通り初回費用です。製品を導入する上で最初に発生するコストになります。パッケージ製品などの場合はパッケージの購入価格と言っても良いでしょう。SaaSによってはイニシャルコストは0円という場合もあるかもしれません。

インフラ監視SaaSの場合よくあるのは、利用したい機能毎のイニシャルコストの足し算結果で全体としてのイニシャルコストが決まります。
そのため、自分たちがどの機能を使えばよいのか(=それによって自分たちの課題は解決されるのか)について考えておくことが大事ですね。

ランニングコスト
SaaSは基本的に継続課金で使い続けるものになりますので、ランニングコスト(月額 or 年額料金)は非常に重要な要素になります。また実績に応じた支払いについてもランニングコストとしてしっかりと検討する必要があります。

実績というのは、例えばインフラ監視SaaSの例で言えば、

・監視対象のホスト数
・デプロイするアプリケーション数
・転送するログ容量と保存期間
・取得するメトリクス項目数 等...

でしょうか。その他にも「作成するアカウント数」だとか「アクセス数」などもあるかもしれません。

考えるべき事としては「課金対象となる項目に対して、現在の自分たちの使い方に当てはめるとおいくらになるか」ということです。これが「実績」の意味となります。

フォーキャストコスト
そして、この「実績」を将来の使い方に対しても想定して算段したものが「フォーキャストコスト(予測されうる費用)」です。これが結構見落としがちになるので、しっかりと考えるべきところです。今の実績(=使い方)のままで今後もずっと使い続けるわけではないと思いますので...。

フォーキャストを検討するにあたっては、基本的に費用増につながるポイントを抑えておけば良いと思います。インフラ監視SaaSの例で言えばだいたい以下の感じでしょうか。

・サービスアクセス増(需要増)に伴う、ホスト数やログ数の増加見込み
・提供する機能数(デプロイするアプリケーション数)の増強計画

フォーキャストを考える上で重要なのは「確からしい将来需要を見積もること」です。過去数ヶ月のアクセス数推移の調査であるとか、今後の開発計画をしっかりと定義し、チーム内で意識合わせすることが大事です。これらができていない場合、将来予測などできようもありません。

そのため、日頃から自分たちのシステム・サービスをどのように成長させていくのかという戦略・ロードマップが重要になってきます。そして、この戦略・ロードマップというものは「1. 機能」でも示した

・いま自分たちが抱えている課題はなんだろうか。
・SaaSを導入する事で解決したいと思っていることはなんだろうか。

にも関わってくるところになります。

ちょっと話が逸れますが、「正しい戦略・ロードマップを描く」ために重要なことは、「正しく現状を把握し、将来の意志を明確化すること」だと考えます。何も難しく考える必要は全く無くて、要は

今いまこういう状況で、それを踏まえてこれからはこうしていきたいんだ!

というのが戦略・ロードマップの本質だと思います。「今いまこういう状況」を明確化するために様々なリサーチ(自分たちが抱える課題の深堀り、世の流れやテクノロジトレンドの調査 等)を行い、それらを踏まえて「だから私達はこうしたい!」という意志を持つことがとても大切な事になります。これはビジネス全般に言えることだと思います。リサーチで留まってはいけません。「意志を持ちそれを示すこと」が大事です

さて、ちょっと話が逸れました。

このように「費用」と一言で言っても複数の観点で算段する必要があります。ちゃんと計算してみると、例えば

イニシャルコストや現在のユースケースに基づいたランニングコストでは、圧倒的にA社製品の方がお安い。しかし将来の需要増を鑑みたフォーキャストコストまで含めると、実は2年後にはB社製品の方がトータルとしてお安くなる。

なんてこともあり得るわけです。SaaSはある程度の期間使い続けるものになりますし、他社製品への乗換もそうそう頻繁にするものでも無いと思います。ですから将来の使い方もしっかりと加味して、費用感を確からしく算段したいですね!

