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メーカーズシャツ鎌倉創業者の評伝「シャツとダンス」

20代の頃、Gainer(ゲイナー)という雑誌を愛読していました。ビジネスコーディネートもよく取り上げられていて、こういう服を着てバリバリ仕事をする大人になりたいと真剣に思っていた時期があります。末期は紙面が40代以上向けになっていたので、読まなくなりましたが…

その頃、ワイシャツ特集では毎回「メーカーズシャツ鎌倉はコスパがいい」というのが喧伝されていて、店頭でみてもたしかにユニクロより良いなと思いました。

先日ブックオフで200円コーナーを渉猟していると、創業者である貞末 良雄氏を中心とした、メーカーズシャツ鎌倉の評伝といえる「シャツとダンス」を読みました。シャツ単品でブランドを築くために、どういう努力をしたのか知りたく、読んでみました。

会社のビジネス的な成功を端的に言うと、シャツ業界は分業で成り立っているところを、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel、製造小売りの意味でいいと思います)として大量に製造から小売りまで手掛けることで、低価格と高品質という矛盾を超えて顧客をつかんだ、という話です。

その背景には、不遇の時代があったようです。柳井正氏をはじめ、SPAは物流の知見が必要ですが、貞末氏はかつて日本を席巻した株式会社ヴァンヂャケットで物流担当者を務め、単なる倉庫番の仕事を流通にしたという実績があります。このあたりの工夫の話は面白いですね。

そのあと、色々あり、ニューヨークに出店して7年やれている、娘さんに代替わりもして前途洋々、という感じで終わっている本書の出版は2019年。このあとも会社は続いていくわけです。ではどうなったか…

ニューヨーク店は撤退しています。コロナ前から赤字店と思われます。

米国での鎌倉シャツの売り上げは、マジソンとブルックフィールドの2店舗体制だった19年5月期でも271万ドル(20%を占めるECも含む)に過ぎず、米国法人は投資に見合う収益には遠かったはずだ。コロナ禍のロックダウンで休業期間が4カ月にも及び、感染が収まらずリモートワークが定着してマンハッタンの人出は戻らず、売り上げは前年の10分の1という惨状だったから、撤退の決断はやむを得なかった。

NY撤退後の「鎌倉シャツ」の課題【小島健輔リポート】

本業の売上高も芳しくありません。というか、SPAで売上右肩下がりは戦略の破綻を意味します。在庫リスクが顕在化してしまいますし、損益分岐点
売上高が高い構造はすぐには変えられません。

【売上高の推移】
2019年5月期 45億4776万円
2020年5月期 32億2,963万8,544円
2021年5月期 23億6,997万155円

この売上高減少について、コロナのせいだけではないともとれる指摘がされています。こういうときは店舗と実物を見てみたいですね。

組織も資本も小さな鎌倉シャツにとって米国進出は夢ではあっても現実の経営は荷が重すぎ、日本の商品や経営にも負担が及んだのではないか。

 ニューヨーク進出直後から日本で展開する鎌倉シャツのフィットが微妙にスリムになり、米国事業の投資が嵩んでかベーシックシャツの価格が税別4900円から5900円になり、6900円とか7900円のベターラインが増えていった。創業間もない頃から愛顧してきた私など、これまで試着しなくてもおきまりのサイズを選べば済んでいたのが逐一、試着しないと買えなくなって戸惑った。ニューヨーカー風にスリムに着る若い顧客を取り込む効果はあったかも知れないが、馴染みの顧客は戸惑うばかりで、素材やデザインは目立って若返ることはなかったから疑問に思ったことを覚えている。

前掲記事

後継者一人では厳しい難局と思います。資金面・業務改善面は金融機関・経営コンサルタント等の有識者をうまく使いつつも、コンセプトは自ら立てる、という進め方ができるか。痛みを伴う人員整理を、会社の強みを損なわずにできるか、というところがポイントになります。

この記事のように、100億円という数字が先にくるあたり、ちょっとズレているとは思います。自分が経営者ならば「顧客に選ばれる力」をもう一度磨くという方針を取るだろうと思います。色々あるので、現実はそんな簡単にはいきませんが…

さらに数年後、どうなっているか。というのが「時間差攻撃」による読書の楽しみです。本書は色々と考えさせてくれる題材でした。

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