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月の妹たち 第十一章 ~夢見る人形~

そろそろ、れんげ畑へ向かった幼い姉妹のことを話しましょう。
姉妹の艶やかな黒髪の頭がふたつ、遮るものもなく月に照らされて、鈍い光を跳ね返している。
ふたりは一面、可憐な花の咲き乱れる大きく広々と開けた畑にたどり着く。
見渡す限り緑がうねって、その上を可憐な薄紫色の花弁が贅沢に行き渡り、まるで宝石の散りばめられた人魚の住む海の底みたい。
姉妹の両目は月明かりにすっかり馴染んで、その全貌に安らぎと興奮を同時に感じ、自分たちがあっという間ににその場所の虜になるのを認めざるを得なかった。
妹の体が熱っぽく高揚するのが、繋いだ手を通して姉に伝わる。
月の光がさらさらと降り注ぎ、砂で出来たベールのようにれんげ畑一帯を不思議な光で包み込んでいた。
妹は姉の優しい手から離れて走り出す。小さな胸を感動でいっぱいにして、草の青い香りを身体中にまとい、花の絨毯の上を全速力で駆けていく。
姉は、妹が作り出した緑の深い色の道の上を、ゆっくりとお姫様の足取りで静かに進んでいった。
お月様、お願い、深くて遠い地の果てまで、この天国が続いていますように。
姉は役になりきると、月を見上げて泣きそうになる。広すぎる。祈るにはあまりに広すぎて、わたしは小さすぎる。
妹は、花冠を作ろうと、れんげの花を長い茎から手折って片手の中へ纏め、小さな花束を作り始めていた。
姉も別の場所、そんなに離れていないまっさらな花のある場所に陣取って、粛々と花冠を編んでいく。
ふたりとも、とき折りお互いの花輪の長さを見せ合い、声を立てて笑った。
長い長い間、そうして冠を作ることに熱中していると、自分の手が次第に勝手に動き出し、制御できなくなる気がした。
機械仕掛けの花冠作り人形が二体、きらめく翡翠の絨毯の上で途方に暮れている。
姉は思う。これは美しくも残酷な刑罰なのかもしれない。いまにからくり人形師が現れて、わたしたちを鞭打って、もっと多くの花冠を作らせるんだ。
だけど、妹は違っていた。わたしたち姉妹で、花冠屋さんを開いたら、国中に花冠が行き渡って、またたく間に大金持ちになるのだ。
そして、大きなぬいぐるみで出来たふわふわのお城に住んで、姉とふたりきり、永遠に眠り続けるの。
そう、生まれてはじめて安心して、眠りの奥底へ落ちていくの。

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