見出し画像

孤独も愛せるように

信条としている事がある。

それは、直に自分の目で見たこと、耳で聴いたこと、心で感じたことを大切にしたいということだ。
これだけ聞くと、人を信用出来ないのかという感想を持ちそうだが、そうではなくて。

でもなんかうまく説明出来ない自分がいて。
そんな自分が少しもどかしくて、心がモゾモゾしてて。

先週、映画「ちひろさん」を観た。
結論を言うと僕のもどかしさは少し解消された。
今からお伝えするのはネタバレになるので、観ていない人はここまでとしてほしい。

公式HPにはこう書いてある。

きっと彼女に、会いたくなるー。
ちひろは、海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働く
元・風俗嬢
ちょっと口が悪くて、マイペース。
そして自由。
そんな彼女は街で浮いている。
へんな”おとな”だ。
でもなんでだろう、彼女に会いたい。
ひとり母の帰りを待つ小学生、誰にも本音が言えずにいる女子高生、
そして無口なホームレスのおじさん・・・・
ちひろの優しくない言葉と素気ない態度が、さびしくて不思議とあったかい。
この不思議を体験しに、さあ、ちひろに会いに行こう。

後で知ったんだけど、監督は今泉力哉さんで、最近「街の上で」もちょうど観たところだったし、冒頭になんか聞き覚えあるメロディーだと思ってたら音楽はなんとくるりの岸田繁で、主題歌はくるりの「愛の太陽」。ファンなのに全然知らなくて笑 まさしく僕のために創られたような映画だった笑

まずもって言えるのは、とても映像がキレイ。やっぱり海の情景はとても良くて、物語に花を添えてくれる。海のおかげで、登場人物の感情がより深く感じられる。
特に良かったのが、ちひろさんとオカジという女子高生がくるぶしまで海に浸かるシーン。
オカジは家族とのことで大きな悩みがあって、以前から気になっていたちひろさんを隠し撮りしている。それにちひろさんはとっくに気づいている。けど、何も言わない。何も聞かない。意を決してちひろに声を掛ける。

オカジ「あのう、隣いいですか?」
ちひろ「・・・・どうぞー」
オカジ「あの・・・何も聞かないんですか?」
ちひろ「何を聞くの?なんか聞いて欲しかった?」
オカジ「いや、そういうわけじゃないんですけど、気になりませんか?普通。名前とか、年齢とか、目的とか。どんな人か分かんないのって、不安じゃないですか?」
ちひろ「そんなの当てにしたことないもん。第一、それが本当のことか分かんないし。風俗嬢ってそういう仕事だったしね。その人がどういう人か、目を見れば分かるよ。なんつって笑」

このシーンがとても好きで、何度も観てしまっている。
まず夕日が沈みかける時間で、水辺に夕日が反射して、とてもきれいなのだ。
そして、同時にちひろの強さを感じられる。
人を心の眼で見ようとするちひろには、孤独と優しさが感じられる。
哀れだとか、可哀想だとか、そんな感情は彼女から感じられない。

僕はその時に想った。
冒頭に記した僕の信条はこういうことなのかもと。直に見て、聴いて、感じることは全て人に対しての想いなのかもと。
見た目とか、生まれとか、肩書きとか、育ちとか、仕事とか、出身校とか、紙に記せるような薄っぺらいもので、ただそれだけで人を判断しないようにしたいという想いなのかもしれないと。

僕らは何かしらの生きづらさを抱えて生きているように思う。
そんなの一つもないよって人はおそらくいないと思う。
他人が幸せかどうかなんて、誰も分からない。
他人がそんなの判断すべきじゃない。それが家族であってもだ。
もしかしたら、本人も分からないのかもしれないけど。

抱えている悩みや生きづらさは、やがて孤独と化すのかもしれない。
「ちひろさん」を観て感じたのは、「孤独」は美しいということ。

ちひろからは深い深い孤独を感じる。しかし、ちひろはその孤独を、人に押しつけず、ひたすら与える側に回る。
適度な距離感で、相手の心を癒していく。
その姿勢は、美しいという言葉がとてもしっくりくる。

人は孤独を感じると、どこかで埋め合わせようとする。
寂しいから、誰かと一緒にいて、その寂しさを忘れようとする。
でも、それは本質的な解決には繋がらない。ただ寄せては返す波のように、寂しさはいずれやってくる。
忘れようとするのではなく、寂しさと共にいる、寂しさを愛すようになるべきだと、この映画は教えてくれているような気がしてならない。

耳を塞ぐのではく、寂しい自分の声に正直になってみる。
海の底のように、静かな場所へ、深い深い所まで。
みっともないとか、カッコ悪いとか、そんなのは無しで。

孤独を愛せるようになった時、まっさらな心で人を見る事が出来るのかもしれない。
僕はまだまだ寂しい時は猫のようになってしまうけど、いつかその境地に辿り着いてみたいと思う。
感謝を込めて、また今日も歩いていきたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?