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57話-アジア選手権
全日本の後にすぐアジア選手権が待ち構えていた。
アジア選手権には世界からの強豪が来ることもあって、世界選手権への登竜門のような存在の大会であった。
私はアジア選手権に向けて気合を入れるため坊主にした。
坊主にすれば気合が入ると思ったわけではない。
ただ単純に、全日本王者に初めてなって浮かれている自分がいることに気がついた。
心のどこかで、カッコつけようとしている自分を、客観的に感じてダメだなと思った。
私は次の日、チームメイトの岡崎に髪をバリカンで刈り取ってもらった。
そしてアジア選手権に向かった。
一回戦は順当に勝ち、二回戦で大塚さんと再戦だった。
最初ダブルガードになり私が上になりアドバンテージを取った。
今回は立ち合いを相当警戒した構えだったので、テイクダウンは頭に入れず、上になった。
そこからスパイダーとラッソー、クローズ、ラペラを連携して硬いガードを作って来た。
私はパスの圧力を強め、焦点をクローズとラペラに絞った。
何度も接近戦を挑み突き放す大塚さんを、どんどん追い込んだ。
多分これを繰り返せばいつかチャンスは来ると思って攻めた。
この戦い方ができるのは、あの心肺トレーニングの成果があってのことだった。
最後の1分でハーフで抑えパス。
3−0で勝つことが出来た。
そして準決勝。
塚田さんと再戦、かれこれ4度目の対戦だった。
塚田さんと組み合うと、一瞬ダブルガードになりかけたが、私の方がすこし早かった。
ハーフに入り込み塚田さんは、柔道抑えに私は前回スイープしたモーションと同じモーションで違う技をかけた。
塚田さんレベルなら反応するだろうと、塚田さんの反応の良さを信用してのスイープだった。
ハーフガードは心理戦もかなり重要になる。
小さい囲いの中だからこそ、駆け引きが必須なのだ。
そしてトップへまた私はパスの圧力をかける。
私は先行していたので守りを重視しながら戦った。
今回は塚田さんも私のトップの守りの堅さを知ってか、三角締め、オモプラータを多用して来た。
私はそれに負けないようにしっかり対処。
ラスト20秒はオモプラータに入られたが、立ち上がって塚田さんをぶら下げたまま試合終了。
2−0で今回も勝てた。
塚田さんとの戦いは毎回接戦だった。
そして決勝。
イザッキ・パイヴァ。二度目の対戦だった。
一度目は三角締めで負けている相手だった。
今回アジア選手権での優勝候補。ワールドクラスは紛れもなくイザッキだった。
イザッキは世界3位の実績を持つ選手で、フェザー級にもかかわらず身長が185cmもある長身の選手。私とは体格が大きく違い。
長い手足を利用した三角締めやクローズドガードが得意な選手だった。
向かい合うとさらにでかい。
試合が始めるとともに、イザッキの速攻の引き込みに合わせテイクダウン。
2−0
このままトップキープして様子を見ようとしたら、イザッキは対角の足をクローズドガードから掬って来た。
普通はありえない体勢でイザッキのリーチと柔らかさがなせる技だった。
それに巻き込まれ私はポジションを失いバックを取られ締めにより負けた。
圧倒的に負けて頭が真っ白になった。
世界レベルはまだまだ遠いなと感じる一戦だった。
その大会はチームメイトの橋本も強さんも、みんな2位だった。
変なぐらい銀メダルばかり取った大会で、
「俺たちまだまだだな」
と再確認した。
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