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月の妹たち 第二章 ~犯行~

カエルの鳴き声がすぐ近くでコントラバスの響きを真似て聞こえる夜、それは周囲の青さに溶け込んで、永遠を手にしたように繰り返される。
夏が迫っていた。
片方だけ開け放たれた重いカーテンが創り出す、長方形の薄明かりが、部屋の中に冷たい月の光を投げかけている。窓辺に置かれた扇風機の微風が、廻っては通り過ぎ、まるで闇が規則的に大きなため息をついているようだ。
ベッドの上のふたつの人影は、そのため息に包まれて、安らがずに起きていた。
眼が四つ、月明かりに向かって視線を伸ばしている。
まっすぐ素直な髪が、一房、妹とおぼしき女の子の額からめくれあがっては、落ちていく。それを見守る年上の女の子のこころには、孤独なユニコーンが降りてきて、妹の姿と重なり、やがて空へ向かって駆けていく残酷だが的確な妄想が浮かんだ。
どこにも行かないって約束して。
姉は、妹に命令する。
行かない。どこにも行かない。月にだって行かない。
頼もしい返答と、幼い怯えに、姉は満足して、ゆっくりとピンク色の掛布を押しのけて起き上がる。
月明かりはますますその青い輝きを夜に広げ、ふたりの部屋の長方形の窓を通って、ベッドに座ったふたつの人影を後ろの壁に長く映し出した。
壁には、ピアノコンクールの賞状がふたつと、絵画展で飾られた馬の絵、母の日にプレゼントしたママの似顔絵が飾ってある。
しかし、そのことを意識しているのは、母親だけで、姉妹にはまったく関係のないただの壁だ。
それが、不穏な影に彩られようと、自分たちの秘密を後ろからのぞき見していようと、まったく関係ない。
ふたりは、パジャマのズボンを脱いで、水玉模様のおそろいのスカートに着替えると、外着を羽織って裸足の足に靴下をはく。
妹が手間取っている間に、姉は勉強机の横に掛けてある、学校用のトートバックから、上履きを取り出す。
妹が心配そうに姉の姿を凝視するが、彼女はもう弾けんばかりに緊張しているのだった。そう、言い換えれば、興奮している。
青い長方形の窓は、網戸だけになっていて、簡単に突破することができそうだ。相棒がへまをしない限り、完璧な夜の犯行。
姉は振り返って、逆光の影の中、あごで出発の合図をする。
月明かりのせいだ。
これは、限界まで熟れた梨のような、あの夜空から落ちてこようとする、危険な月のせいなのだ。

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