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技術系スタートアップにおけるアライアンス交渉・契約交渉

こんにちは。
技術を使った事業開発の体系化を通じて、技術が公平に正当に提供される世界を目指しています、菅野です。

今回は知財法務編です。

私自身は、弁理士でも弁護士でもなく、事業開発スキルの一部として知財法務を扱っています。本投稿は、私と同じような立場・レベル(=つまり、知財法務の専門家ではなく、事業開発の一ツールとして使用)の方々を対象としています。

技術系スタートアップが、外部パートナーとの情報交換を行うための「秘密保持契約」を結んだり、外部パートナーや顧客が保有するアセットと自社技術を組み合わせる共同開発を行うために「共同開発契約」を締結することはしばしばあると思います。

知財はすべて我々のものだ
実績のない技術になぜお金を出さなければいけないのだ
などと相手方から主張され困ったご経験、ないでしょうか?

権利・知財の取り合い、細かな文言修正のやり合いになり、
契約書の修正Ver.が10を超え、真っ赤になったご経験、ないでしょうか?


私自身は、マイクロ波化学、ファーメンステーションという技術系スタートアップで、技術をソリューション・サービスとして提供する事業の立上げや仕組化を6年ほど行ってきました。その過程では、幾度もの契約交渉を行ってきました。

一定の「スタイル」や「勝ちパターン」のようなものを確立できましたが、事業開発のキャリアを始めてすぐ、経験ゼロの頃には、
幾度もの失敗をさせてもらいました。

私自身の苦い経験も踏まえて、今回は、技術系スタートアップで契約知財交渉に携わっている or 携わろうとしている方々向けに、何か参考になるような情報をご提供できればと思います。



1)よくある失敗例

まず、アライアンス交渉・契約交渉において、しばしば見られる例をご紹介していきます。

世の中には、勝ち負けを明確に決めなければならない交渉も存在するでしょう。訴訟に近いものでしょうか。
ここでは、会社間・会社ー大学間等での協力関係を構築するというような、当方と相手方とで同一の目的を持っているケースを前提にします。



さて、過去にご自身や仲間が同じような状況になったご経験、ないでしょうか。


【マインド面】
・正解や"How"を求める傾向にある。
・正解はひとつだと思っている。
・交渉は、取り合い・勝ち負けだと思っている。
・弁護士、弁理士の意見が絶対だと思っている。


【テクニック面】
・契約締結の目的が明らかでない。
・全体像・ゴールが見えない。
・統一されたポリシーなく、対症療法的になっている。
・突然、WORD契約書を送りつける。
・長文メールで交渉する。


このような状況に陥る交渉担当者にしばしば共通することとして、
・自社の交渉ポリシーを設定できていない
相手方と「考え」をすり合わせる作業をできていない
・合意に向けた「協力」関係を相手方と構築できていない

ことがあると思います。


では、どうすればよいのでしょうか?


2)交渉の成果を最大化するコツ


私は、具体ではなく抽象から、HowよりもWhyを心がけることが重要だと思っています。

「とりあえずNDA締結しましょう」という打診、よくあると思いますが、今日からやめましょう。突然WORDの契約書案を送り付けるのも今日からやめましょう。

人間の心理特性なのか不思議ですが、
詳細で仰々しい契約が届くと、途端に守りの心理が強まり、
自社に不都合な契約文言をいかに変更しクリアするか「How」「勝ち負け」に意識が偏ります。


では、どうするのか。

①交渉前の地ならし
突然具体から入るのではなく、Whyからシンプルに協議をスタートします。

交渉に入る前に、最低でも以下のような内容について、相手との会話を通じてすり合わせましょう。これらは最低限の前提条件です。
・なぜ協業するのか?
・契約のスコープは?
・契約における相互の役割分担は?