3. 品質

これは、SaaSに限らずハードウェア製品においても重要な観点です。いくら多機能&廉価であっても、製品品質(=どれくらい故障せずに使えるか)が悪ければお話になりません。

SLA
SaaSのようなWEBベースで提供されるプロダクトにおいては、ハードウェア製品的な意味での「製品品質」に当たるものとして「SLA」があると思います。

また、製品比較をする上では、単に数値としてのSLAのみならず、可用性を担保するアーキテクチャや工夫についても理解することが重要だと思います。こういった情報については、製品提供元のプリセールス担当者などに根掘り葉掘り聞いてみるのが大事です。もし真に自社製品のサービスレベルに自身を持っているのであれば、惜しみなくアピールしてくれるはずです。

不具合修正&機能追加速度
ハードウェア製品における製品品質がSaaSにおけるSLAだとすると、ハードウェア製品におけるアフターサポートの質は「不具合修正&機能追加速度」に当たると考えます。

SaaSプロダクトの開発&提供のライフタイムサイクルの考え方として「永遠のベータ版」という考え方があります。

日進月歩で機能追加リリースがなされ、それに伴ってUI/UXが変化し、一定程度の不具合も内包されつつ、次のリリースで修正され...という様なスパイラルを経て、プロダクトがどんどんと良いものになっていくわけです。良いSaaSというものはそのスパイラルを登っていく速度が速いと思います。

SaaS=永遠のベータ版ですから、ある程度の不具合があることは許容しつつも、利用者側が「ここバグっぽいんで直して!」という要望を簡単に報告でき、かつそれらが素早く修正される事が望ましいと思います。

また、どうしても自分たちのユースケースに足りない機能についても簡単に機能追加リクエストができ、それらが素早く反映されることが大事です。
(もちろんあまりにもニッチな要望だと受け付けてもらうことが難しいかもしれません。そもそもある程度自分たちのユースケースに根ざして必要十分な機能が具備されているかについては「1. 機能」のところでしっかりと検証する必要がありますが...)

その様な「不具合修正&機能追加速度」を定量的に評価する一つの指標として「デプロイ数/日」が当てはまると思います。別に日間でなくて月間でも良いとは思います。
(年間だと速度感が分からずあまり参考にならないかもしれません。)

要は、「製品提供元がどれくらいの速度感で製品のブラッシュアップをしているか」を表す数値として「デプロイ数/日」を測るのが確からしいかな、と考えています。
しかし「単なる数値としてのデプロイ数」のみならず、これもプリセールス担当者などに根堀葉掘り聞いてみるのをおすすめします。要は

「不具合修正や機能追加の速度を向上させるために、システム的・組織的にどんな工夫をしているんですか!?」

みたいな事をどんどん聞いてみるということです。やはり、真に自社製品のサービスレベルに自身を持っているのであれば、これも惜しみなくアピールしてくれるはずです。

4. サポート

さて、最後の観点になります。ここはSaaSならではの観点として結構大事だと考えています。

QAチャネル
世にあるSaaS製品の場合、だいたいWEB上にドキュメントが公開されているはずです。また、WEB上でチケットを上げてサポートを受けられる仕組みや、場合によってはアカウントマネージャーをつけてもらえるケースもあるかと思います。
(アカウントマネージャーをつけてもらうためには高額利用者に限る場合が殆どです。)

そういった「製品を利用している上で何か困ったことがあった場合にQAできるチャネル」というものについて、しっかりと比較検証しておきましょう。

・そもそもどんな手段(チャネル)が用意されているか把握する。
・それらの使い勝手はどういったものか実際に触ってみて確かめる。

これもPoCの段階でしっかりと見ておかないと、いざ商用導入した際に困る事あるあるだと思います。
(例えば、サポートチケットでのQAは英語しか対応していなかった!とか...)

日本語のドキュメント充実度
私が実際に製品比較をした際に重要視した観点でいうと「ドキュメントが日本語化されているか」なんかも見ていました。当時比較していたインフラ監視SaaSはいずれも北米発のものだったため、まだまだ日本語化されていないドキュメントも多かったからです。ただ、全部が全部日本語化されていなくても良いと思っていました。少なくとも基本機能的なところを解説したドキュメントや、自分たちがよく見そうだなと思うところを中心に確認すれば良いと思います。
(最悪Google Chromeの翻訳機能でなんとかなる場合が多いので...)

