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46話-激闘再び

コパバルボーザのトーナメントにエントリーし、ブラケットを確認すると、一回戦から私とアマゾンの試合が組まれた。

しかし、逆に私はチャンスだと思った。

どこかで消費した状態では、絶対勝てないと思っていたからだ。

しかし、前回の18秒の試合が何度も頭を廻り、私は試合が決まってからずっと恐怖だった。

前日たまたま青山に試合用の道着を取りに行った。

その時、石川代表が作業していたので、ふと私は尋ねてみた。

「俺は明日勝てますかね?」

「勝てるよ。お前の方が強い。」

たったこれだけの会話だったが、私は勇気付けられた。

当日、新幹線で名古屋へ。

健一さんと、マサキさんの三人で行った。

そして試合の時。

私の名前が呼ばれた。

審判は生田さん。

私はアマゾンさんを見た。

ゆらーっとしていた。

私は思い出し天井を見た。

「結構高いな天井。」と思うと我に帰った。


試合が始まった。

アマゾンさんがスーッと寄って来た。

私はバックステップしてすぐタックルに行った。

そして引き込み。

ハーフガードになった。

アマゾンさんがベースを取る。

ディープハーフの一度目の入り込みは不発しハーフで抑えられた。

凄い力だと思った。

だが時間を少しずつかけディープハーフへ。

そしてラペラを膝の裏で繋いだ。

準備は出来た。

しかし私はまだ足りないと感じた。

なので、ワザとラペラを通したままアマゾンさんが攻めてくるのを待った。

アマゾンさんが袖車締めに来た。

まだ早い。

私は待った。

アマゾンさんが二度目の袖車に来ようとした瞬間。

スイープ。

返した。

抑えて2点。

最初の先制は成功した。

しかしまだ9分近くあり、本当の勝負はここからだと集中し直した。

下からアマゾンさんの猛攻が始まった。

厄介だったのは左袖のグリップが強烈で全然外れなかった。

下からスイープしてくるのを腰を切っては逃げ、頭が下がると小手絞り締め、オモプラータ、三角と攻め立てられた。

三角で捕まえられてディフェンス、力づくで外すと次はまた小手絞りに来た。

私はこの展開は予想していた。

そしてこの勝負になると分かっていた。

だから出来るだけアマゾンさんには疲れてもらわなければいけなかった。

しかし疲れさせるとは技を受け止めなければいけない。

だからアマゾンさんの技に対して、100パーセントで来たら120パーセントで受け止め返す方法を取った。

しかし攻め続けているのはアマゾンさん。

一度スイープされかけたのを全身を伸びた状態で耐えた。

すると肋がボキッと鳴った。

しかしアドレナリンのおかげで痛みは感じなかった。

折れてもやめるつもりは無かった。

だんだん試合が後半になるにつれて、アマゾンさんの力が落ちているのを感じた。

もちろん私も力がなくなって来ていたが、手が力を入れ過ぎて痺れていたが気持ちの勝負だと思いしがみついた。

あと30秒!と言う声が聞こえた。

30秒!耐えれば俺の勝ちだ。

絶対勝つ!!

絶対に勝つ!

と何度も心で叫んだ。

最後まで動き切った。

勝ちにしがみつくとは正にこの事のように感じた。

試合が終わった。

両者倒れ込んだ。

私は、勝った。



まさに死闘だった。

全力を出し尽くした試合だった。

アマゾンさんの猛攻を紙一重で耐え続けて勝利した。

凄い歓声と拍手が送られた。

それほどの相手だったと言える。

紛れもなく番狂わせだったと思う。

私はコートを出ると泣き崩れた。

怖さもあったし、何より嬉しかった。

私は柔術の事以外で嬉しくて泣く事なんてなかった。

しかし人生を懸けると重さも違い、本当に心から勝ちたいと思った相手に勝てると言う幸福を感じた。

アマゾンさんが試合後、「今日はやられました。」と爽やかに声をかけてくれた。

私はその後肋の負傷で棄権。

アマゾンさんは無差別級を優勝していた。

会場中のみんなが凄かったと言ってくれた。

こんなに認めてもらうのは初めてだった。

その後バルボーザ先生にも声をかけてもらった。

「オマエ、アマゾンに勝つのすごいねー!」

といつもと変わらない感じだったがなんかよそよそしかったので気になって聞いた?

「先生俺の事覚えてる?」

「?」

先生は俺の事をすっかり忘れていた。

サンパウロで先生に黒帯を貰った経緯を話すと、今までたくさんの黒帯をあげ過ぎて一人一人なんて覚えてられない!との事だった。

先生マジかよ…

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