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48話-七帝柔道体験記 前編

私が七帝柔道と出会ったのは、神戸の柔専館にいた時、末永さんと言う阪大に通っていた方がいた。

背が高く細い体の割に体幹がしっかりしていて、フックやバタフライのガードが上手く、襟や帯をガッチリ掴むスタイルは柔術のガードスタイルとは違い好戦的で早い展開の寝技スタイルだった。

その中でも特出した不思議な技が十字絞めだった。

末永さんの十字絞めはマウントを取られていても下から極まる。

クローズの中から仕掛けても、極まると言う我々柔術家の理屈からすると謎でしかなかった。

細い体に一体どんな秘密が隠されているのか私は気になった。

その時、高専柔道と言うモノを初めて知った。

高専柔道、別名七帝柔道。

北から北大、東北大、東大、名大、京大、阪大、九州大の七帝大学の柔道部のみに存在する高専柔道部。

そのスタイルは、徹底的に寝技を鍛えると言うもので、代々この七大学の中で行われる七帝戦と言う試合は15対15の勝ち抜き戦をし、投げれば一本だが寝技に柔道で言うところの「待て」がない。

これがどのように作用すると言うと、立ち技の実力が劣るものでも寝技で凌げば引き分けにする事が出来き、団体戦のマスを優位に進めることができる。

すると頭の良い学生達は考えた。

寝技で亀や相手の動きを止める事が出来るのであれば、大学から柔道を始めても、子供の頃から柔道をやっているような一流立技師と分ける事が出来るのではないのか?と。

そして、七帝戦が行われると、15人の中には分け役と抜き役と言う立場に分かれ行うチーム戦になった。

実際亀でガッチリ守った相手をひっくり返して抑え込みで一本取ったり、絞めや関節技で一本取る事は難しかった。

その中で学生達は色んな技を考案していった。

下からの三角絞めは「松葉絡み」と呼ばれ、立技しかやっていなかったもの達を苦しめた。

三角絞めや十字は持ち上げれば待てになる。

なので、ある者は髪の毛を伸ばし、「三角絞めで持ち上げられても、髪の毛がまだ畳に着いているから待てではない」と言う屁理屈のような理由を考え出す者もいたようだ。

ちなみに話は戻るが、末永さんの十字絞めは親指の第一関節を突き立てて頸動脈に当て極めていた。

指のピンチ力が半端じゃなく強かった。

瓶の蓋なんかも指で開けれるぐらい、昔は指を鍛えたようだ。

空手バカ一代の世界のような話だが、七帝柔道にはそんな突飛な考えをした人が多かった。

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