この確認すら無く、契約案を送り付ける例が非常に多いですが、
前提の確認なく交渉が始まれば、双方にとってより良い契約を作り出すことは難しく、細かな文言ベースでの勝ち負けを争う交渉になっていくでしょう。抽象⇔具体の行ったり来たりが発生し、交渉難易度も高くなります。

アライアンス締結において、多くの場合、相手は敵ではありません。
お互い説得すべき人間が、自社内にいます。むしろ、互いの会社を説得してアライアンスを開始するための協力関係としていきましょう。

本件を前に進めたいと私は思っています。もしあなたもそのつもりならば、協議をさせていただきたい。逆に現時点から難しいものを押し付けるのはお互いにとって良くない」などと、ハッキリ言語化するのも有効です。


②交渉を二段階に分ける
同じ目的や前提条件に基づき、相手と困難をクリアする関係を築けたら、いよいよ具体的な交渉に入っていきます。
しかし、この段階でもWORD契約案を送ってはなりません(簡易的なNDAなどは別)

交渉ポイントとなる主要部分にだけ絞った、タームシート、によるすり合わせを行います。これが最重要ステップで、商社やコンサル・VCでは当たり前の行為だと思いますが、製造業・メーカーでは使っている方をほとんど見たことがありません。
共同開発契約であれば、以下のような内容が網羅されていればよいでしょう。

・費用負担
・役割分担
・知財の帰属
・生じた知財の取り扱い
・事業化時のスキーム(実施するのか、実施許諾なのか etc)

これ以外の秘密保持期間であったり、出願時の手続き、他一般条項などはまだ必要ありません。


交渉者は、タームシートでの交渉に最大の努力を注ぎましょう。ここで基本合意できれば、あとはWORD契約書に落とし込むだけです。


タームシート交渉にも、コツがあります。
相手が言語化していない意図や深層心理へ、耳を傾けることです。

突然ですが、質問です。
相手方から「知財は共有でお願いしたい」と要求が来たとします。

あなたは、どうやって返答するか、テクニックを即座に考えていませんか?

(共有は困るな・・・。スタートアップだし、重要な技術は自社単独で保有したい)
(どうすれば、自社単独として説得できるだろうか。)

交渉の基本は、相手方の要求の理由・意図を正確に確認することだと私は考えています。

相手方は、知財共有をなぜ要求しているのか。
ストレートに聞くようにしましょう。相手の要求へ理解する姿勢を見せることにもなります。

知財共有を望む理由として、例えば、以下のようなものが挙げられます。
 a) 相手方も発明へ貢献していると思っている(or 思い込んでいる)から。
 b) 共有とすることで、他社に実施させない状況を確実に作りたいから。
 c) スタートアップを信用していないから。
 d) 共有としなければ、明示的な研究成果として残らないから。


相手方の要求理由が上記のいずれなのかによって、当方からのカウンターも変わるでしょう。例えば、b)であれば、必ずしも知財共有とせずとも、相手方に対して独占ライセンスするという解決策も考えられます。

これは、知財法務交渉における正解は1つではないことを表しています。
交渉経験が浅いうちは、どうしても専門家や上司に答えを求めがちですが、上記のように、どのような狙いが根底にあるかで答えは変わります。


反対に、当方から何らかの要求をする場合にも同様です。よく契約修正案を作る場合に、何の補足コメントも入れず、真っ赤の修正案を送ってくる人がいます。
このような修正案を受け取って、守りの気持ちにならずにいられるでしょうか。。。

先方交渉者にも、説得しなければいけない上司や社内関連部署があります。彼/彼女が上手に説得できるように、その材料を提供してあげましょう。


3)最後に

今回は、主にスタートアップx大企業におけるアライアンス締結・知財法務交渉のコツについて紹介しました。

交渉するのはあくまでも人間同士です。
テクニック・表面的なやり合いではなく、理由や感情もセットにした、リーズナブルなキャッチボールが増えていくと良いなと思います。


駄文、長文にお付き合いいただき有難うございました。
では。

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