とはいえ、やはり日本人が利用するという観点では、日本語ドキュメントの充実度は重要ですね!これについても製品提供元にしっかりと聞いてみることをおすすめします。

・ドキュメントの日本語化に関する取組について詳細に教えてほしい!
・英語版が提供されてからだいたいどれくらいで日本語化する目標か!?
・まだ翻訳されていないページの翻訳リクエストを行う仕組みはあるか!?

などなど...。

カスタマーサクセス&アドボカシーマーケティングの取り組み
今まで示してきた項目はどちらかというと「プロダクト自体の魅力」を示す項目だったわけですが、この「カスタマーサクセスの取り組み」や「アドボカシーマーケティングへの力の入れ様」は提供元としての総合力を見極めるポイントだと思います。

ちなみに、最近は割と一般的に聞くようになってきた「カスタマーサクセス」というお仕事。これはBtoB SaaSの巨人にして開拓者であるセールスフォース・ドットコムで生み出されたお仕事です。詳しく知りたい方は以下の書籍をご一読頂くのがおすすめです。

どんなに良い製品でも、使いこなせない様では無用の長物です。もちろん導入企業側(ユーザ側)がしっかりと製品について学ぶ姿勢も大事だとは思いますが、提供元からのサポートやコンサルティングを通して「導入した製品を使って自分たちの業務上の課題がどう解決されうるのか?」を明確に理解し、その導入効果を最大化できることが理想ですよね。
(そのようなアウトプットを示せれば上司からの評価も高まるはず!)

「コンサルティング」というキーワードを示したとおり、私がカスタマーサクセスの取組において期待したのは、単なる御用聞きに留まらないプロアクティブなサポートでした。

自分たちがふわ〜っと思っている願望や、まだ認識すらしていない課題について根掘り葉掘りヒアリングしてくれて、「じゃあこの製品をこんな風に使って、業務上の課題をこのように解決して、社内外に対してこんな見せ方ができるようにしていきましょう!」というレベルでの動機づけ(=エンパワーメント)してくれるような事を期待していました。それらによって、インフラ監視という業務に携わるメンバー一人ひとりの成長にも寄与すると考えていたからです。
(チームリーダーとしては「どの製品を導入したほうがチームメンバーの成長にとっても良いか」を考えるのも大事だった。)

こういった「伴走型エンパワーメント」とでも言うマーケティングの手法として「アドボカシーマーケティング」というものがあります。

是非ともBtoB SaaSを導入する上では、単なる製品としての特徴(機能・費用・品質)のみならず、こういった「プロアクティブな取り組み」をやってくれる提供元のプロダクトを導入したいですよね!

正にそのへんの取り組みへの力の入れようについても、プリセールス担当者などに根掘り葉掘り聞きまくるのがおすすめです。私が製品比較の現場で行った事として

A社側は製品導入後にこんなオンボーディング施策を実施してくれるって提案してくれたんだけど、B社さんはどんなことしてくれるん?^^

みたいな事をけしかけて一方の提供元からより良いカスタマーサクセスの取り組みを引き出したりなんかしてました。
(結局、B社の製品ではなくA社の製品を導入することになりましたけど...笑)

繰り返しますが、単なる製品としての魅力(機能・費用・品質)のみならず、製品を導入した後のサポートや、利用者側が使いこなせるようになるためのプログラムの有無、徹底的な顧客目線での活動(アドボカシーマーケティング)度合いなど、「提供元の総合力」まで目を光らせて導入決断をすることが大事です。

最後に

長くなりましたが、上記でご紹介してきた4つの観点で製品比較を行うことで、割と説得力のある比較検討ができると思います。

1. 機能
・必要十分な質/量
2. 費用
・イニシャル
・ランニング
・フォーキャスト
3. 品質
・SLA
・不具合修正&機能追加速度
4. サポート
・QAチャネル
・カスタマーサクセス/アドボカシーマーケティング 

「今まで製品比較なんてやったことないよ〜」とか「比較検討の結果をどうアウトプットして上司に説明すれば良いかわかんないよ〜」というような若手ビジネスマンの方々にご参考になれば幸いです。また、BtoB SaaSを提供している企業のプリセールス担当者の方々に対しても、「ユーザ企業側はこういう点を見ているぞ!」というインサイトを得ていただければ幸いです。

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