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月の妹たち 第十二章 ~兆し~

ふたりのそっくりな女たちは、一人はハイヒールにミニスカート、ひとりは薄い寝巻きに草刈機を担いで、歩き出した。
あなた、それ重くないの?ハイヒールの女が訊ねると、あなたはその靴、痛くないの?寝巻きにサンダルの女が軽々と草刈機を持ち上げて聞き返す。
奇妙な二人組は、道なりに坂道を下り、線路に行き当たると、直立不動の遮断機を横目に、いよいよ人気のない、田園地帯へ入っていった。
舗装された道が途切れたことで、ひとりの女はハイヒールを脱いだ。ほらね、と言わんばかりに草刈機の女が目配せする。
そうして、ふたりして行くあてもない真夜中の彷徨を続けていると、だんだんと月明かりが強くきつくなる感覚がした。
周りの風景の中に、時折、見慣れぬ人間の姿が認められて、蠢きだす。気がつけば、驚くほどたくさんの女の子たちが、この闇の中には隠れている。
例えば、古い朽ちかけた木の電柱の下には、メガネをかけた少女が、月明かりを頼りに辞書を引いていて、その足元で小さな女の子がメガネの子の言葉を頼りにクロスワードパズルを解いていた。
もっと山深い沼のほとりでは、ふんわりとギリシャ風のワンピースを着た女性が数人、川を飛び越える競争をしていたり、あぜ道に退屈そうに座り込んだりしていた。
そして、山の小さなトンネルの中では、カチャカチャとバタフライナイフを回す音が鳴り響き、
暗がりには、長い髪をポニーテールに結い上げて、黒い革ジャンを着た1匹狼の女の子がくつろいだ態度でその場を仕切っている。
奥にはどれだけの少女の集団が控えているかわからない。
双子の女たちは、それらの女性たちの様子を、驚くべくもなく、ただ漫然と眺めると、黙って通り過ぎた。
だって、自分達こそ、その同じ月の下に描かれるべき同種の女たちなんだもの。
誰にも言えない奇怪な事情を抱えて彷徨うしかない、孤独で、特殊な、同族たち。
どれだけの人影のそばを落ち着きなく足速に通り抜けただろう。気がつくと、東の山陰の奥に、白っぽい本物の朝の予兆がわずかに見てとれた。
ざわざわと、影たちは別れを告げる。集まっていたものは解散し、ひとりで来たものは踵を返し、来たときと同じ早さで潮のように引いていく。
わたしたち、ちょっと遠くまで来すぎたかしら?
白む空の端っこで、月がまだ輝いているのが見えて、二人の油断を誘う。
夜はまだ終わらない。魔法はまだ、続いている。

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